【執筆背景・制作秘話的なもの】
本作は、白灰いち氏に読んでいただく作品として構想、執筆した作品です。
本作のテーマは、ズバリ『愛』。たったひとりの恋人であり、短いながらも夫婦でもあったレイチェルを想い続けるバンパイアの男の生涯、その一部を、ジャック、ビル、ミシェルという、3人の子どもの立場から描いてみました。
今作の執筆に際しては、スティーブン・キングの名作のひとつであり、映画化もされた『スタンド・バイ・ミー(原題『The Body』)』が、作品のベースとなっています。3人の子どもたちが(『スタンド・バイ・ミー』では4人の男の子)、ひと夏の冒険を通じて友情を築いていく点や、物語が主人公・ジャックの回想という形で始まる点などが、分かりやすい部分でしょうか。
また、作中に登場した『花が供え続けられている墓』。実はこれにも、実在のモデルが存在しております。それは、ドイツに伝わる都市伝説で、『キャロライン・ウォルターの墓の花束』と呼ばれるものです。
16歳という若さで亡くなったキャロライン・ウォルターという女性の墓に、なんと140年以上も花が供え続けられている、というものです。しかも、誰が供えているのか全く不明。オカルト好きの間で様々な考察がされており、その中のひとつに「バンパイアの恋人が、人目を忍んで花を供え続けている」という、なんともロマンチックなものがあります。
また、『人ではない存在になってしまったが、人として死ぬことを決意する』というバンパイアのキャラ設定は、荒川弘先生の名作コミック『鋼の錬金術師』のヴァン・ホーエンハイムがモデルに。
『大人達にとってバンパイアのことは公然の秘密であり、それを代々守り続けている』という点には、尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』における『ドレスローザ編』の大人たちの姿が、それぞれモデルとなっています。偉大な諸先生方の作品に敬礼。
【登場人物】
〇ジャック・ニコラス・アンダーソン(Jack Nicholas Anderson)
本作の主人公。読書とサッカーが好きな男の子。
性格は真面目でちょっと控えめ。
特に好きな本は『ガリバー旅行記』。
高校を卒業後、故郷を出て大学に進学。
社会人として働きながら小説を書き、童話作家として成功する。
〇ウィリアム・スティーブン・"ビル"・フィリップス(William Steven "Bill" Philips)
ジャックの親友。
「ビル」というのは、英語圏での「ウィリアム」のニックネーム。
少々やんちゃで冒険好きな男の子。
勉強は苦手だが、スポーツとイタズラのアイデアはピカイチ。
高校を卒業後も町に残って仕事をする。
ミシェルと結婚し、管理人のおじさんと約束した通り、子ども達に霊園に近付かないようにと教える。
〇ミシェル・ニーナ・タイラー(Michelle Nina Tyler)
主人公3人組の紅一点。
そばかすがチャーミングな女の子。
勉強が得意で、理数系に強い。また、歴史好き。
高校を卒業後、看護学校に通い、看護師になるという夢を叶える。
ビルと結婚し、子ども達に霊園に近付かないようにと教える。
〇管理人のおじさん/ユリアス(Julius)
カール・ストリート霊園の墓守を務めるおじさん。
眼鏡を掛けていて、気難しそうな顔をしている。
正体は、約300年生きたバンパイア。
人生の後半は人間の血を一切飲まなかった。
ユリアスという名前は、バンパイアの洗礼後に名付けられた名前。
人間時代の名前は本人も忘れている。
〇レイチェル・グリーン(Rachel Green)
とある町の酒場の看板娘にして歌い手。
ユリアスの最初で最後の妻。
そして、彼がこの世で最も愛し、生涯を捧げた女性。
流行り病に罹り、若くしてこの世を去った。
享年21歳。
昔々、ある街でのこと。
「あなた、何者なんですか……」
青年は、目の前に現れた男に問いかける。男は口元についた自分のものではない血をぬぐって、青年に鋭い目を向けた。
「ふむ。名前を聞かれたのであれば答えよう。私はウラヌス。まぁ、ご覧の通り人間ではないがね」
男は短く笑い、続けた。
「時に青年、君はどうやら迷子のようだね。そして、自分の家に帰りたくないと見える。そこで提案だ。
人間の名前を捨てて、私の息子に……バンパイアになるつもりはないか?」
『秘密の花束』過去編。現在、プロット進行中。