第14話 運命の星

 

 祭りからの帰り、はるかちゃんとは駅で別れた。自宅への帰路に少し心が乱れている。


 バイト先の高校生からの告白。断りの言葉。自分には好きな人がいるという再認識。


 それなのに、はるかちゃんの涙を放っておくことができない中途半端な対応で短い時間とはいえ、拒否できずに抱きしめてしまったこと、しかも質の悪い事に抱きしめてる間、はるかちゃんを可愛いと思っていた自分に罪悪感を感じてしまっている。


 この罪悪感はサクラに向けてのものだ。付き合ってはいないけれど、僕がお願いして一緒に住んでもらっている。いつの間にか大切な存在となった意中の相手。もし逆の立場で同じ事をされたら嫌な気持ちになるに違いない。......サクラが同じ気持ちになるかどうかまた別の話だけど。


(もしかして、サクラ怒ってるのかな)


 ―――すっかり遅くなって寝てしまったせいか、もう部屋の灯りが消えている。鍵を解錠して中に入ると部屋は真っ暗だった。音を立てないようにゆっくりと入って、キッチンの灯りを点ける。


 サクラの様子を確かめようとベッドに近づくとそこにサクラは居なかった。イヤな予感に胸がギュッと締め付けられる。


「サクラ?」


 部屋の灯りを点けて見渡すがどこにもサクラが居ない事を再確認して気が動転する。そうだと慌てて玄関を確かめると、サクラの靴がない。


 ......これは、女の子と出かけてしまった僕への罰なのか。僕は取り返しのつかない事をしてしまったのではないかと不安が襲ってくる。


 最近のサクラは様子がおかしかった。ずっと苦しそうなそんな気がしていたのに、それに気付いていながら僕はどうしたらいいのかわからず何も出来ずにいた。


 せめて、そばに居てあげることぐらいはできたはずだった。このタイミングで遊びに出かける僕に嫌気が差してしまったのかもしれない。


 いや、コンビニに買い物に行ってるだけかも。悪い考えを都合の良い事に置き換える。待っていたらサクラは帰ってくるのか......。


 どうしたら良いのかわからず部屋の中をウロウロと彷徨った。ハッと気が付いて部屋を確認すると何もかもがなくなっていた。イヤな予感は決定的な証拠を突き付けられて確信に変わる。吐き気に似た気持ち悪さが喉の奥からこみ上げてきた。


(サクラの私物がない)


 頭を抱えてサクラが出ていった理由を考えようと試みるがなにも思考がまわらなかった。


 サクラが居ない、その実感が少しずつ胸を侵食してぽっかりと穴をあけていく。


 絶望を感じながらも、外にでる。遠くにさえ行っていなければまたサクラを見つけられるかもしれない。お願いだよサクラちゃんと探すから、見つけて謝るから、僕が見つけられるところで待ってて。

 

 僕は思いつく場所をくまなく探した。サクラと初めて出会った公園、買い物に出かけたお店、駅周辺、もしかしたらと思うところを直感を信じて全部探した。


 けれど、サクラは見つからなかった。




§ § §




 ―――どこにも行く宛てはないけど、ひとつだけ行ってみたい場所があった。目的の喫茶店に辿り着く。今ここにユウトもあの女も居ない事はわかっている。


 喫茶店の中に入ると洒落た店内に居心地の悪さを感じる。落ち着いた雰囲気の中で私の派手な髪色が浮いている。


「いらっしゃいませなのよ、こちらへどうぞ」


 私は、出迎えてきた店員の誘導に従って壁際のカウンター席に座った。ここは丁度死角になっていて店内から見えなくなっている。たぶん不釣り合いな私のような客が来た時にここへ座らせるのだろう。そんな気がした。


