第3話 Mission 家に連れ帰る

 ロクセットが脱走した時の行動パターンはわかっている。散歩ルートから少し外れた小さい公園や人の家の庭などに忍びこむのがたいていの動きだ…… やばい! 人の家に行かれると見つかってしまう。全速力で走って探した。探して、探して、探し続けること三十分。いたー! 小さな公園にいた。


「良かったあ。早朝だからまだ人がいないよ」


 目が合う。ロクセット、いや女の子は僕のシャツを着て、すくっと立ったままこちらを見つめている。少し息が切れているようだ。たっぷり走り回って遊んだんだろう。いつものパターンだ。


「ロクセット~」


 猫撫ねこなで声で呼びながら左手をポケットに入れる。ロクセットは僕がその仕草をするとえさがもらえると思っていつもやってくる。この女の子にも通じるか?


 果たして、彼女は走ってきた! やった! もうこっちのもんだ。ポケットからグーににぎった手を前に出す。

 女の子はその僕の手に目がくぎけだ。そのすきにさっと女の子の腕をつかむ。ゲットした! 握っていた左手を開いて見せる。何もない! 女の子は眉間みけんにしわを寄せて不満を示す。


「無い! 浩介~」


 しゃべった! 話せるんだ。しかも人間の言葉で!


「あ、ああごめん。無いんだ。家に行こう。家でごはんをあげるよ」

 

 ここだけ切り取ると、変質者だな。誘拐容疑ゆうかいようぎで一発アウトだ。でももちろん女の子は言った。


「行く!」


 僕は彼女を車まで連れていき、車に乗せて家に帰った。ばーちゃんはちょうど朝ごはんを作っていた。


「ただいまあ」


 いつものことだが、特に返事は無い。食事の支度したくに集中している証拠しょうこだ。僕はそそくさと女の子を連れて自分の部屋に行こうと思ったが、彼女が裸足はだしで、足の裏が汚れていることに気が付いた。お風呂場に行って手足を拭いてあげた。彼女は少し嫌がったが、さっと拭くことができた。


 さて、部屋で。

「どうしよう」


 まず、服装をなんとかしなければ。いきなりの難関なんかん、下着だ。どうする? 僕のを穿かせるわけにはいかないだろう。ばーちゃんのを借りるか? それともすぐそこのコンビニで買って来るか? 女物の下着を? プルプル頭を振る。無理でしょ。一番いい方法が何か考え、そして決めた。


「ばーちゃん。食事の準備中、済まないんだけど、食事一人分増やしてくれる? あと女性用の下着買ってきてくんない? ショーツって言うの? あとシャツと」

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