第20話 わらわが、卑弥呼なのか
「あーあ」
何たる心地よい目覚めであろうか。仲間たちが教室で机を並べ勉学に勤しむさなか、自宅で安眠、というか惰眠をむさぼる。体から沸き立つリフレッシュ感と、ちょっぴりの後ろめたさ。このブレンディーな感覚が、心地よい目覚めに気怠さを醸し出し、起き上がろうとする上半身に軽いしびれをもたらす。そして再び、安らぎと温もり満ちるふかふかベッドへゆっくりと体を沈める。―――いや、駄目ダメ。崇高な目的のため、勉学以外の何らかの営みに励まねば、と思い直し、再度ベッドから起き上がろうとする。などと、アホなことを考え行動に移していると、寝ては起き、寝てはまた起きてで、結局四十分近くもベッドに留まってしまう。夏場の受験勉強の無理がたたったようで、これは厳粛に受けとめねばならぬ現実なのであろう。
―――まあ! 大変!
ベッドから机の超デカ文字目覚まし(時計)に目をやると、すでに十二時三十二分。学校では昼食の時間なのだ。しかし、なぜにかくも強固なバイオリズムと健康体であろうか。朝食後、惰眠をむさぼっただけなのに、体中を空腹感がかけ巡るのだ。
「おばあ―――」
ベッドからおばあちゃんを呼ぼうとして、千加子は止めてしまった。ダイニングでうたた寝を楽しんでいるかも知れないのだ。ベッドから出て静かに着替えを済ませ、千加子はそろりそろりと廊下を歩く。ダイニングのドアをそっと開けると、暖房の効いた部屋で、おばあちゃんがロッキングチェアで心地よく眠っていた。
〈おばあちゃんへ。岸和田駅前へお散歩ならぬ、おチャリしてきます〉
ダイニングのドアに張り手紙を残し、千加子はピンクのブルゾンを羽織り赤いママチャリで岸城町から岸和田駅前へこぎ出す。日照不足のため、モミジの紅葉足らずや桜の秋期新芽出し異状。一部地域で話題を呼んだが、ここ岸和田は異常気象の影響なく、毛虫ちゃんの駆除も足りたのか、沿道の桜はおネンネで、季節外れ珍現象は皆無。家々の庭を彩る木々の紅葉も、「お見事!」と賞賛したくなるほど鮮やかだった。日差しを浴び、駅への上り坂をうっすらと汗をかきながら上りきり、駐輪場へママチャリを入れる。秋冬物セール真っ最中で賑う商店街を目で楽しみ、再び駅前へ戻ってお気に入りラーメン店前に着く。いつものラーメン定食を食べようか迷ったが、記念すべき日であることから、ちょっと豪華に二軒隣の上物屋(じょうものや)食堂へ入り、刺身定食を注文する。
「美味しい!」
天然物のハマチ、マグロとイカも舌の上でとろけんばかりの美味だった。ゴハンを三杯もおかわりして、お茶を味わい満足感に酔いしれる。ノー勉ストなどと大仰にほざいたが、ピント外れではないかと思うほど、小市民的満腹感に満たされてしまう。が、
「いや、いや!」
そうじゃないのだと首を振って無理に自分に言い聞かせ、崇高な目的意識を持つべく、商店街入り口の木下書店へ入り、書棚の間を歩く。文化の香りをかぎながら、食後の散策をゆっくりと楽しむのだ。大学での専攻とすでに決め込んだ、古代史のコーナーで評判本に手を伸ばし、古王朝の謎でも解いてみるかと、定価に近視の目を細め近づけると、税抜きで二千二百円。
―――はて、足りるのかしら?
