ドラッグと人狼ゲーム

藤野 悠人

ドラッグと人狼ゲーム

〇登場人物

遠藤 違法薬物捜査員。山本、高田よりも年齢は上。(男女どちらでも)

山本 違法薬物捜査員。遠藤の部下。高田とは同期。(男女どちらでも)

高田 違法薬物捜査員。遠藤の部下。山本とは同期。(男女どちらでも)


※一人称、語尾、話し方等々、自由です。


〇概要

三人は違法薬物を取り締まる捜査チームに所属している。

ある日、遠藤は山本と高田を集めて「捜査チームの中に、違法薬物の元締めである敵対組織に、情報を流している裏切り者がいる」と話す。

そこから、三人は捜査チーム内の人間にも疑いの目を向けるようになる。


〇補足

 作中に登場する「違法薬物を取り締まる捜査チーム」は、現実の警察や麻薬取締捜査官のようなものです。そのまま使うと怒られた時に面倒なのでボカしてます。


 登場人物は男女どちらでも初見で演じられるように可能な限り設計はしていますが、部分的にはどうしても無理がありました。話しやすい一人称や語尾でどうぞ。



――以下、本文――



〇シーン1/秘密のチーム


遠藤「さて、山本、高田。二人を呼んだのは他でもない。いま特別チームで捜査中の、違法薬物についての話だ」

山本「いやいや、遠藤さん。こういうのは捜査チームで会議を開いてやるものでしょう。三人だけでどうするんですか」

高田「私も山本と同意見です。全体で情報共有をするべき話だと思いますが」

遠藤「あぁ、確かにそうだが。二人とも、よく聞け。この先、捜査チームの人間をあまり信用するな」

高田「どういう意味ですか?」

遠藤「先週、薬物の密売人がひとり検挙されただろ?」

山本「はい、繁華街でひとり捕まったやつですよね」

遠藤「そうだ。だが考えてみろ。店も多ければ路地も多い。いざとなればまぎれて身を隠す人混みは目の前。そんな所で、ひとりしかホシが上がらないのは、不自然だと思わないか?」

高田「言われてみれば、確かにそうですね。問題の違法薬物は、かなり広範囲の地域で乱用者が摘発てきはつされています。範囲が広いということは、売りさばいている売人の数だって多い、と考えるのが自然ですね」

山本「この前、密売人が捕まった繁華街も、元々乱用者の発見が多い地域でしたよね。確かに、ひとりだけというのは考えづらいですね」

遠藤「黒幕はまだ不明だが、ひとり捕まっただけで元締めがバレるようなヘマはしないはずだ」

山本「でも、それが捜査チームの人間を信用しないことと、何が関係あるんですか? 相手組織が密売人の配置を変えた可能性の方が高いのでは?」

高田「もしかすると、いや、まさか」

山本「ん? どうしたんだよ」

高田「いや、思いつきだけど。遠藤さん、捜査チーム内に情報を流している人がいると?」

山本「え、裏切り者がいるってこと!?」

遠藤「そうだ。捜査チームの誰かが、違法薬物の元締め、或いは密売人に、何かしらの手段で情報を流している可能性がある」

山本「でも、根拠はあるんですか? それに、うちの捜査チーム、50人はいますよ? その中から、どうしてわざわざ自分と高田が?」

遠藤「ひとつ目、先日の繁華街の一斉捜査は、チーム内だけで極秘に進めていたことだ。しかし、いざ捜査をする日に限って、どこにも密売人らしき姿がなかった」

高田「タレコミや通報、他の調査によると、普段は常に三、四人は、怪しい人物を見たという報告が上がってますからね」

遠藤「そうだ。そして二つ目は、人数が多いと誰から情報が流れてもおかしくない。お前たちを信用に足ると判断したのは、まぁ、勘だな」

山本「はぁ。それにしても、誰が何のために、情報を横流ししているんでしょう。順当に考えれば、何か見返りを受け取っているっていうのが有力でしょうけど」

高田「もしくは、何らかの弱みを握られて脅されている、とか」

遠藤「理由はどうあれ、これでは捜査が全く進展しない。身内にも疑いの目を向け続けないといけない。しかし、私ひとりでは動ける範囲にも限界がある。だから、二人は怪しい動きをする人間がいれば、ここで情報を共有してほしい」

