【短編】晴れた日の午後に、あなたと紅茶を。

鳴瀬憂

00Lolitagirl*Lolitaboy

 "Lizy's lady"だ。


 わたしは思わず足を止めて、横断歩道の向こう側を颯爽と歩いていくその姿を凝視した。くるくると軽やかなミルクティー色の巻き髪をなびかせ、チェック柄のケープを纏い颯爽と街を闊歩する「彼女」。かつかつとココアブラウンのブーツは高いヒールがある編み上げのもので、とにかくかっこよくて綺麗だった。


 まるでお人形さんみたい。ケープに隠れてよく見えないが、ふわりと裾が広がったこっくりとした赤紫ボルドーのワンピースはパーティーに出掛けるドレスみたいだ。

 インターネットの通販サイトでしか見たことがない、可愛い恰好をした女の子をわたしはじっと食い入るように見てしまった。


 それに引き換え地味で野暮ったいパーカーとジーンズで、家の近くのコンビニまで買い物に行くためにあわてて部屋着から着替えた雑な格好だ。

 あの子はどこか目的をもってどこかに向かっているのだ、とわかる。それもきっと素敵な場所に。


 どこに向かっているのだろう――気になって信号が点滅し始めてからわたしは彼女のあとを追いかけていた。あんなに高いヒールを履いているのに彼女は足が速かった。ガソリンスタンドの手前の角を曲がって姿が消える。


 きょろきょろあたりを見回すと、ひらりと蝶の翅のように翻ったケープの後姿がマンションの中に消えていくのが見えた。ちょっと躊躇ったもののわたしは足を止めることが出来なかった。どきどきしながらマンションのエントランスをくぐったところで「ちょっと」と背後から声がかけられた。

 びくっと肩を震わせ、振り返るとさっきまでずうっと先を歩いていたはずの彼女が真後ろに立っていた。


「なにか用なの?」


 腕組みして睨まれたが、わたしは声が出なかった。いらいらしたように、こつこつこつとエントランスの床を彼女のブーツのヒールが叩いている。

 ヒールのせいもあるだろうがわたしより頭一つ分背が高い彼女にわたしはすっかり――。


「お人形さんみたい……」

「っ」

「あ、ごめんなさいっ、その、わたし……あなたのお洋服すごく可愛くて。えっと、それ"Lizy's lady"のですよねわたしネットで見たことがあるだけなんですけど」


 彼女が着ているお洋服のブランド名を出すと、ぴくと綺麗な眉が跳ねた。


「あ、思わずついてきちゃって。気持ち悪いですよね、すみませんでした」


 早口で言うと逃げるようにわたしはその場から立ち去ろうとした。が、そのとき「待って」と小さな声が聞こえた。

 振り返ると、むすっとした表情(でもやっぱりお人形みたいで可愛い)で彼女は口を開いた。


「あんた――好きなの、『レイディ』?」

「え……?」


 レイディ、というのは"Lizy's lady"のことだ。SNSでそうやって略されているのを見たことがある。わたしは思わずうなずいていた。


「すっごく可愛いですよね、フリルも甘すぎなくて、こう……大人っぽくて。お嬢さまやお人形さんのお洋服みたいで」


 精一杯の語彙で"Lizy's lady"のお洋服の好きなところを並べ立てると、彼女ははあと静かに息を吐いた。呆れられてしまったのかもしれない。じっと見つめられたまま動けずにいると彼女がくるりと背を向けた。

 そのままオートロックの呼び出し番号を慣れた手つきで押した。


『はい、"Lizy's lady"でございます。ご来店のお客様でしょうか』

「すみません、2名でお願いします」


 彼女はわたしのほうを振り返り、はっきりとそう言った。



୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧



 そこはエレベーターを降りてすぐの部屋だった。

 インターホンを鳴らすと、真っ黒なドレスに身を包んだ小柄なお姉さんが目の前に現れる。


「こんにちは、アリア様。今日はお友達も連れてきてくださったんですね」


 彼女――アリアはわたしを一瞥して、まあそうですね、とあいまいな返事をしてさっさと部屋の中に入って行ってしまった。

 それもそうだろう。ふらふらなんとなくあとをつけてきたわたしは決して彼女の友達ではない。わたしは聞かれてもいないのに「坂口ひなです」とお姉さんにぺこりと頭を下げて名乗ってしまっていた。


