第9話

「ここが、魔女の住処……」


再び『迷いの森』を訪れた私たち。

その最奥にそびえるのは、漆黒の城。

まるで絶望の色に染まっているかのようだ。


「なんだか、不吉なオーラを感じるね……」


ポックが身震いしながら呟く。

確かにその禍々しさに、思わず怯んでしまいそうになる。


「……負けないよ。

私には、みんなの思いがあるもの」


両親の手紙に触れた右手を、ぎゅっと胸に当てる。

もう、迷いはない。

立ち向かうべき、運命の時。


「そうだね。

フェリシアなら、絶対勝てるよ。

その笑顔が、きっとみんなを救うんだ」


ポックの力強い言葉が、背中を押してくれる。

私は深呼吸をして、意を決して城へ足を踏み入れた。


「魔女よ、出てきなさい!

私はこの町に『希望』を取り戻しに来た!」


凛とした声で叫ぶと、廊下に不気味な低笑いが木霊した。


「『希望』だと……?

愚かな……。もはやこの世界に、希望などない」


ずんずんと、重い足音が近づいてくる。

やがて姿を現したのは、漆黒のローブに身を包んだ魔女だった。

冷たく光る瞳。

醜く歪んだ笑み。

その姿は、まさに絶望そのものだ。


「私はもう、十分に絶望を味わった。

この呪いから、誰ひとり逃れられないと悟ったのだ」


「……それは、違うわ。

悲しみも苦しみも、乗り越えられる。

みんなで助け合えば、道は開ける」


魔女の言葉に真っ向から反論する。

その拳を握り締め、私は魔女を見据えた。


「笑わせる。

お前も所詮、絶望の前には無力だ。

それを、思い知らせてやろう!」


魔女が杖を振り上げる。

次の瞬間、まばゆい閃光が迸った。


「っ!」


咄嗟に身を翻し、魔法を躱す。

息をするのも忘れて、全身で魔女と対峙する。


「フェリシア、気をつけて!」


心配そうに叫ぶポックの声。

その優しさが、私の心に灯りをともす。


「……負けない。

私には、みんなとの絆がある!」


拳を振り上げ、渾身の力で魔女に立ち向かう。

激しい戦いが、今、幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る