AIが発展し、日常の様々な場面でロボットが働く近未来、ロボット格闘技の王者Clemencyが次なる対戦相手に指名したのは、人間の格闘技王者・柏木応樹だった。応樹はこの挑戦を受けていいものかどうか迷うのだが……。
近年ではAIが将棋や囲碁のプロと対戦し、圧倒的な強さを見せているが、本作はその格闘技版である。ロボットと人間が戦えば、そりゃロボットが勝つだろうと思われるだろうが、本作に登場するロボットはあくまで出力を人間レベルに抑えた存在。つまり勝敗を決するのは肉体の強さではなく、互いの頭脳、技術、そして心の在り方だ。
人間は格闘というジャンルでも機械に超えられてしまうのか? そんなことを多くの人間が心配する中、応樹の考えはもっと根源的なところにあった。自分が誰と戦うのか、何のために戦うのか、彼は悩み続ける。
そうした一人の格闘家の不安や葛藤を丁寧に描くからこそ、ラストで書かれる応樹とClemencyのバトルは非常に熱く、そして戦いの末に訪れる結末は、読者の心に苦いものを残す。
格闘技という枠組みだけではなく、人間対AIという今後ますます書かれるであろう分野を描いた作品としても非常に秀逸な作品だ。
(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)