プロローグ.いざ、建国の旅へ
狭いベッドの布団を引っぺがし、床で川の字になって寝っ転がった翌朝。ティルナノーグを発ったリョウは、木の幹に付けた傷とさっきぶりの挨拶を交わし、天を仰いでいた。
晴天に恵まれた青い空は、すっかり日が昇っている。
「道に迷った……」
「ちょっと、一番ティルナノーグ歴の長い貴方が迷ったら終わりじゃない!?」
「……次の町で地図を買わせていただきます」
抜かった。以前隣町まで行ったことがあったから、その記憶を頼りに進めばいいと思っていた。当てのない気ままな旅、なんて風流に憧れていた部分もあったかもしれない。
「こんなことなら、もっと授業をちゃんと受けていればよかった」
己の不勉強を呪い、がっくりと肩を落とす。
昔の人々は太陽や星の位置で方角を確認していたという知識はあるけれど、どう見れば判断ができるのかまではてんで知らない。出立時と今とで、太陽はかなり動いてしまっているからだ。
「む、むむ……? うんうん、ありがとうおじさん!」
四つん這いになって地面に耳を澄ませるようにしていたシャオミンが、ぱっと立ち上がり、「リョウお兄ちゃん、こっちだよ!」と指を差す。
「そうか、この土地に眠る魂と会話をしたんだな! でかした!」
「ちょっと待ちなさい」
威勢を取り戻したリョウだったが、その首根っこを『ママ』に捕らえられてしまう。
「……なんだよ?」
「考えてもみなさい。ねえシャオミン、その魂は、どうしてこんな山の中で眠っているの?」
「このおじさんはね、こっちに進んで、ぐるぐる回って、戻ってきて、その繰り返しで死んじゃったんだって!」
ほら見なさいと言わんばかりの半眼を向けられ、リョウは視線を逸らした。
「よ、よーし、正解は反対側だな!」
「でもお兄ちゃん、おじさんはこっちって……」
「あー! いい天気だなー!」
「誤魔化し方下手くそかっ!」
エステルのチョップから逃げるように、足早に歩き出すのだった。
* * * * *
「あれっ、如月さん……?」
朗らかな声が遠くに聞こえて足を止めた
「知り合い?」
「まさか、他人の空似ですよー。ここ異世界だし」
同行している先輩シスターのエミルにけらけらと手を払って返し、カナタは振り返った時に乱れた髪に手櫛を通した。
「きっと、昨夜見えた花火が綺麗だったから、男の人は見えちゃうのかもです」
「ああ、あれは見事でした。カナタさんの世界には、素敵な文化がありますのね」
「その素敵な文化の担い手が、如月さんだったんですよー」
すごいでしょうと我がことのように胸を反らしたカナタは、でも、と表情を曇らせる。
「もう何年も前に行方不明になっちゃったんです。私の野外ライブで使う花火を作ってくれたんですけど……当日、彼の姿は関係者席になくって。それきり」
あの日ステージから見た数十発の打ち上げ花火は、これまで見たどの花火よりも美しくて――同時に、どんな花火よりも虚しく空に散ってしまった。
ソロデビューという大きな節目に、彼はいなかったんだ。
「想い人でしたのね」
「へっ? い、いやいやいや! そんなんじゃ……いや違くて……えっと、えっと……ひゃああっ!?」
顔を真っ赤にしてわたわた手を振った拍子に、何かにつまづいて転んでしまう。
「あいたたぁ……」
「あらあら、可愛い」
「むぅ、からかわないでくださいよエミルさん。私だって気にしてるんですよ? ステージでも転んだことなんてなかったのに、なーんかこの世界に来てからよく転ぶんですよねえ」
服に付いた草や土を落としながら、襟元を扇いで火照った頬を冷ます。
気を取り直して歩き始めたところで、エミルがそっと口を開く。
「どうやらあの方たちはヒェードの町に向かっているようですね。追いかけるなら、案内しますよ?」
それは、ものすごく魅力的な提案だった。
しかし、カナタは静かに首を振る。
「いえ、大丈夫です。人違いで迷惑をかけてしまってはいけませんし。聖女見習いとしてのお役目を優先しないと」
「そうですか? わかりました、では予定通りドゥーンスールへ向かいましょう」
頷いて、エミルが再び歩き出す。
カナタは最後に一度だけ振り返って、瞼を閉じ、空の彼方へと思いを馳せた。
※ ※ ※ ※ ※
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
これにて『ドラゴンノベルスコンテスト』に向けた中編部分が完結です!
本作はリョウやエステルが旅を通じて、様々な世界からの召喚者(※それもただ者じゃない系譜の最強美少女!)たちと出逢い、絆を深めながら、元の世界に帰る方法を探す物語となります。
ドラノベコンの結果に係わらず、いずれはカクヨムコンなどで長編化したいなと考えておりますので、
続きが気になるなと思ってくださった方はぜひ、ぐぐっと下までスクロールしていただいて、☆の左側にある+マークを3回押していただけると嬉しいです!
またお会いしましょう!! ではではーノシ
※ ※ ※ ※ ※
勇者の子と描く建国計画!〜ハズレ召喚者だと国を追い出された俺、ぽんこつ王女騎士を拾ったことで一緒に国を作る旅に出ることになったが、最強美少女ばかり集まるせいでハーレム王国とか呼ばれて困っています。〜 雨愁軒経 @h_hihumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます