6-2
2年生スクラムハーフ、里
「んー、どうだったかなあ」
バスから降りて、歩き始めた里さんは首をかしげていた。
「いやあれでいいと思うよ」
隣で話を聞いているのは、同じく2年生の此村さんである。今日は、2試合に出場していた。
「そうかなあ。もっと安生に回せばよかった」
「そうは言ってもなあ」
里さんにとって、「全部出て当たり前」の状況は初めてだっただろう。昨年はテイラーさんとは別に、星野さんというスクラムハーフがいた。この二人がほとんどの試合で出ていたはずだ。
勝ち取ったわけでもない先発。悩みは深かったのかもしれない。
「出番なかったあ。良かったあ」
一応、スクラムハーフはもう一人いる。一年生の美弾である。女子ラグビー選手と付き合うのが夢で、モテると思ってスクラムハーフに志願した。試合に出ることはほぼないと思われていたが、出番の可能性が出てきたのである。
「出ないとモテないよ」
「まだ早い」
「監督も女子ラグビー選手らしいから、監督にまずモテたら?」
「むむむ、それは難題だ」
美弾の表情がこわばっていた。監督が怖いのではなくて、試合に出ることに恐れているのだろう。今日は朝から様子がおかしかった。
「俺は出られれば常に出たいけどね」
「吉広はさ、試合慣れしてるもんな。物怖じしないよな」
美弾が羨ましそうな表情でこちらを見る。
「負けすぎて感覚麻痺した。休む暇なかったし」
「あれよね、犬伏先輩もハーフやってたっていう」
「うしろは全部一通りやってたよね。俺は前を一通りやった」
「器用じゃん!」
「できてたわけじゃないし」
人数ギリギリだったので、とにかく何でもするしかなかった。試合中もポジションらしい役割とか言ってられず、とにかくボールに食らいついていた。ある意味、一からすべてを学べている美弾は羨ましい。
「どうした後継者候補」
後ろから声をかけてきたのは、テイラーさんだった。様子は明るい。
「え、俺がテイラーさんの後継者? やったぜ」
「まじで、頼むよ。俺も一年の時は緊張した。二人も先輩がいるのに試合出てね。なんか強そうな顔をして乗り切った」
「俺も顔、見習います!」
「ははは。結構大事よ」
テイラーさんは、美弾の背中を軽く叩いた。
先輩は軽く言っているけれど、大変だったと思う。僕は中継を見ていたけれど、ポジション変更や怪我があり、1年生で3番手スクラムハーフのテイラーさんが大事な試合に出ることもあったのだ。
「早くモテるプレーと顔、できるようになります」
「ま、俺はもともとの顔がいいから、なかなか追いつけないだろうけどね」
そう言ってテイラーさんは笑い、美弾も笑った。僕も笑いながら、美弾が笑えなくなる時を思って、苦笑しそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます