講義録①

※時代状況によっては異端として殺される可能性があるので、絶対に人には見せないこと。


矛盾しているカノン法霊の調和コンコルディア・ディスコルダンティウム・カノーヌム

 グラーティアヌスは同じ名前の花音教令を編纂した。(といっても法的な物は「矛盾しているカノン法令の調和」と書き分けられる。)

 それは今までの教会で適用された方を矛盾のない体系的な物として取捨選択や優先順位付けを行った。「グラーティアヌス教令集」とも呼ばれる。

 この体系的な法的文章は魔法書としても機能した。(花音教徒は、魔法ではなく聖域や奇跡と言っている。)

 この魔法の偉大な点は、なにより魔力効率の最大化に道筋をつけたことにある。魔法内部における魔術発動の諸条件を構築する魔法式が整理されるに伴って、その花音教特有の魔術、【魔力砲カノン】の威力・精度が上昇した。

 この魔法は、釣り鐘型のドーム状に法域を展開し、その法域内を展開者の魔力で満たす。法域の展開者以外の者が攻撃の意思を持った時、魔力にひずみが生じ、そのひずみに引きずり込まれるように法域内の魔力が結集し、ゼロ距離の魔力砲となって破壊する。

 この魔法の本質は調和であり、その紊乱びんらん者への自動的応報なのである。実に花音教徒らしい魔法だ。

 最後にこのグラーティアヌス法霊集をよく使いこなしたものとして、ロランドゥス・バンデネッリ、バジアヌス・フグッチョ、ロタリウスの3名が挙げられよう。フグッチョを除いて花音教の最高位たる教華響に上り詰めている。

 魔力の節制的使用、即ち「選択と集中」はすべての魔術師にとって善であり全である。

 この3人は法学的には教令集学派としても、魔法学としては【矛盾しているカノン法霊の調和コンコルディア・ディスコルダンティウム・カノーヌム】の使い手として有名である。




聖なる花園アジール

 すべての花音教徒にとって、破門は恐ろしい事態であった。

 そこで花音教会は教会内はもとより、聖域の内部において殺人、傷害、略奪を禁じ、行った者に対して破門を行うと宣言した。これによって信者は守られた。なぜなら破門は単なる宣言ではなく、女神の敵であるとの宣告に等しかったからだ。同じ悪人であっても、擁護と団結をすることは無かった。

 破門の語源は波紋にあるという。

 波紋とは、平らかな調和が崩れた状態を指す教会用語である。敬虔な花音教徒はこれを放置しない。

 即ち宗教的圧力としての破門と魔法的圧力としての【波紋砲】である。【波紋砲】とは魔力砲の発展形態であり、小さな波を寄せ集めて局所的にすさまじい魔力の高波を引き起こし、破壊する技法である。これは海の波や音波でも同様のことが確認されている。局所的に巨大な破壊力を生み出すが、その一点を過ぎれば再び小さな波となりやがて平らかになっていく。

 「永遠の調和のためにこそ、波紋を恐れてはいけない」とは花音教典最も有名な一説の一つだ。

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