メスガキ・ザコオチンポ事変

瘴気領域@漫画化決定!

メスガキ・ザコオチンポ事変

 記念すべき第百回多摩川散歩賞作品は満場一致で決まった。

 タイトルはユーフラテス川殺人事件。シュメール文明をモチーフとした硬派な歴史ミステリだ。それはいい。だが、問題は作者のペンネームにあった。


 筆名が「メスガキ・ザコオチンポ」だったのだ。


「第百回多摩川散歩賞作品は――(ドラムロール)――メスガキ・ザコオチンポ先生のユーフラテス川殺人事件です!」


 歴史と伝統を誇る多摩川散歩賞において、こんな発表が許されようはずもない。選考委員たちは作者にコンタクトを取り、このふざけたペンネームの変更を要請した。


 しかし、ここでまた問題が起こった。


「メスガキ・ザコオチンポは私の本名です。父方の祖父が古代シュメール人の生き残りで、『強く輝く星』という意味を込めてつけてくれました。私はこの名前に誇りを持っています」


 これを聞いて選考委員たちは青ざめた。外国人の本名をふざけていると馬鹿にしてしまったのだ。これは昨今のポリコレ的に非常にまずい。


 案の定、この問題はマスコミにリークされた。槍玉に上げられ、ニュースは「メスガキ・ザコオチンポ」一色で塗り潰された。BBCやCNNも大々的に報道し、外圧が大好きな野党は国会で問題に取り上げた。内閣閣僚に多摩川散歩賞受賞経験者がいたからだ。これは正直とばっちりであるが、世間は沸いた。


 3ヶ月ほどにわたったバッシングの末、ついに多摩川散歩賞は白旗を上げ、「選考基準にペンネームは今後一切含まず、また受賞後の変更も要請しない」と約束した。どこからか湧いてきたポリコレ戦士たちはこれに快哉を上げた。


 そして来る第百一回多摩川散歩賞で異変が起きた。

 予断を交えぬため、最終選考までは筆名を完全に伏せる体制になっていたのだが、最終選考に残った作家たちのペンネームが軒並みすごいことになっていたのだ。以下に列挙しよう。


・うんこてぃんてぃん丸

・かめあたま製麺

・ぷいきゅあ★がんばえー♪

・里市光宙(さとしぴかちゅー)

・<font color=”red”><b>山田太郎</b></font>

・†漆黒の堕天使†

・江戸川乱歩Jr.

・二葉亭四迷Jr.

・太宰治Ver.2.0.3


 なお、同列に並べたが里市光宙だけは本名だったことがいっそう不憫だった。


 選考委員会は紛糾し、死者2名、重傷者6名を出す惨事と化した。後に云う「血の多摩川賞事件」である。これを期に、多摩川散歩賞はついに完全匿名制に踏み切った。出版しても作者の名前は出さない。そういう仮面新人賞になったのだ。


 しかし、人間とは悪いものでこうなると自称多摩川賞作家が無限に発生し、各地で小説塾を開いたり、選挙に出馬したり、詐欺を働いたりキャバクラでモテようとしたりした。アレオレ詐欺ならぬタマオレ詐欺時代の到来だ。


 かくして多摩川散歩賞は瞬く間に権威を失い、第百三回をもってその歴史を閉じた。


 文学研究家は「実質的に多摩川散歩賞は第百一回で歴史的役割を終えた」と言っている。それは確かに事実だろう。だが、それでも俺は多摩川賞に感謝している。


 なぜなら、こんなことがなければ俺、本名「里市光宙(さとしぴかちゅー)」は絶対にデビューできなかったからだ。


 あれから何十年も過ぎた今でも、俺はメスガキ・ザコオチンポ先生の命日に欠かさず線香を上げている。


(了)

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