江戸時代の雰囲気を色濃く描いた感動的な恋愛ドラマです。
物語は、幼少期の出来事をきっかけに心に深い傷を負った主人公が、自分の道を見つけるための旅路を描いています。
江戸の街並みや剣術修行の厳しさ、そして人々の温かさが繊細に描かれており、読者をその時代に引き込むパワーを感じました。
本作の魅力は、何といってもキャラクターの深い心理描写と、物語の進行に伴う心の成長です。
主人公が抱える葛藤や、その中で見出す希望がリアルに感じられ、共感する事は間違いないでしょう。
また、剣術や友情、恋愛といったテーマがバランスよく織り交ぜられており、江戸時代の美しい風景描写と共に、歴史的な背景を感じながら物語を楽しむことができます。
江戸時代の雰囲気と人間模様に興味がある方や、歴史小説が好きな方には、必見の一作です。
作者様の卓越した筆致による情感豊かな物語を、ぜひ一度お楽しみください。
三浦半之丞の入門と入れ違い、江戸へ剣術修行に出かけていた成沢忠弥が堀内道場へ帰ってきた。とあることから幼少期に忠弥と出会って以来ずっと彼に憧れ、それ以上の想いを抱いていた半之丞である。それがついに剣と剣とで想い人と繋がる夢のような日々が幕を開けるかに思われたが……他ならぬ忠弥と出会ったあの日のことが彼の足を引くのだ。
半之丞くんは6歳のとき、かどわかし(誘拐)に合いかけたところを忠弥さんに救われました。それがすべての始まりで物語の軸、なのですが。ここからシンプルな初恋話が始まることはありません。かどわかしの裏に隠された真実やそのことと忠弥さんとの関係、もちろん渦の中心に在る半之丞くんのことまで、すべてがどろりと交わって思いがけない先へ進むのです。設定を絞り込んだ上で全部使い、こうも太いストーリーラインを縒り合わせる筆力、本当にすばらしい。
ひと言で表すならば「情」の物語、ほろ苦くも清々しいラストシーンをぜひとも味わっていただきたく!
(「酸いか甘いか 初めての恋」4選/文=高橋剛)