「こんにちは、ひな様。どうぞお入りください」


「うわあ……!」


 お姉さんに促されるまま部屋の中に足を一歩踏み入れるとわたしは思わず声を上げてしまっていた。真っ先にわたしを出迎えたのはボルドーカラーのリボンドレスを着たトルソーだった。

 ぴったりと身体に沿うようなデザインは優美で、裾は床に引きずりそうなほどに長い。裾まで広がるたっぷりのフリルに両サイドの腰付近を編み上げるようなスタイルになっている。

 ふわりと甘いルームフレグランスが漂う室内にはその他にもハンガーにかけられた可愛らしいお洋服がずらりと並んでいた。それらを真剣な表情でアリアは眺めていた。


「本日はご予約分のフラワーアソート柄の試着にいらっしゃったんですよね」

「はい。ワンピースとジャンスカで悩んでて……」

「アリア様は身長がおありなので、丈長目の方がお好みですよね。それなら……」


 中にもうひとりいたお姉さんと熱心に相談しているアリアを茫然と見つめていると、案内してくれたお姉さんが「ひな様、当店は初めてでいらっしゃいますね」と優しく声をかけてくれた。


「は、はい……あの、此処って”Lizzy’s lady”のお店なんですよね」

「そうなんです。当店のことご存知でいてくださったんですね、嬉しいです」


 にっこりとお姉さんが微笑んでくれたのでわたしはちょっとだけ緊張が緩んだ。よかったらおかけになりませんか、と皮張りのゴージャスなソファをすすめてくれる。


「わたし……前からロリータファッションに興味があって。でも、ネットで見ててもなんか違うな、ってずっと思ってたんです」


 ロリータと言えば、真っ黒なゴシックロリータか、色合いが華やかな甘めのロリータ。テレビで目にするのはそういうものばかりで、でも自分が着たところなんて想像がつかなかった。


 もうすこし大人っぽくて、落ち着いた感じの雰囲気で。

 そんなふうに電子の海を探していたある日、偶然"Lizzy’s lady"に出会った。


 ロリータファッションのブランドのことをメゾンと呼ぶらしいのだがその中でも"Lizzy’s lady"、通称「レイディ」はクラシカルロリータというものに分類されるファッションなのだそうだ。

 まさに「レイディ」――海外のお嬢様やメイドさん、お人形さんが着ているお洋服のような丈の長いロングスカートや、華美すぎないドレスを中心に取り扱っている。


「わたし、レイディのサイト、毎日のように見てて……こういうのいいなって。でもわたしこんなだし似合わないってわかってるんですけど」

「試着してみればいいじゃん」


 お姉さんとぽつりぽつりと話していたわたしをちら、と見たアリアが軽く言い放った。


「え、ちょっと待って」

「そうですね、どれがいいかしら……ひな様には寒色、たとえばグリーン系が似合いそうです」

 お姉さん二人とアリアがああだこうだ言いながら、ラックから一着のドレスを選び出した。


 はい、と手渡されたワンピースドレスを手にわたしは押し込めれるように試着室へと入ったのだった。



୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧



「ああ……」


 わたしは家に帰りベッドの上で悶絶していた。

 スマホの画面には「レイディ」のドレスを着て写るわたしの写真が表示されている。

 本当はだめなんですけどね、とお姉さんが言いながらもせっかくだからと撮ってくれた写真を見ながらわたしはにたにた笑っていた。意外といい感じじゃん、わたしって緑……モスグリーンが似合うんだ。


