第5話 いない
「ママー、にゃんこがいないの」
猫を見に行っていた隼人が息を切らして帰って来た。
アレルギーが発覚した蒼一郎はそれを大人しく待っていた。
「いないって、どういうこと?」
「初めは赤ちゃんが5個いたんだ。それが4個になっちゃって」
「ハヤト、猫は1匹、2匹って数えるんだよ」
ルナは隼人の額の汗をタオルで拭った。
「おにいちゃん、あかちゃんいないの?」
「おにーたん、あかたん、いない」
蒼一郎とナナが声を揃える。
「外に出て行ったのかな?」
「まだ歩けないでしょ。自分から出て行くことはないと思うけど。あとで守衛のおじさんに訊いてみようね」
幼児置き去り事件から1週間が過ぎた頃、海外出張から帰って来たご主人が、妻と娘がいなくなったと最寄りの警察に届けを出した。
ルナールで撮られた写真を見せたところ妻に間違いないと言う。
隣県で交通事故にあい意識不明で担ぎ込まれた女性の家に電話しても留守番電話になり、救急病院も途方に暮れていた。
留守番電話に気付いたご主人が病院へ確認しに駆けつけたところ本人に間違いないということで、施設にあずけられていた幼児も引き取られた。
ただ、子どもを預けてまで隣県に行くような用事は、ご主人にも思い浮かばなかったという。
ルナは悩んでいた。
子どもたちに本当のことを言おうか、いや、そんなこととても言えない。
「猫の赤ちゃんたち体が弱くて育たなかったみたい」
「えっ、それで死んじゃったの?」
「うん」
「にゃんこたん」
ぶえーん。
これだけでも充分刺激があったようで、3人の子どもたちは次々に泣き出した。
「どうしたんだ?」
帰宅したカズが目を丸くした。
「体が弱くて育たないと判断した子は母親が始末したりすることがあるらしいの。出産後は過敏になっているから、人間が触れても守ろうとする行動からそんなことがあるんだって」
「始末って、食っちまうのか」
「それに母猫は出産後で体力消耗しているから、滋養つける意味もあるみたい」
「へえ、考えられないことがあるんだな」
カズは涙ぐむルナをそっと抱き締めた。
この一件はルナにとってもショックな出来事だった。
「ルナちゃん、もうそろそろ次の子を」
「え~、せっかく身軽になったのに」
「神から授かりしものだよ。それを拒んだら神への冒涜だよ。ルナちゃん」
「いつから神を信じるようになったの、カズさん」
カズとルナの甘い夜は更けていった。
子どもを授かったかどうかは神のみぞ知る。
【了】
ナナたん オカン🐷 @magarikado
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