第九部 エピローグ

 あれから、何年経ったのだろう。

 ヴァーゴとアンドロメダは合併し、力を合わせて戦争を終結。

 そして、平和な超科学的異世界としてこれまで以上の人気を有するに至った。もちろん、転生リクルートからマッチング、運営まで一貫した事業展開が貢献したことは言うまでもない。

 そして、ヴァーゴ・アンドロメダHDの時価総額は10倍に跳ね上がっていた。


 いまでは見慣れたブラックホール。そこに堕ちていくカプセルたち。

 その名も『アトラクション・フリーフォール』

 アンドロメダ・ワールドの新名物だ。

「やっと予約が取れたのよね」

「大人気アトラクションになったもんな。でも、ヴァーゴ・アンドロメダHDの特権を使えば、すぐにとれたんじゃないの?」

「ばかね。会社の力でチケット取ってもつまんないじゃないの」

 私はハルトの鼻をチーンとはじく。

「まあ、確かに」

『それでは、落下10秒前です……10、9、8……』

 カウントダウンが始まる。

『3、2、1……では、いってらっしゃい』

 周回軌道からブラックホールめがけて、撃ちだされるカプセル。すごい加速感。それもやがて軽くなる。カプセルがブースター加速を終え、自由落下に移行した証拠。

「ねえ。このカプセルがブラックホールのシュワルツシルト半径を越えるまでの時間は1時間なんだって」

 シュワルツシルト半径は、ブラックホールの半径みたいなもの。これを越えると、物質も光もブラックホールからは出られない。まさに、死の境界線……だったのよね。これまでは。

 今では、重力子制御による空間内圧維持と五次元量子コンピューターによる綿密なワープ計算によって、ブラックホールの内側からも生還できるようになった。

 そして、そのシュワルツシルト半径に差し掛かる瞬間。

「ひとつ、相談があるんだ」

「相談?」

「そろそろ……ふたりで転生しないか?」


 ふたり揃って異世界転生し、生まれ変わってまた巡り合うような転生を実現するためのオプション費用は異常に高い。


 私のために、がんばってくれたのね。


 私は、ハルトに思いっきり抱き着いた。

 答えを言う必要はない。

 ブラックホールに堕ちながら 私たちはお互いの温もりを感じ合った。

 永遠に続いてほしいとまどろんでいると、アナウンスが流れた。

『まもなく、シュワルツシルト半径を通過します。その後、当カプセルは四次元ワープに移行します。そして、アンドロメダ・ワールドに帰還します』

 ここは光すら外に出られない重力の底。

 お月様にも見られることはないわ。

 ハルトに包み込まれたまま、ハルトに顔を近づけた。



 数年後。

 とある異世界にある魔法王国の中世城下町。

「姫様? 姫様? いったいどこに?」

「まったく。お転婆で、すぐトラブルに巻き込まれるんだから、目を離すなと言っておいたでしょう?」

「申し訳ございません」

「今日は魔王討伐戦で、町中お祭り騒ぎです。早く見つけないと……」

「はい」

「まだ6歳なんだから、遠くには行ってないはず。早く探し出しなさい」

「かしこまりました」

 ……

 ……

 ……

 ……たったったった……どてっ。

「えっ……えっ……んぐっ……ここ、どこ?」

「……お前、迷子か? 転んだのか? 大丈夫か?」

「……だ、大丈夫」

「血が出てるぞ。まあ、なめておけば治るさ。あとは、このハンカチでしばっておけば……ほら、もう平気だろ?」

「……あ、ありがとう」

「立てるか?」

「うん……えへへ、ありがとう」

「ああ……で、お前、名前は? 家まで連れて行ってやるよ」

「私……私は、サツキ。サツキ・スピカ」


                      完

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転生ビジネス・インテグレーション どまんだかっぷ @domandacup

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