「ご注文はお決まりかしら?」


「甘いやつならなんでもいい」


「ふふ、面白い注文をするのね」


「そりゃどーも」


「あなたに少し興味があるのよ、奢るから少し話をさせてくれないかしら」 


 私は興味なくあしらう。


「そういうのはいーよ別に。こういう見た目だけど問題起こそうってわけじゃないしイヤなら出ていくよ」


「ふふ、あなたが問題を起こすなんて思ってないのよ。本当に興味があるの」


「変な人だね。でも店員が勝手にそんなことしていいわけ?」


「これでもこの店の店長なのよ」


「へぇ」


 ユウトが言ってた店長ってこの人か、ユウトが辛かった時に世話をしてくれた人なんだとは思ったけど、でもやっぱりめんどくさいからわざと怒らせるような質問をする。


「ねぇあんた、なんで中途半端に男のフリなんかしてるの?」 

 

 態度悪く頬杖をつき、相手の顔色をみる。


「よく女に間違われるのだけど、男のフリって言われるのは初めてなのよ」


「下手な嘘。どうでもいいけど」


「......わかるかしら?」


「わかるよ」


「あなたは言葉に惑わされず良く人の事を見ているのね」


 店長を名乗る女は『質問に答える前にまずはミルクティーを淹れてくるわ』といって離れていった。会話を打ち切れなかったことにため息をつく。まぁ奢ってくれるなら良いかとどうでもいい事をあきらめた。


 しばらくすると、ホットのミルクティーが運ばれてきた。店長を名乗る女の顔をみると『どうぞ』と手のひらを上に向けてジェスチャーするので、一口含む。茶葉の香りとミルクの優しい味がした。美味しい。私が無言で味わっていると女は口元に笑みを浮かべ椅子に腰かけた。


「......なに?」


「ふふ、なんでもないのよ」


「店長が仕事しないでいいわけ?」


「良いのよ、優秀なスタッフが全部やってくれるわ」


「あっそ」


「さっきの質問に答えた方が良いかしら?」


「いい、もう興味なくなった」


「そう......私ね。ここで働く前までは占い師をやっていたのよ」


 私は興味なさげに髪をいじくりながら返事をした。


「へぇ」


「あなたと、優斗ちゃんを引き合わせようと思ったのは私よ」


 ユウトの名前が出てきたことにびっくりして女の顔をまじまじと見る。


「あなたにとって、私のお節介は迷惑だったかしら?」


(なんでコイツ私の事を知ってるの? ユウトから私の特徴を聞いていた?)


 私はどう答えようか考えたが、もしそれが本当だったなら嘘は言いたくなかった。


「もしそれが本当だとしたら......迷惑じゃなかった」


「そう、それは良かったのよ」


「......なんでわかったの?」


「なんとなく感じるのよ。あなたのまわりを優斗ちゃんが心配そうにウロウロしてる感じが。まるで、飼い主を心配してる忠犬みたいね」


「あはは、なにそれ」


 私はゴールデンレトリーバーが私の周りでうろついているのを想像して笑った。


「あなた、優斗ちゃんから離れようと思ってるのね」


「そんな事もわかるの? さては人間じゃねーな」


「ふふ、面白いわねあなた」


 店長は私の横に置いてあるカバンから服が飛び出てるのチョンチョンと指さして微笑んだ。それをみて納得する。


「あーーー」


 私が無言でいると、言葉を重ねてきた。


「お別れはちゃんと言ったのかしら?」


「......」


 お別れという言葉に胸が締め付けられる。自分で思うのと人から言われるのとでは感じ方が全然違ってくるんだなっとそんなことを思う。


「あなたは優斗ちゃんの1年前の話は知ってるかしら?」


 1年前って聞いて思い当たるのはユウトのお母さんとの死別。でもそのことを言っているのかわからないから視線を外して『知らない』と答えた。


「そう、知っているのね」


「知らないって言ってるでしょ」


「大事なことなのよ、優斗ちゃんはあなた以外にそのことを話してる人はいないわ」


「まわりくどいよ。何が言いたいの?」


「彼にとってのあなたは特別な存在ってことなのよ」


「......そんなことあるわけないじゃん。邪魔な私が居なくなればユウトは勝手に幸せになるでしょ」


「勝手に幸せに......ね」


 私はただの居候で、ユウトにとっては居ても居なくても良い存在。むしろ私は邪魔な存在だからこそ消えようと思ってたんだ。


「最近の優斗ちゃんを見てるとね、わかるのよ。『家に帰るのが楽しみだー』って顔に書いてあるの、彼はわかりやすいから」


「顔に書いてあるわけないじゃん」


 そんな当たり前の事を言って話を折る。


「あなたが居なくなった後、迷子の様にあなたを探す彼が想像できてしまうのよ」


「......」


「あなたの人生なんだから、最終的にどうするかはあなたの自由だわ。私は出ていくのをやめてと言うつもりはないのよ。だけれど、優斗ちゃんにお別れを言う機会を作って欲しいと願うわ」


