6-3

 美弾が、ボールを持ったまま固まっていた。誰に球を出していいかわからないようだった。スタンドオフの戸北が慌てて手を挙げる。気づいて美弾はそちらにボールを投げたが、大きくそれて戸北の背後に飛んでいってしまった。

 そちらに走った安生さんが、なんとかボールを確保する。しかし相手がどんどんとそこに襲い掛かる。仕方なく安生さんは、すぐ近くにボールを蹴り出した。

「も、申し訳ないですっ」

 美弾が頭を下げた。

「気にするな。回してくれたら何とかする」

 後ろに安生さんがいるというのは心強い、のだが。

 ラインアウトを奪うことはできず、そのままパスを回されて最後は金田さんが独走した。トライ。犬伏さんがキックも決めた。


部内紅白戦

途中経過

白組0-14紅組


 今日の紅白戦、「戦力は均等に分けた」と龍田監督は言った。ただ、ここまで僕たち白組は苦戦している。

 美弾-戸北の中央があまりうまくいっていないのだ。控えの一年生コンビだから仕方がないし、他のメンバーにも原因はある。僕自身、もっとうまくやれないかと焦っている。

「今は流れが悪いだけだっ」

 そう言って肩に手をかけてきたのは、江里口さんだった。どっしりと構えていて、同じチームにいるととても心強い先輩である。

 敵になってわかったのは、里さんはスクラムハーフとして能力が高い、ということだった。独特のリズムで、正確にボールを投げる。テイラーさんと比べれば足りないところはあるのだろうけれど、そんなに遜色があるようには見えない。

 その後ろに犬伏さんがいて、安生さんもいる。さらには沐阳も紅組なのだ。どうしても、相手チームの方が強いように感じてしまう。

「はあい、こっからこっから」

 こちらのチームキャプテン、西木さんが手を叩いた。確かに勝負はまだ始まったばかりである。

 キックオフで再開し、浅いボールが僕のところに飛んできた。手を大きく伸ばしてキャッチする。

 美弾、早く来い。心の中で叫びながら、タックルに耐えた。

 

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