 夢のような空間で夢のような乙女のドレスを着たわたし、それがこうして記録として残っている。それが嬉しくてたまらなかった。


「でもロリータ服って、高いんだよな……」


 どうしても欲しくなって、公式のホームページから古着屋さんのホームページ、隅から隅まで見たから知っているが、一着が数万円もするのが普通なのだ。古着になっていても半値以下にはならない。でも、お年玉をかき集めれば今日試着したあのドレス一着なら買えそうな気がした。

 でもそれには銀行のキャッシュカードをお母さんから借りないと、と思いながらもその理由を説明することを考えると気持ちが重くなった。あんなお姫様みたいな服を買いたいんだ、って言ったらお母さんはどんな顔をするだろう。お金がもったいない? それとも恥ずかしい?



「わたしアルバイト……しようかな」

「アルバイトって何を?」


 夕ご飯を食べながらそんな話をするとお母さんが怪訝そうな顔をした。


「……コンビニ、とか? 学校帰りと学校行く前に」

「そうねえ……」

「は? あんたには無理無理。絶対朝起きられないもん。それに学生の本分は勉強なんだから。真面目にやんなさいよ」


 お母さんの説得の最中に、お姉ちゃんから余計な茶々が入った。

 大学生になったからってお姉ちゃんはいつも大人ぶってあれこれ口出してくる。自分だって居酒屋や大学生協で働いてるくせに。でもお母さんだって良い顔はしなかったからやっぱりお年玉から費用を捻出するしかない。


 部屋に戻ってため息を吐きながらスマホに保存した写真を眺めていたときだった。


「うわ何このフリフリの服」

「っ、勝手に覗きこまないでよ」


 お姉ちゃんが背後から忍び寄って来て、わたしのスマホの画面を覗き込んで来た。ばっと視線から避けるようにスマホを背中側に隠すとお姉ちゃんは呆れたように、はっと鼻で笑った。


「あんたの欲しいものってこれ? ロリータ服?」


 ロリータ服、という言葉を発するときにその声はぎざぎざ尖って聞こえた。


「……だったら何」

「大体どこ着て出かけんの、こんなお姫様みたいな恰好で」


 さすがに近くのコンビニへ、とは言えなかった。


「それは……ほら、遊園地とか……おしゃれなカフェとか」

「ねえ知ってる? こういうのって家で洗濯も出来ないんだよ。クリーニング出して手入れして……出来るのあんたに」

「〰〰〰やるし! そのためにアルバイトしようかと思ったのに。お姉ちゃんの馬鹿」


 涙目になりながら怒鳴るとあほらし、と言いながら姉は部屋を出て行ってしまった。わたしはスマホに残された写真を改めて眺める。すっぴんで髪がぼさぼさのわたしがお嬢様ぶってすました顔をしている。


 馬鹿みたい。


 呟いてわたしはスマホを充電器に繋いで目を閉じた。



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 通い慣れた道を歩きながら、頭の中には「レイディ」の服がちらついていた。

 教室に入って席まで着くと、はあと深いため息を吐いた。

 うちの学校は制服がないので皆、思い思いの恰好をしている。前は甘ロリを制服代わりに着て通学している子もいたのだが「痛い」と言われ続けた結果、いまや中学のときの制服のスカートにパーカーというクラスの女子の大半と同じ格好になってしまった。


「アリア……可愛かったなあ」


 結局寝ようと思ったのに寝付けなくて、スマートフォンのSNSで「ありあ」「アリア」「ARIA」で検索し続けたらようやくアカウントを見つけた。アリアと名乗った少女が様々なクラシカルロリータの姿で撮った写真の数々にわたしは大興奮だった。どれも可愛い。可愛いが過ぎる。可愛いの大洪水だ。