 私は考えた、『出ていけ』と言われる私と、『出ていく』と言われるユウトのその違いを。想像の中のユウトはケンカした時のような悲しい顔をしていた。


「どうせ消えるのに、そんなの意味あるの」


「もちろん。言葉とはそのためにあるのよ」


 お別れの言葉か、唇をギュッと引き締めて私は難しい顔をした。


「でも私はもうあの部屋には戻れない」


「それなら、あなたと優斗ちゃんが出会った場所で待ってみたらどうかしら。きっと彼はあなたを探して見つけると思うのよ」


 ユウトが私を? それはどうかなっと思うよ。


「もし、見つけられなかったら?」


「その時は、そういう運命だったのよ。チャンスを与えられて掴み取れなかった優斗ちゃんが悪いわ」


 私は色々な事を思い出して、深くため息をついてうなだれた。


「はぁ、奢ってもらうんじゃなかった。私さ、貸しとか借りとか嫌いなの。あんたのその願いを受けるって事で貸し借りなしにしてくれない」


「もちろんなのよ」


 店長を名乗る女はあたかも私がそう答える事を見え透いていたように柔らかいほほ笑みを浮かべていた。


「ねぇ、占い師ってのは人の未来でも視えてるもんなの?」


「未来はわからないわ、視えてしまったらそんなのつまらないじゃない」


「あっそ」


「私のお願いに対して、ミルクティーが一杯だけでは対価に釣り合わないのよ。何か作ってくるから、食べてゆっくりしていって、あなたのタイミングで向かうと良いわ」


「そりゃどーも」


 私はもしユウトが本当に見つけてくれたらとか、逆に見つけてもらえなかったらを考え始めて心が落ち着かなくなった。手放したものが向こうからやって来るかもしれない希望を与えられて、心がソワソワする。あきらめたはずなのに、手放したはずなのに、胸が苦しい。


 ......もし来なかったら、その時やっと未練も断ち切れたりするのかな。


 結局長い時間を心を落ち着かせることに費やしてしまった。


「そんな顔しなくても逃げたりしないよ」


「時間を気にしてるのなら良いのよいくらでもここに居て、もしかしたらあのドアから優斗ちゃんが飛び出してくるかもしれないわ」


 店長を名乗る女は店の入り口に流し目を送り、顎をクイっと動かした。


「それもそっか。じゃぁ行くよ。ごちそうさま」


「もし、今夜泊るところがなかったらまたいらっしゃい。無理なお願いをさせてしまった結果だもの1晩くらい泊めてあげるのよ」


「ご親切な事で、あんたが私とユウトをまた引き合わせるのはなしにしてよね」


「もちろんなのよ。そんな運命を私の手で直接いじるような無粋はしないわ」


 ―――喫茶店を出て、もう見慣れてしまった街並みを歩く。ユウトと初めて会ったあの日。家出したあの時と同じように向かう場所はあの公園。


 もう夜も深く、公園の静まり返った様子は昼間の明るい雰囲気から逆転して気味の悪さすら感じる。......すこし、入るのが怖い。


 それでも公園の中に入っていく。公園の中央まで歩いた時に木々が擦れ合う音がなんだか不気味に聞こえて立ち止まり、何かの気配を探るけど公園には誰も居なかった。


 きっと心細さのせいで過敏になってるんだ。


 屋根の下のベンチに座る。最初に出会った時にユウトが座っていた場所。隣を見ると私が座ったベンチがある。改めてみると結構距離がある。私ってわざわざあの距離から『こっちみんな』って言ってたんだ。いきなり不機嫌な女が現れて八つ当たりされてユウトも困っただろうな。


