おまけ(マコト視点)

 僕の前に運命の人が現れた時、どんな事をしても彼女が欲しいと思った。


 だから、彼女がすでに結婚していることを知っていてなお、アプローチをした。

 僕の中のありったけの熱情をぶつけて。


 最初は相手にもされなかった。


 でも、何度も本気の想いをぶつけ続けると、彼女は僕の想いを受け入れてくれた。


 そしてそこからは当然のごとく相思相愛になり、旦那より僕の方を愛していると言ってくれるようにまでなってくれた。


 そう、もう少しで彼女は完全に僕のものになるはずだった。そう思っていた。


 それなのに彼女の態度が急に変わった。


 原因はどうやら僕との関係が旦那にバレた事らしい。

 僕としてはいずれ来ることだと覚悟していた。

 最初から僕は、たとえ慰謝料を払うことになっても彼女と一緒になるつもりだった。どんなに後ろ指を差されようとも。


 当然彼女も同じ様に思ってくれていると信じていた。


 なのに彼女の口から出たのは別れの言葉。


 意味が分からなかった。


 あれだけベッドで愛を囁やき合ったのに、旦那なんかより僕の方が良いと言ってくれていたのに。


 確かに世間的には許されない恋なのかもしれない、でも僕はずっと本気だった。

 どんな事があっても愛し続けるつもりでいた。


 なのに彼女は違っていた。


 あっけなく僕を切り捨てると、最後は顔を見せないでとまで言われた。


 酷い話だ。


 結局本気だったのは僕だけで、彼女にとってはいっときの火遊びのつもりだったのだろう。


 口先だけで愛を囁やき、快楽に身を委ねただけ。


 そこに本当の愛情なんてものは微塵も無かったという事なのだろう。

 愛を奪おうとしたつもりが、はなからそんなものは無かったのだと思い知らされた。


 ちゃつかり請求された慰謝料も追い打ちを掛けた。


 僕にとっては本気で彼女を愛した日々が悪だと断罪されたような気がして、余りにも自分が滑稽すぎて、何だか全てがバカらしくなった。


 何もかもがどうでも良くなった僕は、いつの間にかひとり家に帰ると酒を呷るようになった。


 酔った時だけ、会社での奇異の視線も、あの人に捨てられた現実も忘れられた。


 でも、素面に戻るとまた惨めな自分を思い出し、情けなくて涙がこぼれそうになる。


 そして何よりも悔しかったのは、こんな思いまでしてもなお、僕は彼女のことが忘れられなかった。


 嘘と偽りで塗り固められた愛情だとしても、もう一度手に入るのなら欲しいと願ってしまった。


 だからだろう。

 彼女にバレないよう興信所を使い彼女の居場所を探ると、こっそり彼女の動向を監視するようになったのは。


 彼女がまだ旦那と寄りを戻していないと知った時は僕にもまだチャンスがあると歓喜した。


 彼女が産婦人科に通うようになった時。もしかしたらと思った。

 あの一週間絶え間なく愛し合った至福の日々で一度だけゴムが破けた事があったからだ。彼女には黙っていたけど、もしかしたらという期待が膨らんだ。僕と彼女の愛の結晶が再び、僕たちを結びつけてくれるかもしれないと。

 しかし、彼女から連絡が来ることはなく彼女もある日を境に産婦人科には通わなくなった。


 そして、それからすぐに彼女が再び旦那と寄りを戻した。それを知った時は死にたくなるほど絶望した。もう何もかも諦める選択肢もあった。


 けれど僕は諦めなかった。

 どんなに彼女から愛してもらえなくても、僕の彼女への愛は本物だから。


 きっと彼女もその事にいつか気付いてくれる。


 そんな思いでずっと彼女を見守り続けた。


 当然、最愛の人が他の男と過ごす日々は見続けるのは苦痛で酒だけでは誤魔化せなくなり、知人から気持ちが楽になる薬を融通してもらったりもした。


 借金も膨らみ、親に頼み込んで何とかしてもらったりもした。


 そうやって耐え抜いた僕に希望の光が差した。


 上手く行っていると思っていた二人は正式に別れたらしい。ある日を境にあの男が彼女の家に帰ってくることが無くなったから。


 そして彼女自身も引きこもって家から出なくなってしまった。


 きっと彼女は何らかの理由で傷ついている。


 慰めて心を癒せるのは僕しか居ない。


 僕は気を落ち着かせるため、服用している薬を使うと彼女の家へと向かった。


『待っててね。今度こそ僕が幸せにしてみせるから』


 僕は彼女との幸せな未来を夢見ながらフワフワと空を飛ぶように軽やかに、自然と溢れてくる笑い声が抑えきれないまま彼女のマンションにつくと、彼女の部屋番号を押し呼び掛けた。


『迎えに来たよ』と……。






――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

コメント及び評価をしていただいた方には感謝を。


あと、新作アップしましたので読んで頂けたら嬉しいです。

この作品読んでる方は大丈夫かと思いますがいつものNTR系です。


《タイトル》

『最近、彼女の様子が何だかおかしい 〜真相を知った僕の決断は……』


https://kakuyomu.jp/works/16818093078222665886



それでは宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妻が浮気して、そのくせ再構築を望んでくる。【完結済】 コアラvsラッコ @beeline-3taro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