第10話

「私には、みんなとの絆がある!」


拳を振り上げ、渾身の力で魔女に立ち向かう。

激しい戦いが、今、幕を開けた。


「愚かな……!絆など、脆く儚いだけだ!」


魔女が杖を振るうと、漆黒の炎が生み出された。

『絶望の炎』とでも呼ぶべき、禍々しい業火だ。


「っ!」


咄嗟に飛び退く。

炎は、私のいた場所を容赦なく焼き尽くしていく。


(強い……この炎には、魔女の怒りと憎しみが込められている……!)


圧倒的な力の前に、一瞬怯んでしまう。

けれど、すぐに心を奮い立たせた。


「でも……負けるわけにはいかないっ!」


私は全身に希望の光を灯し、再び突撃する。

魔女に拳を叩き込もうと近距離まで迫った、その時だった。


「甘い!」


不敵に笑う魔女が、トゲだらけの蔦を地面から生やした。

鋭い棘が、容赦なく私の体を襲う。


「きゃあっ!」


鮮血が飛び散り、私は吹き飛ばされた。

ずきずきと痛む傷。

視界がぐらつき、意識が遠のきそうになる。


「フェリシア――っ!」


ポックの悲痛な叫び声が、遠くで響く。

あれ……?ポックは、泣いているの……?


「ハハハ、無様だな。これが絆の力か?滑稽だ」


高笑いする魔女。

その姿は、まさに絶望の化身と言うべきだった。


(ダメだ……このままじゃ、みんなを絶望に沈めてしまう……!

 私は……もっと、強くならなくちゃ……!)


倒れた地面に拳を叩きつける。

悔しさと無力感で、涙が溢れてくる。


そのとき、ある光景が脳裏をよぎった。

両親の笑顔。

この町の人々の、温かな眼差し。

そして、いつも私を支えてくれた、ポックの涙。


(そうだ……私は一人じゃない。

 みんなのためにも、立ち上がらなくちゃ……!)