ブルゾンの左ポケットに手を入れ、手持ち資金を確認する。何と、定食のお釣りを入れて、五五八円。邪馬台国九州説の話題本を諦め、ページをパラパラと未練たっぷりに繰って書棚に戻す。商店街入り口から駅へ足を運びながら、帰るにはまだ早いと思い直し、Uターンして再び商店街奥へ進む。と、なぜか裏通りへ足が向いてしまう。すると、まさに運命の導きか、幸運の訪れであろうか。二筋裏のさびれたビルの一階の、消えてはおぎゃーのリアル書店シーラカンスが、閉店セール真っ最中だった。
シーラカンスのドアをくぐると、夢ではあるまいか。古書セール真っ最中の店内が、千加子にウエルカム。な、な、何と! ワゴンに山積みされた古書中の、〈弥生通史から古代史を占う〉との背表紙が目に大きく飛び込んで来たのだ。ハードカバーの上製本が何と驚くなかれ! 上下二巻で五百円! ゴ、ご、五百円なのだ。
「あのー、これ、お願いします」
五百円玉を右手に握りしめ、左手でズシリと重い二巻を抱いてレジへ急ぐ。ノー勉スト中の手持ち無沙汰解消。おまけに、わが最大の興味テーマを読破できるのだ。まさに趣味と実益、この両者の統合のために与えられた書物ではないか。シーラカンスのカバーを表紙に巻いてもらい、小躍りしたい気分でビルを出て、チャリ置場へ小走りに駆け出す。
「ちょっと、ちょっと! チーやんか!」
ああ! もう、何たる不運、何たる最悪。わが愛する岸和田駅前で、三年七組のクラスメート、山田花代に呼び止められてしまった。
「あんた。学校サボッて、こんなとこで何してんのよ!」
「ちょっと、お花。人聞きの悪いこと言わないでよ。今日はね、大義のために、顔で笑って、心で泣きながら学校休んだんだから。ほんとうに、もう! 何でこんな時間にアンタと駅前で会わなきゃならないのよ。アンタこそ早退して、学校サボッてんじゃん」
高揚した気分のときに山田に出会うと、ドッスーン! と奈落のお笑い地獄に引き摺り込まれる妄想に捕らわれるところが恐ろしい。
「皆の者。明日・ひみロードの、ラスト・ツーの関所の一つじゃ。気をつけ召されよ。退廃ムード一杯の、お笑いド壷砦なのじゃ。余りの楽しさに、先へ進む意欲がなくなってしまうところが恐ろしい。見る者は、愛きょう笑顔としゃべくりで、まるで電気クラゲの触手さながら体じゅうを撫で回され、ビリビリと心身ともに快楽地獄にのたうってしまうのじゃ。―――何、突破の秘策とな。それはのう、かのアルカトラズからの決死の脱獄、ではないが、まあ、よう似た者がおったのじゃよ」
失礼しました。既に空想ゲームワールドにスイッチが切り替わっておりました。前ぶれなしの、いきなりのタイムトンネルへの投げ出しをご容赦ください。ただもう入ってしまいましたので、お笑い族との決戦場面へ続けさせていただきます。サヨウでござります。千加子司令が、お笑い砦突破のウルトラ講釈を垂れるところであります。なお、お笑い族は、爆笑県抱腹郡お笑い村の絶倒塚、ここに笑い卑弥呼が眠っていると主張する一族であります。
さて、兵士たちの問いに、司令官はド壷からの生還者の体験談を事細(ことこま)かに伝えるが、一言で言えば〈ア・ウェイ〉。そう、距離を置く、のであった。そうなのだ。近づかぬことがベスト・ポリシーであったのだ。ところで厄介なことに、このお笑いド壷は鳴門の渦の如き吸引力で、知らぬ間に巻き込まれてしまうが、お笑い族の顔を見なければ凌げるのだ。
「楽しくて仕方のない、あの、愛嬌顔を見てはならぬぞ。お笑いド壷にハマッタまま、永久に箸墓へは行けぬぞえ」
「でもサ、関所を作って通せんぼしてんだから、顔を見ないわけに行かないジャン」
確かに降格司令官・優一の言う通りであった。