 正面を向くと丁度公園の入り口が見えた。


(ユウトがあの日見ていた景色はこう見えてたのか)


 ―――しばらくすると、入り口に人影が見えた。影になって顔が見えないけど、もしかしてっという気持ちは的を得ていた。


(......ユウト)


「サクラ?」


 ちょっと急いで歩き進める、不安そうに私の名前を呼ぶ主は段々と近づいてきた。呼吸は荒く、額に浮かぶ汗が外灯に照らされて光を包み込みこんでいた。まるで迷子のようなその表情。今まで見た事もないユウトがそこにいた。


「......こっちみんな」


 私はどんな反応を返したらいいのかわからず、眉間にシワを寄せて難しい顔をした。


「サクラ、ごめん。サクラごめん」


 ユウトはまるで縋るように私の頭を抱えて胸に抱寄せた。


「ちょ、ちょっとなに?! 急に抱き着くとか痴漢?」


「サクラ、急に居なくなったら嫌だよ」


「抱き着く理由になってないってぇ!」


 私は恥ずかしくなってジタバタと暴れてユウトから離れようとする。


「サクラはすぐにどっかに行くから、こうしてないとダメなんだ」


 私は引き剥がそうとする力を抜いた。


「......もし、ここにユウトが来たらお別れの挨拶だけしようかなってそんなことを思ってた。」


 逆にユウトは私を離したくないというようにギュッと優しく力が入った。まるで私を大切な宝物のように扱うその態度になんだか涙がでそうになる。


「サクラ、ごめん」


「なんで謝るの意味わかんないし」


「今日、バイトの子と出かけたのがきっかけだと思って」


 そうだけど、それは別に悪いことじゃない。だから謝る必要はない。私が家を出たのは私がそうしようと思ったから。


「......」


「帰ってきてほしい。一緒に帰ろうサクラ」

 

「そのバイトの女とはどうなったわけ?」


「......告白された」


「ほらね無理だよ。なら、私は邪魔でしょ同情とかいらない。勝手に幸せになれば良いじゃん。なんでわざわざ探しに来るわけ?」


「断ったよ」


「はぁ? ばーか、あんなかわいい子がわざわざ向こうから告白してきたのに断ったわけ? バカだなぁユウトはホントばか」


「好きな人が1番近くに居るんだ」


 ユウトは私の目をまっすぐ見つめてそう言った。


「意味わかんないんだけど、何言ってるの?」


「今、目の前に好きな人がいる」


 ユウトの言葉に心臓がドキドキと脈打つ。こんなめんどくさい性格のねじれ曲がったゾンビ女を誰が欲しがる。そんなわけはない......。


「僕が好きなのはサクラ。そう思ったから断ったんだよ」


 好きって言葉が胸に突き刺さる。呆れて言葉もでないよ。


「こんな捨てられた厄介者を好き? だから......下手くそなナンパはやめた方が良いって言ったのに。ばかだなぁこんな不良物件手放した方がいいよ絶対」


 声が震えてまともにユウトの顔がみれない。


「他の誰が君を手放したとしても、僕は君を手放したりしない」


 ......そんなの嘘だ。私は人を不幸にする居たらダメな人間で出ていけと言われる人間で、生きてるだけで怒られるそんな存在なんだ。


「嘘言わないで、そういう希望を持たせるような嘘は私、許せない」


 私を必要としてくれる人、私に私の居場所を作って守ってくれる人ずっとずっと欲しかった願いを彼は匂わせてくる。


「嘘じゃないよ。僕は君の涙を拭う為に生まれて来たんだよ」


 ユウトはいつの間にか私のひとみからボタボタと落ちる涙を拭ってバカみたいな砂糖まみれの言葉を吐いた。よくそんな言葉が言えたもんだね。


「......そんなわけないじゃん」


「僕は君を見つけたその日からずっと楽しいんだ。だから失いたくない」


 ユウト、あなたの言葉を信じてもいいの? 私がずっと欲しかった言葉、私が必要だと言ってくれるその言葉を私は本当に受け取ってもいいの?


