いつかの流れ星

豆ははこ

もう少しかな、待っていてね。

「あ、その雑誌、買ったんだね。あとで読ませて?」

「もちろん。もしよければ、これはあげるよ。僕は、電書でも購入済だから」

 これ。


 それは、僕が毎月買っている、天文関係の雑誌。


 いている時間帯の学食。

 購買で購入した雑誌を読んでいたら、声を掛けられた。


「ありがとう」

 笑顔がまぶしいこの人は、僕と一緒に星を楽しんでくれる恋人だ。


 そして、僕にとって、星を見ることは唯一の趣味。


 大好きな星に関係した雑誌を、人に貸すとかあげるとか。

 以前は、そんなことは考えたこともなかった。


 いや、考えないのは、今も一緒かな。


 君にだけだから、ね。

 君だけが、特別なんだ。


「今度は、どこに星を見に連れて行ってくれる?」

 ほら、こんな嬉しいことを言ってくれるのも、君だけだ。


「そうだね、二人とも就職内定が出たから、お祝いでちょっと遠出するのもいいね。考えておくよ」

「ありがとう!」


 そう言うと、彼女は友人たちの輪の方に向かっていった。

 彼女には、友人が多い。


 それに比べて、僕は基本的に、彼女以外とはゼミの友人くらいとしか会話をしない。

 まあ、彼女の友人たちならば、また別だけれども。


「おーい」

 そんな、ゼミの友人が声をかけてきた。


「分かりやすい仏頂面! お前はホントに、彼女とそれ以外に、はっきりと線引きをするよな。それ即ち、イケメンの出し惜しみだ」

 仏頂面。それがどうした。

 それから、イケメン? 容貌の出し惜しみ、ってことか。

 どちらにしても、いったいなんなんだ。


「僕がイケメンかどうかは知らないし、知りたくもないが、彼女とお前を区別するのは当たり前だ。しかも、お前は僕の友人であって、彼女の友人でもない。よって愛想は不要だ」


「彼女の友人なら、礼節は守る、と。まあ、その態度がそうやって徹底的だからこそ、へんに他の女子に期待させない見上げた男だって、俺たち彼女がほしい連中から好かれてんだよなあ、お前は。男子でも期待したいやつはいるかもだけどな」


 こいつの仮定は、よく分からない。

 だが、僕が彼女以外に恋愛感情を持つはずはないことは明白だ。

 よって、こいつの仮定に意味はない。間違いない。

 ただし、僕が彼女のことを大切にしているという揺るぎない事実を理解している点は、褒めてやってもいいかも知れない。


 あれ。

 そもそも、こいつは明日が就職希望先の最終面接日では?


「なんの用だ。お前、最終面接が明日じゃなかったのか」

「そうそう。だから、第一志望の就職先に内定をされた恋人同士さんからパワーを頂こうかと」


 確かに、彼女も僕も、第一志望の就職先に内定した。

 だがそれは、二人の努力の賜物。友人にパワーを与えてやる義理などないはずだ。

 僕のもだが、彼女のなど、もったいなさすぎる。


「ちゃんとお礼も持ってきましたので」

 そう言う友人が差しだしたのは、クリアファイル。なにかの記事が入っている。


「これがなんだと……いや、ありがとう。お前の内定を祈ってやるよ」


 記事を視界に入れた瞬間、頬が緩みかけた。

 我ながら、現金だとは思う。


 だが、いわゆるお祈りメールとは違うからな。

 ちゃんとした、受かったらいいな、という祈りだ。ありがたがれよ。


「ありがとうございます!」

 もしかして、本気で僕の祈りに意味があると思っているのだろうか。

 やたらとテンションを上げてあいつは去って行った。


 やれやれ、と思っていたら、メッセージアプリが。彼女からだ。


『今日は友だちと夕ご飯食べるね』

『了解。僕も今日は図書室にでも寄るつもりだった』

『あ、次の星観察のこと?』

『うーん、そうだね。確かに星観察かも。だけど、かなり先かな。早くても、二年後の流れ星だから』

『へえ、そんな予報が出てたの? また明日聞かせてね、楽しみ!』

『うん、分かったよ。楽しんできてね』


 ……そう。

 早くても、二年後の流れ星。


 それは、あいつにもらった、このクリアファイル。

 その中に入っていたのは、とあるプラネタリウムの紹介記事だ。


 『プラネタリウムで結婚式を。

 流れ星も、お二人を祝福いたします』


 まるで、活字が踊っているかのよう。

 文字の後ろには、流れ星。


 そう、これは、早くても二年後の、僕が君に見せたい、流れ星。


 プラネタリウムで結婚式。

 そんなことが可能だなんて、想像もしていなかった。


 今すぐ、は難しいけれど、二年後なら、もしかしたら、もしかするかも。


「それに、これから、他の流れ星も探せるかも知れないし」

 他のプラネタリウム、天文台、もしかしたら、海外。


 あいつにもらったこの記事そのままだと、何だか悔しいからね。一応、感謝はしてはいるよ。


 もちろん、プロポーズとか、結婚とか、結婚式とかはすべて、彼女の気持ちが最優先。

 時期とか、やりたいこととか、ぜんぶ、そう。


 だから、この想像は僕だけの夢想で終わるかも知れないし、それはそれで、とても嬉しい。


 だけど、もしかして、本当に。


 結婚式で、流れ星を見ることになったときには。


 ……あいつは、呼んでおこう。


 僕には極めて珍しい、友人枠で。







※こちらの二人は、豆ははこの俳句作品、俳句『星』たち の二人でございます。

高校生か、大学在学中くらいを想定しておりました二人が、大学四年生となり、就職先も決定し、彼は……という短編です。

規定文字数を超えるため、リンクは自主企画終了後を予定しておりましたが、企画主クロノヒョウ様のご厚意により、以下にリンクを貼らせて頂きます。なお、企画主様近況ノートにてご許可を頂いております。


今よりもさらに若い二人です。どうぞよろしくお願い申し上げます。


https://kakuyomu.jp/works/16818023213952318523

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