「司令官。こがん方法はいかがやろう」
やはり佐世保東高校の後輩であった。おまけにスワンクリーニングの看板娘であったのだ。のり子は瞬く間に布切れで円筒形の袋を作ってしまい、司令官の前に差し出す。お笑い族撃破の最終兵器、〈スポン仮面〉の出来上がりであった。これをお笑い族の顔にかぶせ、そのまま関所を突破するのだ。
「それ、皆の者、かかるのじゃ。ここを越せば、最後は容易で、すぐそこが箸墓なのじゃ」
スポン、スポン、スポンと手際よく、お笑い族にスポン仮面をかぶせ、お笑い関所を楽々余裕の駆け足突破。と思いきや、後続部隊は逆立ち隊列を組み、前進して来たのだ。これではスポン仮面をかぶせることが出来ぬではないか。ヌヌ! 出来る! さすがお笑い一族、などと感心しておっては敵の術中にはまり、箸墓到着の夢は鳴門の藻屑(もくず)と消え去るのであった。
「た、た、助けてー!」
優一と竜児が一瞬の内にお笑いド壷に引きずり込まれてしまった。
「ヤー!」
のり子がブーメランを投げ、二人の体にロープを巻きつける。
「はー!」
今度はのぞみの出番で、逆立ち顔に、トトトン! と、ダーツで紙切れを貼り付ける。さすが我が軍の精鋭勇者で、女性上位はゲーム世界でも不動の真実であった。
このように空想ゲームワールドは、のり子とのぞみの機転で無事、事なきを得たのであるが、ウツツ世界はチョー! 厳しい。わが目の前に、山田花代が突っ立ているではないか。ダメよ、見ちゃダメ! 寄って来ないで! などと顔をそむけても、山田は前面に回って減らず口をたたくのでありました。
「チー、あんた何してんのよ。顔をそむけんとな、チョットよう聴きや。ザ・ン・ネ・ンでした。私は今から大学見学に行くんですー。推薦決まってんやからね。もうルンルンやねんで」
何と憎たらしい。山田はすでに推薦が決まっていて、受験地獄とは無縁の人間であったのだ。
「そういえば、二学期に入って早々、吉元大学の推薦決まってたんだっけ。ホント、うらやましい」
「ちゃうやろ! 吉元大学やのうて、新松竹(まつたけ)大学やて教えたったやろ。いったい何べん言うたら分かんのやろ。ほんまに、もう!」
千加子にはどうでも良いようなものだが、山田には今後の人生を左右する、というほど大層なものではないが、クラスメートの誤解は無視できないもので、トレードマークのふくれっ面で、二十センチ下から千加子をにらみ上げた。
「ほんまに、気分悪いわ。はよ大学のキャンパス踏んで、気分直ししてこぅ」
何度言っても大学名を覚えてもらえないのが余程頭に来たのか、山田はふくれっ面のまま、千加子に挨拶もしないで改札をくぐってしまった。
「ゴメン、お花。機嫌直してね。バイバイ」
肩をすくめ、親友の背中に謝罪の言葉を投げると、千加子も駅から溢れ出た人の波に紛れチャリ置場へ急いだ。古代へタイムスリップするところ、危うく近未来の謎のお笑い天国か地獄か分からないが、未知のワールドへ引き摺り込まれるところであった。
「ただ―――」
玄関戸を開けダイニングのおばあちゃんに声をかけようとして、千加子はすぐ口をつぐんだ。ひとときのうたた寝からまだ目覚めていないかも知れないからだが、
「お帰り、千加子さん。お昼ごはんは?」
おばあちゃんはすでに目を覚ましていて、ニコニコ笑顔で廊下へ出てきた。
「ええ、おばあちゃん。本日は岸和田駅前の食堂街まで足を伸ばし、お刺身定食とやらをいただいてきましたの。おまけにごはんをおかわりいたしましたのよ。ダイエット中だと申しますのに、余りに美味しくて―――」
ほほほと笑おうとするが、上唇に当てた左手に少々違和感がある。
―――ん! ん! ん!
