第二十八話 少しだけ殺意が強くなった罠
なんだかんだ言って、俺の能力はダンジョン探索に随分と適していたようだ。
「……シャリア。あれ、罠だと思う?」
そう言って、俺はある一点を指差す。
俺の指が向く先にあるのは、通路の袋小路にポツンと置かれている宝箱。
通常であれば喜ぶのだろうが……あまりにも見やすい場所に置かれていて、なんだか怪しい。
それはシャリアも同じ考えだったようで、こくりと頷くと口を開く。
「そうですね。多分、宝箱に擬態して人間を襲う魔物……ミミックでは無いかと」
「なるほど。確かにそれっぽい」
俺はダンジョンを代表する擬態系の魔物――ミミックを脳裏に浮かべながら頷くと、剣を構えた。
「じゃあ、討伐してくるよ。シャリアはここで、他の道から魔物が来ないか見張ってて」
「分かりました。気を付けてくださいね」
「ああ、気を付ける」
シャリアの言葉に俺はしっかりと頷くと、警戒しながら宝箱の下へと歩み寄る。
「よし……はっ!」
そして、宝箱の前まで近づいた俺は、剣を手の代わりにして、宝箱を開けてみた。
すると、その宝箱の開け口から牙がむき出しに――
「……あれ?」
ならなかった。
代わりに見えたのは、翡翠色に輝く綺麗な宝石。
「なんだ、違ったのか……」
俺は拍子抜けしたような感覚を覚えながらも、その宝石にすっと手を伸ばす。
「待って、リヒトさん!」
すると突然、後方からシャリアが焦燥感のある声を上げた。
「えっ?」
俺は咄嗟に後ろを振り返りながらも、宝石に手を当てた――否、当ててしまった。
刹那。
ジャキンジャキン!
左右の壁から、数多の鋭く長い槍のようなものが飛び出してきた。
「え、まさか――」
動くとか言わないよな?
そう、俺が言葉にするよりも前に。
バン!
左右の壁が動き、俺を押しつぶすのであった。
「リヒトさん!」
シャリアが、本気で焦ったような声を上げる。
あーちょっと待ってくれ。今は、喋れないもんで。
そう思いながら、俺は潰れ貫かれた身体の一部を《
「ふぅ……びっくりした。まさか槍とセットで壁が迫って来るとは」
そう言えば、そんな罠もあったなぁと思いながら、俺は衣服をも再生する。
そうそう。今までは血を用いた鎧とかを作ってなんとかしていたけど、身体を再生できるんだったら、その要領で髪の毛を再生して、それで服を作ってみたらいいじゃんって思いついたんだよ。
それで、結果はこの通り……応急処置としては完璧だ。
白髪を用いた白いシャツに、灰髪を用いたグレーのズボンは、ぱっと見では髪だと分からないだろう。
「びっくりした……じゃ、無いですよ! 流石に心配しましたよ!」
すると、横でぷるぷる震えていたシャリアが、抗議するように声を上げてそう言った。
「ああ、ごめんごめん。でも大丈夫。ほら、ちゃんと宝石は無事だから」
そんなシャリアを宥めるべく、俺は先ほどギリギリの所で手に入れた翡翠色の宝石を見せつける。
そしたら、突然すんっとシャリアの顔から表情が抜け落ちた。
「やっぱりリヒトさんって、常識人に見えて狂人ですよね……」
そして、なにやらぼそっと呟いた。
ん? なにかあったのだろうか?
「どうしたんだ? シャリア」
「いえ、なんでもありません。リヒトさんは、あまり心配しなくても大丈夫だと、再認識しただけですよ」
「え、えぇ……」
シャリアの若干酷い言い草に、俺はどこか微妙そうな顔をしながら、そう言葉を漏らすのであった。
その後、その場で暫しの休憩を取ることにした俺たちは、周囲の警戒をしつつものんびりと一先ずの状況について確認し合う。
「取りあえず、剣を1本失っちゃった。投擲の苦無もいくらか。回収は……無理だよね?」
「そうですね。見たところ、元々そこは壁で、一時的に罠として通路が出来ていたにすぎないようですので。多分、ダンジョンに取り込まれたかと」
「だよなぁ」
シャリアの言葉に、俺はそう言って深く息を吐く。
分かっていたとはしても、こうやって分かりやすく損失が出ると、勿体ないなと思ってしまうのが俺なのだ。
まあ、生きてたから良し……なのだがな。
生きていれば、それぐらい安いものだと強く思い込みながら、俺は先ほど回収した翡翠色の宝石を見やる。
「この宝石、いくらで売れるかな? 多分、そこそこの値段で売れるとは思うけど……」
「そうですね。目利きの専門では無いので、詳しい所は分りませんが……銀貨5枚は固いかと」
「おー思ったよりするな。それなら、さっきの損失はチャラで……むしろ、プラスといった所か」
それなら、装備をいくらか失ってでも取った価値があると、俺は満足げに思いながら宝石をまじまじと見つめた。
「普通の人なら、命が2、3個は無いと足りませんけどね……」
「ん? どうした?」
「いえ、何でもありません。ともかく、次からは引っかからないようにしましょう。いいですか?」
「あ、ああ」
シャリアの妙に強い言葉に、俺は押されるようにして頷くのであった。
Sランク冒険者に憧れてるけど、死ぬのが怖いので、自己回復魔法を極めて不死身になる事にしました ゆーき@書籍発売中 @yuuuki1217
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