一件のかどわかしを巡る人と家と初恋の物語
- ★★★ Excellent!!!
三浦半之丞の入門と入れ違い、江戸へ剣術修行に出かけていた成沢忠弥が堀内道場へ帰ってきた。とあることから幼少期に忠弥と出会って以来ずっと彼に憧れ、それ以上の想いを抱いていた半之丞である。それがついに剣と剣とで想い人と繋がる夢のような日々が幕を開けるかに思われたが……他ならぬ忠弥と出会ったあの日のことが彼の足を引くのだ。
半之丞くんは6歳のとき、かどわかし(誘拐)に合いかけたところを忠弥さんに救われました。それがすべての始まりで物語の軸、なのですが。ここからシンプルな初恋話が始まることはありません。かどわかしの裏に隠された真実やそのことと忠弥さんとの関係、もちろん渦の中心に在る半之丞くんのことまで、すべてがどろりと交わって思いがけない先へ進むのです。設定を絞り込んだ上で全部使い、こうも太いストーリーラインを縒り合わせる筆力、本当にすばらしい。
ひと言で表すならば「情」の物語、ほろ苦くも清々しいラストシーンをぜひとも味わっていただきたく!
(「酸いか甘いか 初めての恋」4選/文=高橋剛)