「うわ」


 その声がすぐ隣から聞こえたのは早々にフォローしていいねの爆撃をしていたところだった。

 隣の席の相田くんが眉をひそめてわたしと、スマホの画面を見ていた。グレーのセーターに黒いマスク、チェックのスラックスといういつもの通学スタイルだ。ちなみにこの学校の男子の大半がこれに似た格好をしている。


「んで朝からそんなもん見てるんだよ……」

「……別にいいじゃん、って。ん?」


 この声、どこかで聞いたことがあるような――。


『あんた――好きなの、「レイディ」?』


 え、嘘。まさか――。


「もしかして相田くんがアリ……」

「それ以上言ったら承知しないからね」


 ぎろりと睨まれてわたしはすっかり言葉を失った。



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 わたしは休み時間に入るとすぐに相田くんを空き教室に連行した。


「ね、ねえねえねえ、相田くんって妹さんかお姉さんいたりする?」


 沈黙、ということは。


「やっぱり相田くんがアリアなんだよねっ」

「……うるさ」


 詰め寄ったわたしを見て相田くんは眉を顰めた。黒いマスクを外して、じっとわたしを見つめる。メイクこそしていないが整った顔立ちは、確かに昨日会ったアリアそのものだ。どうして気づかなかったのだろう――若干、相田くんは声が高めだから男の子だということにも気づかなかった。


「あーあ、めんどくさいことになった。やっぱり話しかけるんじゃなかったよ」

「ひど……」

「ひどいのはそっちでしょ、勝手に俺のあとついてきて。せっかく久々に『レイディ』の店舗に行ったのに邪魔されてまじで迷惑だったんだけど」


 率直すぎる物言いにぐさっ、と来た。確かに迷惑をかけた自覚はある。ひっそりと落ち込んでいると相田くんはむっとした表情のままで口を開いた。


「……で、買うの? 緑のフリルジャンスカ」

「あ、あはは……迷ってる、けど。似合ってなかったからなあ」


 自虐気味に笑うと、はあと相田くんはため息を吐いた。


「似合わないんじゃなくて、似合わせるもんだから」

「えっ」


 思いがけず提示された自分の中にはなかった発想に、わたしはぽかんと口を開いた。


「……だから着たい服があるなら、自分をそっちに合わせればいいでしょ」


 呆れたような声音で言われたとき、がしゃんと胸の中で何かが割れた音がした。


「……俺なんかがそのまま『レイディ』着たって似合わないに決まってるでしょ」

「に、似合うよ、わたしよりは絶対に! アリアの写真どれも最高だった……」


 するとまんざらでもなさそうな顔で「そ?」と相田くん――アリアは口のあたりをむずむずさせていた。

 でもねひげ剃ったり化粧したり、女の子らしくするのは結構大変なんだよと力説する相田くんを見ているとなおさら――昨日のすましたアリアとは重ならなくて。本当に同一人物なのか疑わしくなってくるほどだ。


 じっと食い入るように見つめていたのが気になったのか「なに」と怒ったような声で相田くんは言ってくる。


「実はお願いがあるんだけど……」

「やだ」

「そう言わず! ね、このとーりっ、アリア様よろしくお願いします!」


 ぱん、と手を叩いて拝むと「あんた学校でその名前で呼ばないでくれる⁉」とキレられてしまった。



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「こら、動くな、じっとしてろって」

「だって……目、勝手にぷるぷるして」


 翌日、同じ空き教室でわたしと相田くんは向き合っていた。

 相田くんの秘密を握ってしまったおかげで、彼はわたしに負い目のようなものがある。それもあって相田くんにロリータ風メイクの仕方を教えて、と頼んだら渋々ながら了承してくれたのだ。


 わたしはメイクがあまり上手ではない。へたくそ、と友達にはからかわれ「あんたはしてもしなくても変わらない」と言われたこともある。そのときはもー、と怒って見せたのか、へらへらそうだよね、と笑って見せたのかも覚えていないのだけれど――その言葉はずっとわたしの中に根を張って、必要最低限のベースメイクぐらいしかしなくなっていた。