何たる不覚。前歯の差し歯をどこかへ忘れたか、それとも落としてしまったのだ。高二のとき、ウルトラサーブを受け損ね、つんのめったとき折れてしまった前歯ちゃんの代用品。放浪ふらふら癖(へき)差し歯ちゃんが、定位置からどっかへエスケイプしているのだ。
そもそも自宅近くの野田歯科で治療を受けておればこんなことにならなかった。試合会場が姫路で、そこの歯科医院で受けた結果がこのザマだった。三カ月も遠路はるばる通ったあげく、欠陥差し歯を作られたのだ。野田院長なら可能な限り神経抜かずに治療する。ところがどっこい! さっさと神経抜かれ、しかも合う合わないのと、姫こま院長のぶつくさ一人小言を聞かされて、あくび大笑いの度とはいわないが、確率的には二回に一度の割りで抜け落ちる歯だった。
そう、一度などは、寝ボケまなこで口中の異物を昨夜の食べ残しと錯覚し、飲み込んでしまった。あわてて電話しなくていい、というかしてはいけない姫こま医院に電話すると、
「エッ! そら、大変や! すぐお腹切って取り出さんとあかんわ。わしの弟が近くで姫こま外科やってるから、そこへ行って切ってもらい」
院長のアンコウ口からオッソロシイ言葉が飛び出したのだ。さすがに頭にきて、
「姫こま外科へ行ったら、今度は姫こま葬儀社へ送り込む腹なんでしょ! 切るんだったら、アンタの太鼓腹を弟に切ってもらいなさいよ!」
ガチャンと受話器を置いたが、その後の、胃から差し歯を取り出すことの苦しかったこと。ゲーゲーゲーゲー、三時間もつっぷしゲーゲー。無理にあがしてやっと口から出て来た、〈胃の中・大好き差し歯チャン〉を作ったのが、何を隠そうデンティスト・姫こまであったのだ。
「おうおう。お懐かしい、姫こま三人衆。そこもとらが箸墓への最後の通センボなのか。聞くところによると、邪馬台国出雲(いずも)説を奉(たてまつ)っておるとか。さては、出雲族をかたる姫路の支社長クズレなのじゃな。いずれにしても、姫路の折はようもカヨワキ乙女をいたぶっておくれなましたな。ここではワチキは、強い強ーい司令官なるぞえ。さあさ、江戸のカタキを長崎で、ではなくこの桜井でキッチリ返さしてもらうデー!」
最後は大阪弁になってしまったが、箸墓への最後の敵、出雲族をかたる与太公三人衆撃破のチャンスなのだ(ごめんなさい。またまたゲームワールドへの前ぶれなしの投げ出しでありました)。
「皆の衆。ここは私ひとりで十分じゃ。それ! トリプルアタックを喰らエー!」
太鼓腹三人衆に強烈アタックを見舞い、めでたく明日香・卑弥呼ロード完走。の予定が、な、な、何と! ならず者三人衆は、歯科用ペンチと外科用腹切りメス、それに葬儀用ロウソクを巧みに操り、
〈パチン!〉
〈スパッ!〉
〈ボー!〉
と、愛用兵器でトリプルアタックを凌いだではないか。さすが与太公三羽烏とうたわれし、悪徳三人衆。やはり侮れない存在であったのだ。
「よし! 加勢!」
決戦場の、刈り取りの終わった田んぼへ降り立ち、まずのり子が速射ブーメランでデンティスト・姫こまのペンチを奪い去る。
「次は、わたしよ!」
のぞみも決闘場面へ降り立ち、ダーツの矢を放つと、
「ワウッチ!」
サージャン・姫こまの左手からメスがこぼれ落ち、プスンと足下に突き刺さった。
「今度は俺だー!」
優一のオーバーヘッドキックで、フューネラル・姫こまのロウソクが、ヒューる、ルーん! と消えてしまうのだ。
「くそーっ! とりあえず退却して、体勢を整えるぞ!」
デンティスト・姫こまが、額の古典兵器〈円形反射鏡〉を巧みにあやつり、五人に向け、キラキラぴかっ! と秘伝メクラマシ雷光を放つ。
「あっ!」
と、五人が一瞬、視界を奪われたすきに、
「それっ! 今だ、わしに続け!」
デンティスト・姫こまが弟二人に指図して、箸墓手前の脱税要塞へ短足を走らせ一目散に逃げ込む。
「なんと見苦しい。まん丸くじらの可愛い箸墓古墳前に、真っ黒な円形暗黒要塞があったのか!」
千加子が驚くのも無理はなく、普段はインビジブルシールドに覆われていて、まさにブラインド砦であったのだ。
「入り口も見えぬ、なんと! 入りようのない要塞であることか」
優一も舌を巻く、突入不能の〈完璧・百点満点防衛完備砦〉であった。最後の関所は、やはりそう容易(たやす)くは越せぬ難所であったのだ。
