第5話 千里(チーちゃん)

 ばーちゃんの声がひびく。

「浩介~ 朝ごはんだよ~」


 僕は女の子にしっかりと言い付ける。

「よっしゃ。ばーちゃんにちゃんとあいさつすんだぞ」

「うん。わーい、ごはんだ~」


 ごはんへの期待で尻尾が全開で振られていた。やっぱりこの子は柴犬しばいぬだ。


「ばーちゃん、紹介するよ。この子…… えーと」


 あー名前どうしよう。名前が無い。ロクセットって言う? 今のばーちゃんなら通用つうようしそうだな。そんな事を考えている内にばーちゃんが先に言い出した。


「あら~ 可愛い子。あなた千里ちさとじゃない? 千里でしょ。ずっといなかったけど、今まで何してたの? ごはん食べる?」


 ばーちゃん……、千里はあんたの娘であり僕の母さんだ。こんなに若くはないぞ。本当の千里はもうアラフィフだ。韓国ドラマが好きなおばさんだ。


「千里、早く食べなさい。良かったわ~ 最近見なかったからどこに行ったのかと心配していたのよ」


 若干じゃっかんつらい。ばーちゃん、病気がちょっと進行してんなあ。まあいいや、僕も食べようっと。そうしたら……


「あなた、どちら様?」


 ばーちゃんが僕に向かって変な事を言う。


「へ?」

「あの~、どちらの方?」


 ばーちゃんは怪訝けげんな顔を続ける。


「浩介だよ。浩介!」

「うちにそんな子はいません。気味が悪い」


 孫だよ~。ばーちゃん頼むよ~ 

 さっき「浩介~」って呼んだじゃないか。

 そんな様子を見て、千里(祖母命名)が助け船を出してくれた。


「おば……お母さん。浩介は私のボーイフレンドよ。ごめんなさい、図々しくて。ほら浩介、あいさつして!」


 千里(祖母命名)、お前機転が利くなあ。涙が出てきたよ。


「あ、あの初めまして。私、千里ちさとさんのボーイフレンドの浩介です。図々しく座って申し訳ありませんでした」


「こうすけ? 確か千里の旦那は春樹はるきさんだったような……」


 ばーちゃん、春樹は僕の父親だよ~。ややこしいなあ、しかも泣けてくる。

 ロクセット、いや千里(祖母命名)が耳元でささやく。


「もう、春樹でいいじゃない。早くご飯食べたいよ~」


 はい。じゃあ。


「ばーちゃ……お義母かあさん。実は僕は春樹です。こんにちは」


「ああ、ようやく何かしっくりきたわ。春樹さん、ずいぶん若くなったわね~ どうぞし上がって。さあさ、チーちゃんも」


 カオスだ。ばーちゃん、ついには「チーちゃん」って呼んでるよ。どんだけ記憶がさかのぼってんだ。今度、親父おやじとおふくろに文句言ってやる。ばーちゃん、やばいって。


「いただきまーす」


 ロクセ……千里が笑顔で朝食を食べ始める。食べるのが速い事、速い事。


 とにかくばーちゃんにより女の子の名前が決まった。千里ちさとだ。通称はチー。


(よりによって母親と同じ名前なんて……)



<< 第6話に続く >>


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作者です。えーと、わかりましたでしょうか?

祖母(まち:命名奇蹟さん)以下の関係は下の様になります。横読み推奨


ばーちゃん=まち(75)

  |

千里(50母:本物)- 春樹(父)

         |

      坂井浩介(19) - 千里【チー】(17? 新妹:元ロクセット)


痴呆症のばーちゃんは、女の子のことを娘の千里と勘違いしたんですね。20~35年ほど前の記憶がよみがえり混ざっちゃったんです。そのため浩介を千里の旦那、春樹だと思い込みました。

(ばーちゃんの中では孫・浩介は一旦消滅です w)

これ、しばらく続くので混乱しませんように


以上!

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