6-4
美弾は、素早くやってきた。ボールもしっかりとつかんだ。そして……自ら突っ込んだ。あり得る作戦だが、リスクも大きい。心配通りすぐに美弾は捕まって、スクラムハーフがボールを出せない、ノーハーフ状態となってしまった。
「助けて、岸谷!」
美弾が情けない声を上げた。確かにこのままではジャッカルされてしまう。駆け寄った僕は、なんとかボールをつかみだして、戸惑った。これまで、スクラムハーフの役割をしたことはない。さすがに、どれだけ人手不足でも、そこを任されることはなかったのである。
緊張する。どこに出していいかなんて、瞬時には判断できない。スタンドオフの戸北を目で探すが、どこにいるのかわからなかった。
「岸谷!」
江里口さんの声だった。姿を確認しないままに、ボールを放り投げる。
「うおおおいっ」
江里口さんは天に手を伸ばして、ボールを何とかつかむ。
そこからは、面白いように前進できた。待望のトライ。
ただ、ここで勢いをつける、ということはできなかった。両軍を点を取り合って、差は縮まらなかった。
部内紅白戦
試合終了
白組24-45紅組
「ああ、やだ!」
試合後、美弾は首を振っていた。そしてその後、白い歯を見せて笑った。
「楽しかったのか?」
僕が尋ねると、彼はうなずいた。
「今日のは、モテる感じだった」
「ああ、そう」
僕も、悲しい気分にはならなかった。ただ、悔しくないわけではない。自分の力でチームを勝利させることができるような、そんな存在になりたい。
最後のスローフォワード 清水らくは @shimizurakuha
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