「じゃがのう。ワラワの辞書に、〈不可能〉という三文字はないのでありんす。この、不意打ちスカちゃんを食らいなされ!」
〈ブーーー!!!〉
最後に大きく、かの無色・透明・有臭兵器〈スカンクおならチャン〉の最後っ屁をかまして、超余裕のゲームオーバー、
「るんるん」
と行きたいところであったが、
〈キュル、キュル、キュル〉
エアーブースのファン回転とともに、スカンクおならが上空に飛び散ってしまった。
「あー! 悔しい!」
何とも手の出しようのない要塞で、千加子はおろか、歴戦の戦士たちもまさに八方ふさがりであった。
「司令官、お味方に馳せ参じました。この者たちをお使いくだされ」
なんと頼もしい。角田の連(むらじ)が明日・ひみロードの民の子孫を従え味方に馳せ参じてくれたではないか! しかも彼の背後に控えしは、明日・ひみロードの民の最々強軍団・国税査察族の精鋭であった。
「それ! かかるのじゃ!」
角田の連の扇子が一閃するや、
「はっ!」
黒ずくめの国税査察族精鋭が脱税要塞へ吸い付き、一糸乱れぬ動きで防衛完備砦にペタペタペタと〈窒息・差し押さえ札〉を貼り付けていくではないか。
「く、く、苦しいー! くそー! 苦しうて、い、い、息ができんやないかー!」
脱税要塞が赤札で覆われると、とうとう我慢できず太鼓腹三人衆が明日・ひみロードへ飛び出してきた。
「国税査察族、ありがとう。さあ、もう一度トリプルスパイクだー!」
今度はきっちり、ドン! どん! ドン! と三連スパイクが太鼓腹に決まり、与太公三人衆は、
「うーん!」
と悶絶一声、じゃなく三声を上げ、ロード脇の田んぼの畔に倒れてしまい、まん丸おなかをお日様に向けてオネンネであった。
さて、空想ゲームワールドは最後の砦を通過し、めでたくゲームセットでありますが、千加子が卑弥呼に目覚めるウツツ世界はまだ終了の一歩手前でありました。今しばしのお付き合いを願い、〈カム・バック、差し歯チャーン!〉と、差し歯シーンに逆戻りであります。
「もう捜しに行くのは、やーめよーぅ」
付ければ外れる差し歯とはもうオ・サ・ラ・バだ。たこじぞう駅近くのアシタバ歯科医院で新しい差し歯をアシタ作ってもらおう。それまでの辛抱だ。そう決意して、ダイニング隣の自室へ入って、買ってきた中古本を読み出す。
「ヌヌ! ヌヌヌ! また又、ヌヌヌ!」
何と素晴らしい。目からウロコではないが、かくかく、しかじか、丸々、三角、六角、八角、十二角と、古王朝の謎が次々と解き明かされて行くではないか。釣瓶落としの秋の陽がすっかり沈んでも、時の経つのを忘れ読み耽っていると、
「ただいまー」
午後五時三二分。食事当番の、元スワンクリーニングの看板娘のり子が玄関戸を開けた。と同時に、
「やったー!」
千加子が自室のドアを開けて飛び出してきた。
「古王朝の謎が解けそー!」
何を根拠にするのかよく分からないが、著者の解釈から大いにヒントを得たのは事実で、キョトンと怪訝顔ののり子に抱きつき、
「♪まほろ まほろばよ ♪いずこありしか♪ 古代ロマンの、謎―――が解けそー!」
至福の笑顔で語りかけるのだった。
「あー! 最高! 今度の日曜、箸墓古墳へ行って卑弥呼がいるか確かめてこよう。そして、今から猛勉復帰。大学で、古墳王朝誕生の解明だー!」
ポカンと、???―――トリプルクェスチョン顔ののり子を残し、千加子は庭へ出て何度も何度も雄叫びを上げたのだった。そう、千加子は宇宙人ではなく、卑弥呼の生まれ変わり、というか卑弥呼が生まれ変わったのでありました。
♪ 桜井箸墓 ここにおわすか 邪馬台国を治めし人よー ♪
センター試験改悪の大学入学共通試験も、今回は甘んじて受けよう。猛勉スタートだ。ダッシュをかけねば、大学で我が学説を形成し得ぬのだ。ここに千加子の転校の季節がパーフェクトに幕を下ろし、木枯らしに枯れ葉舞う、受験の季節への準備完了であった。
【ハウステンボス-岸和田-箸墓オバケGame】👻受験生は妖怪と卑弥呼が大好き❤️ 南埜純一 @jun1southfield
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