「クラロリはブラウン系のアイシャドウ使うから、そこまで派手じゃなくたっていい。とにかく上品に、グラデーションつけて塗ってけばいいから」

「う、うん……」


 わたしがこわごわ教えられたようにやろうとするのを見るに見かねて「貸して」と相田くんにチップを奪われてしまった。指も使いながら馴染ませて、と解説されながら重ねられていく色味を見て「おお」と感動してしまった。ちゃんとお化粧「している」感がある。


「そんなとこ感動しなくても」

「いや感動するよ、すごいね相田くん!」


 褒めるとやっぱり悪い気はしないようで、もくもくとわたしの地味顔に化粧を施していく。相田くんの耳のあたりがじわりと赤く染まっていた。

 丁寧に睫の隙間を埋めるように引かれていくアイラインがくすぐったくて身じろぎすると「動くな」と怒られる。でもいちばん苦手だったのはマスカラだった。

 まず自分でやると瞼を挟みそうになって怖い。もちろんひとにやられるのはもっと怖い――そう思っていたのだけれど、相田くんがわたしの臆病な睫をあっさりビューラーでぐい、と上向かせてしまった。

 そこにそっと優しくマスカラを当てて際立たせていく。

 仕上げに薔薇色の頬になるように、チークを頬骨とフェイスラインに叩いたら――ひとまず完成、らしい。いろいろ省略はしているらしいんだけど、とりあえずねと相田くんは言いおいてわたしに鏡を見せた。


「……すごい、めっちゃわたしだ」

「当たり前でしょ! 化粧で変わるって言っても限度があるの人間には。でもこないだよりずっと『ドール』っぽいと思わない?」

「確かに……」


 クラシカルロリータにとって「ドール」、つまりお人形さんみたいというのは最上級の誉め言葉のうちのひとつだ。ビスクドールというものがあるらしいがわたしは本物を見たことはない。だからイメージするのは子どもの頃遊んでいたお人形さんなんだけど……。

 きめ細やかで白い肌に薔薇色のほっぺた。淡いピンクの唇にブラウンの影を落とす目元――いつも自分で雑にやっている化粧とはレベルが違った。

 これなら、こんなふうにお化粧が出来たらあのお洋服に似合う自分になれるかも。そう思えた瞬間だった。


「相田くん」

「なに」

「わたし決めた――『レイディ』のあのジャンスカ買うよ」


 ふうん、と興味なさそうに相田くんは相槌を打った。実際わたしのことなんて興味はないんだろう。それでもいい。

 由緒正しいお嬢様が着るようなモスグリーンのジャンパースカート。写真になった思い出の一着を、最高のわたしで着こなしてみたい。相田くんの、アリアのおかげでそう思えたのだ。

 お年玉と、お小遣いの前借と――考えることはいっぱいあるけど、あの服に似合う自分になれるようになんだって努力出来る気がした。ダイエットすればもっとすっきりとしたラインで着られるはずだし。

 自分は自分だけど、ちょっとした努力で変えられるところもあるんだって。


 なにより目の前に、「可愛く」あるためにこんなにも頑張っている子がいるんだと思うと勇気が出てくる。


「ちゃんと『レイディ』が似合うわたしになるから、アリア、ロリデしよ!」

「はあ⁉」


 ちなみにロリデ、というのはロリータ服を着てお出かけデートすることだ。わたしの憧れでもある。が、相田くんも顔色が変わった。


「いいの……? 俺、男だけど」

「いいに決まってる! わたし『レイディ』のお洋服を着て一緒に歩きたい、アリアと」


 ひとから注目されようが、相田くんがアリアだろうがなんだっていい。初めてロリータで繋がった友達と一緒に街を歩く想像に胸が躍った。


「じゃあ日曜日に駅前でね」

「勝手に決めるなっ、てか早っ」


 週末はいつもとは違う自分になって、いつもとは違うクラスメイトと優雅にお茶を飲むのだ。

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