山本「分かりました!」

高田「了解です」


―――


シーン2/殉職者じゅんしょくしゃ


 前回の場面から数日後。

 三人とも、暗い気持ちを抱えている。

 山本は特に落ち込んだ表情を浮かべている。


遠藤「ふたりとも、お疲れ様」

山本「お疲れ様です」

高田「お疲れ様です」

遠藤「聞いたよ、大原が殉職したそうだな。山本、大丈夫か?」

山本「はい、自分は、なんとか」

遠藤「山本と組んで向かった現場で、撃たれたらしいな」

山本「はい、自分が一緒にいました。何もできずに、情けないです」

高田「お前のせいじゃない。拳銃で不意打ちで撃たれたんじゃ、仕方ないよ」

山本「仕方なくなんかない!」

遠藤「おい、落ち着け山本!」

山本「大原さん、来月は娘の誕生日だって、現場に行く直前まで嬉しそうに話してたんだ! 絶対に死ねないって! 高田はなんでそんな平気な顔してるんだよ!」

遠藤「おい山本、言いすぎだ、そのへんにしろ」

高田「平気なわけないでしょ! 新人だった時、大原さんが教育だった! 成績も、要領も悪かった俺を、見捨てずにいてくれたのは大原さんだった! だけど、泣いて喚いていたら捜査は進むの!?」

遠藤「あぁ、もう、お前ら! ストップだ! いい加減、そのへんにしとけ!」

山本「すみません」

高田「失礼しました」

遠藤「お前らにとっては先輩だし、悲しいのは分かる。でもな、私にとっても、大原は同期だ。こういう仕事をしている以上、覚悟はしていたつもりだったけど、まだ受け止め切れていないよ」

山本「そうでしたね。それなのに自分たちばかり、すみません」

遠藤「いいんだ。大原以外にも殉職した仲間はいた。お前たちも、じきにそういう時が来る。しかし今日の所は解散しよう。二人もしんどいだろう。今日は上がって休め」

山本「分かりました」

高田「はい、失礼します」


―――


シーン3/裏切り者


遠藤「もしもし。私だよ、遠藤だ。あぁ、大丈夫。万事順調だ。次は池袋の、ほら、雑居ビルがあるだろう。そう、あそこだ。そこの空きテナントが、拠点のひとつじゃないかって報告が上がっていた。最近、隠し方が雑じゃないか? あまり手間を増やさないでもらいたいものだね。あぁ、報酬はいつも通りに。では、よろしく」


 遠藤、電話を切る。


山本「遠藤さん、誰と話していたんですか」

遠藤「なっ、山本!?」

高田「動かないで!」

遠藤「高田まで。おい二人とも、なぜ私に銃を向けるんだ。私たちはチームだろう。それを下ろしてくれないか」

山本「裏切り者を前にして、銃を下ろせと?」

遠藤「なに?」

高田「最初から少し不自然だと思っていました。自分も、山本も、捜査チームの中では、それほど重要なポジションにいるわけじゃない。情報を横流しするなら、もっと動きやすい人間だっていたはずなんです」

山本「疑いが強くなったのは、大原さんが亡くなった時。あなたは、他の同期の人に声を掛ける前に、真っ先に俺たちの所に来た。不自然だと思ったんだ。もしも俺なら、もっと大原さんと関わりの多かった人の所へ、真っ先に話をしにいく」

遠藤「いや、それは、一緒に行動していた山本の方がショックが大きいと思ったからだ」

高田「もうひとつ。遠藤さん、あのとき大原さんが『撃たれた』と言ってましたよね。あの日、まだ詳しい現場報告が上がる前でした。自分たちは、『大原さんと山本が現場で突然襲われ、大原さんが殉職した』ということしか知らないはずなんです」

山本「どうして見てもいない現場で、大原さんが銃で撃たれたことを知っていたんですか?」

遠藤「ははは、そうか、そうだったな。迂闊うかつだった。いやぁ、失言だったな」

山本「認めるんですね」

高田「遠藤さん、残念です。とても残念ですよ。よりにもよって、あなたを捕まえないといけないなんて」

遠藤「あぁ、観念するよ。私の負けだ」


 周辺から何人もの捜査員が現れ、遠藤の手に手錠を掛ける。

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