「私の気を引くために言ってるなら怒るよ」


「違うから怒らないでほしい。こんな顔を見せるのは僕だけにして」


 拗ねた子供の様に威嚇する。それなのに私の目から涙がとめどなく流れるのをユウトがひたすらに拭い続ける。


 しばらく無言で見つめ合った。そうやって時間をかけてゆっくり、ユウトの言葉を噛み砕いて飲み込んでいく。


「私もだよ。私もユウトと出会ってから楽しかった」


 言葉を出すと、やっと止まりかけていた涙がまた溢れ出す。


「なら......居なくならないでよ」


「だって、あなたを失うのが怖かった。ユウトを好きって言う女もいるし、私こんなだし、好きが何かってよくわからないこんな私が敵うわけないじゃん。私はユウトを不幸にするんだって。頑張ろうと思ってたのに大切に思ってたのに、もう取り上げられるのはイヤ」


「サクラ」


「ユウトを取り上げられるのみたくない。居場所だと思った。ユウトの隣が私の居場所だって。でも違うなら、消えないといけないじゃん! ユウトに『出ていけ』なんて言われたくないから、言われる前に出ていこうと思った」


「そんな事言わないってちゃんと伝えたよ」


「それだけで信じられるほど単純じゃない!」


 ずっと心の中で正体不明のモヤモヤしていたものが言葉によって形になっていく。自分でもわかっていなかった恐怖はそれだったんだ。


 抑えつけられて、言うのをあきらるのが当たり前となっていた。本心、不安、願望は心の奥底でくすぶり変形して解消できないイライラした感情となって表面にでてくる。それで何が原因でこんな気持ちになっているのか自分でもわからずにいた。


 私が恐れていたこと、それはユウトから私はもう要らない。そう思われてしまうことだった。


「サクラが出ていった理由がやっとわかったよ、伝えきれてなくてごめん」


「謝らなくていい......」


「サクラ、僕は君が好きだ。君はこうやってすぐにどこかに行ってしまおうとするから、僕はサクラが出ていかないかハラハラしてるんだよ。もうどこにも行かないで欲しい」


「そうなの?」


「そうだよ。たまにサクラは抱きしめてくれたことがあったけど、その時はすごく嬉しかった。普段サクラから近づいてくれることってないから、抱きしめられてる間すごく幸せな気がしてた」


「私に、されて嫌じゃない?」


「嫌じゃない、嬉しい」


 私を受けいれようとするこの男の言葉にもう一人の私が縋るように手を伸ばそうとする。


「仲直りできたかな」


「......仲直りのやり方わかんない」


「こっちへおいで」


 ユウトはベンチに座ってる私と目線を合わせたまま、両手を広げて私を待つ。彼の瞳は不安で揺れていた。


 私は前に倒れるように正面から抱き着きユウトの背中に腕を回した。


「ユウト、私だって好きなのに、他の人と出かけないで」


「ごめんね。もうしないだから、僕と付き合ってくれる」


「私で本当に良いの?」


「サクラじゃないと嫌だよ」


「うん。......彼女にして、ユウトの恋人になりたい」


「サクラ! ありがとう大好きだよ。いようずっと一緒にいよう」


 ユウトは私をギュッと抱きしめて立ち上がった。私の足は地面から離れてもう自分ではどこにも行けなくなってしまう。


 不安定な宙ぶらりんな体勢なのにひどく安心する。


 しばらく抱きかかえられた後にすとんと地面に降ろされる。でも私はまだユウトに抱き着いたまま。もう離れたくないそう心が想ってる。だから離れる前にひとつだけユウトの誤解をとらないと。


「ねぇ、前にも家出した日に、手を引いて家に連れて帰ってくれた日の事覚えてる」


「覚えてるよ」


「あの日、ひとつだけユウトが誤解してることがあるの」


「......誤解?」


「あの時私の『本当の名前はなに?』って聞いたよね。ユウト......私の名前ね。本名も桜っていうの!」




 こんな私を好きになってくれてありがとう。私もユウトが好き。


 ―――だから......ユウト一緒に帰ろ。





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不器用な迷子 シルア @SILA

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