最終話 お姉さんと僕と……
僕は目を細めた。
ユグドラシルは目映く、直視出来ないほどに輝いて、その光は大地に広がってゆく。
世界は荘厳な光に包まれて、荒廃していた大地が鮮やかな緑に溢れてゆく。
世界が緑一色に染まり、今度は色とりどりの花々が咲き始めて、世界が一面の花畑になった。
花は瞬く間に種や実となり、次の命を生み出し、育んでゆく。
世界が瞬時にして動植物に溢れかえった頃、呆気に取られていた僕は我に返った。
いつの間にか、僕の手や額の傷も治っている。もう、痛くもない。
そして、僕は気付いた。
僕の頭上で、ひときわ大きな花が、ユグドラシルの樹に咲いている事に。
その極彩色の花はやがて大きな実をつけて、膨らみ、鮮やかに色付いてゆく。
よく見ると、その実の先にそれは赤い魔石が輝いて見える。
次第にその光は収束して行き、魔石は塵となって消えた。
その魔石の無くなった箇所から光が差し、そこから外皮が裂けて、中から目映い光が漏れて、零れて落ちた。
それは
整った顔立ちと、長い肢体と、起伏の大きな身体の……
お姉さん!?
お姉さんが空から降って来た!
ゆっくりと
ゆっくりと
……ドサッ!
「いてて……お姉さん?」
僕は恐る恐る降って来たお姉さんの顔を確かめる。
「ん……んにゃ……?」
間違いなくお姉さんだ!
「お姉さん!!」
僕はお姉さんにしがみついた!
「ノア君!?」
お姉さんの体重が心地良い。
やわらかくて
とても温かで
いい匂いがする。
「すんすん」
「もうっ! ノア君のエッチ!」
僕はお姉さんの胸に顔を埋めて
「僕のお姉さん♡」
お姉さんはそのまま受け止めてくれる。
「私の王子様♡」
僕たちはユグドラシルの樹の下で愛を誓った。
─もう二度と離れない。
『──全てだ この世界の全ては私の愛と共にあるのだから』
世界はユグドラシルの
─《一年後》
お姉さんはベッドで半身を起こし、窓の外を見ていた。
「お姉さん」
振り向いたお姉さんは頬を膨らませて言う。
「もうっ! あなた? その呼び方は辞めてってあれほど……んっ!?」
僕はお姉さんの口を閉ざす。
「相変わらずラブラブじゃな?」
「ほんと、来るんじゃなかったよ」
「レナちゃん、アイザック!」
「そこにコソコソ隠れておった、お父さんズを連れて来たぞ?」
「んん!」
お姉さんは慌てて吸い付く僕を引き剥がした。
「お父さん!?」
「おう、そこで偶然レメクさんと遭ってな、お前たちの様子を見に来たところだが、二人ともお熱い様で何よりだ」
お姉さんの父親のギルヴァさんは、レナちゃんに神殿に運ばれて、蘇生術が成功したらしい。この世界でも二分の一の確率しか成功しない魔法だ。
今は迷惑をかけた帝国で、自分の持つ知識や技術を余す事なく提供しているらしい。
「ルナ殿、それで報告とは?」
「うふふ♪ ルナちゃん、こっちに来て?」
─ガチャリ…
「はい、ルナ王女殿下」
「もうっ! ルナちゃんまで、その呼び方辞めて?」
「ウフフ♪ 冗談ですよルナたん」
ルナちゃんは隣の部屋から大きな籠を持って来て、皆がソレを覗き込んだ。
─おお……
自然と柔らかな笑みを、部屋いっぱいに咲かせた。
それは小さな小さな赤子だった。
「名前は『アル』、男の子よ?」
僕たちの子・アルは、にこにこと笑って小さな手をいっぱいに拡げている。
お姉さんは籠の中のアルを優しく抱き上げて、軽く頭を撫でた。
僕たちはこの小さな命を、明日に繋げるために、このユグドラシルを守って行かなければならない。
また今回のような事が起こるかも知れないけれど。
僕たちはこの子の手の先に、夢と平和を約束しよう。
そう誓った。
「あうあう〜」
「はいはい、ごはんの時間でちゅね〜」
「ほらみんなっ! 出て行って!!」
「そう言うノアは出て行かんのか!?」
「僕はアル君のお父さんなんだからねっ!?」
「ルナちゃんも子供二人を世話だなんて大変だな?」
「そうにゃんよ、うふふ♪」
「はいはいっ、出てって〜!」
─は〜い!
─パタン……
「ねえ、あなた?」
「ん?」
「何してるの?」
「おっぱい」
いてっ! おでこをパチンて叩かれた!
「もうっ……ノア君は仕方ないなぁっ!」
なんて言いながらお姉さんは僕を優しく撫でてくれる。
こうして、僕の隠居生活は始まったのだ。
─fin─
お姉さんが宇宙《そら》から降って来た! かごのぼっち @dark-unknown
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