私は大地を蹴って、再び立ち上がる。

傷だらけの体に、希望の光を灯して。


「諦めない……!絶対に、私は諦めないから……!」


魔女に向かって、渾身の想いを叫ぶ。

すると、不思議なことが起こった。


「な、なんだこれは……!?」


私の体が、まばゆい光に包まれ始めたのだ。

その光は、まるで太陽のようにあたたかく、眩しい。


「バカな……!あの光は、絆の力……!?」


動揺を隠せない魔女。

その瞬間、私はチャンスだと悟った。


「これで終わりよ!『希望の光』よ!」


私は掲げた拳に、すべての想いを込める。

輝く光の矢が、一直線に魔女へと突き進んだ。


「そんな……負けるはずが……ぐわあああっ!」


魔女の体が、眩い光に飲み込まれていく。

絶望の闇が、希望の光に浄化されるのだ。


こうして、壮絶な戦いは終わりを告げた。

希望が、絶望に打ち勝ったのだ。


***


「はぁっ……はぁっ……」


息を切らしながら、私は膝をつく。

激闘の末、ようやく魔女を倒すことに成功したのだ。


魔女との戦いは、想像以上に熾烈を極めた。

幾度となく絶望に飲み込まれそうになり、心が折れそうになった。


けれど、私を支えてくれたのは、かけがえのない絆だった。

遠く離れた場所にいる両親の願い。

町の人々の温かな眼差し。

そして、いつも傍で支えてくれるポックの存在。


その絆が、私に希望の力を与えてくれたのだ。

一人ではたどり着けない、奇跡の力を。


魔女もまた、きっと孤独と絶望に苛まれていたのだろう。

だからこそ、心の闇に飲み込まれてしまったのだ。


「よくも……私の絶望に抗ったな……」


力尽きて倒れ伏す魔女。

その瞳から、憎しみの色が消えていく。


「それが、絆の力よ。

一人では弱くても、みんなで支え合えば……

どんな絶望だって、乗り越えられる」


静かに告げる私に、魔女は小さく肩を震わせた。

その目尻に、涙の雫が光る。


「私は……ただ、孤独だった……

誰からも愛されず、みじめな人生を送ってきた……

だから、この呪いで……みんなを不幸にしようとした……」


ぽつりぽつりと、魔女は過去を語り始めた。

辛く悲しい記憶の欠片が、染み出してくるようだ。


「一人で抱え込まないで。

みんなで分かち合えばいいの。

悲しみも、喜びも、すべてをシェアして」


優しく微笑んで、私は魔女の手を取る。

その手は、思ったより冷たくて儚かった。


「私を……受け入れてくれるの……?」


「ええ。

あなたも、私たちの大切な仲間よ」


涙を浮かべる魔女を、そっと抱きしめた。

その瞬間、彼女の体が温かな光に包まれる。


「これは……!」


目を見張る私の前で、魔女の姿が少しずつ変わっていく。

禍々しい瞳が、澄んだ光を取り戻していった。


「ありがとう、フェリシア。

私の心を、解き放ってくれて」


優しく微笑むその顔は、もはや『絶望の魔女』ではない。

ただ一人の、愛すべき少女の笑顔だった。


「さぁ、外に出よう。

みんなが、待っているわ」


手を取り合って、私たちは陽光の中へと歩み出す。

輝く太陽。

澄み渡る青空。

すべてを優しく包み込むような、温かな風。

この世界に、希望が満ちていくのを感じた。


***


「フェリシア、やったね!

君が絶望を吹き飛ばしたんだ!」


「ううん、私一人の力じゃない。

みんなと一緒に、希望を掴み取ったのよ」


喜び合うポックと私。

あの城を出た私たちを、町中の人々が歓喜の声で出迎えてくれた。


「フェリシア!本当に、ありがとう……!

君のおかげで、この町に光が戻ってきた……!」


涙ながらに語る人々。

その一人一人と、固い握手を交わしていく。


「これからは、みんなで笑顔の種を植えていきましょう。

悲しみも苦しみも、隣り合わせ。

だから、支え合って前を向いて歩いていくの」


胸を張って宣言する私に、みんなが力強く頷いた。

もう大丈夫。

この町には、かけがえのない絆がある。

それが、どんな絶望をも超える希望になるのだから。


「愛する町のみなさん。

そして、お父さん、お母さん……

私、新しい旅に出発します」


ふるさとを見渡しながら、私は心の中で誓った。

この経験を胸に、さらに成長していくのだと。


「フェリシア、どこに行くの?

……ううん、わかってる。

君の冒険は、まだまだ続くんだね」


「ええ。

失われた大切なものを探す旅は、まだ終わらない。

だってまだ、この世界にはたくさんの絶望や悲しみがあるもの」


遠くを見つめて微笑む。

私にはまだ、なすべきことがたくさんある。

みんなの心に、希望の灯りを灯していくこと。

それが、私に課せられた使命なのだと悟っていた。


「ポック、一緒に来てくれる?」


「もちろん!ボクはフェリシアの、一生のパートナーだよ!」


嬉しそうに飛びつくポックを、ぎゅっと抱きしめる。

この子と一緒なら、どんな旅路も歩いていける。

そう感じていた。


「さぁ、また新しい冒険の始まりだ。

この『記憶の絵本』が、私たちを導いてくれるわ」


大切そうに絵本を胸に抱く。

この本は、私の過去と未来をつなぐ、かけがえのない宝物。

そう、絶望を希望に変える力を、いつも与えてくれるのだ。


「行こう、ポック。

私たちの、終わりなき物語へ――」


希望を抱いて、私たちは新たな一歩を踏み出した。

輝く太陽の下で、風にたなびく髪。

この瞬間を、しっかりと心に刻んで。


『失われた記憶を探す少女の冒険』。

その物語は、まだまだ続いていく。

絶望を超える、希望と絆の証として。

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記憶の欠片を探して~運命の絵本と少女の冒険~ 夜野 幻 @hachitt8

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