地獄の門
「犯人はずばり海野先生、あなたです」
結城さんの言葉に空気がぴりつく。
「結城君。いくら君でも、その発言を許すことはできないな。証拠があるのかね?」
「もちろんです。先生、血文字を書くには、自身の指を傷つける必要があります。左手の人差し指に小さな傷がありすよ」
海野さんの左手を見ると、確かに小さな傷があった。傷は最近のものなのか、かさぶたができてから時間は経ってなさそうだ。
「ちょっと待ちたまえ。これはさっき紙の端で切った時にできたものだ! これだけで犯人扱いするのかね?」
「海野先生、あなたしかありえないんです。床にあった血文字は少しかすれていました。これは左利きの人物が書いたことを示しています。この中で左利きなのは、先生しかいないんですよ」
そうだ! 思い出した。一日目に倉庫の鍵を投げ入れた時、海野さんは左手で投げ入れたジェスチャーをしていた! これは海野さんが左利きであることの証左だ!
「動機は何か、そこまでは分かりませんけどね。先生のことですから、お金に目が眩んだということではないでしょう?」
結城さんの言葉に海野さんがうなだれる。
「動機は簡単なものさ。私は偶然、あの外国人――リッカルドがレオン氏を殺している場面を見てしまったんだ。彼は気づいてないようだったが。だから、殺してやったのさ。被害拡大を防ぐという正義のために」
そうか、リッカルドさんは殺人ゲームを楽しんでいたんだ。現場に血文字を残すことで。そして、自らの取り分を増やすためにも。だから、血文字は「強欲」だったのか。
「先生、殺人は犯罪です。たとえ、相手が殺人犯であっても。あなたは司法の手に委ねるべきだった」
迎えのクルーザーを待つ間、海野さんが暴れることはなかった。それも当然だろう。殺人犯リッカルドさんを殺して目的を達成したのだから。
「憂の国に行かんとするものはわれを潜れ。永劫の呵責に遭わんとするものはわれを潜れ。破滅の人に伍せんとするものはわれを潜れ」結城さんが呟いた。
「それって、どういう意味ですか?」僕が尋ねるとこんな返事が返ってきた。
「ダンテの『神曲』の一節さ。分かりやすく言うと、『破滅した人の仲間入りをする者は、地獄の門を潜れ』という意味だ。そう、海野先生はリッカルドさんと同じく破滅したんだ。行き着く先は――牢獄という名の地獄さ」
血染めの遺言状 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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