VSコラプション(腐敗) インザキッチン

花森遊梨(はなもりゆうり)

ラクー◯→スペイン→この家(バイオ災害)

AM4:00

台所を異臭が包んでいる。

私はこれからこの異臭の元に、立ち向かわなくてはならない。


誤解を避けるために言っておくが、殺人事件が起きたとか起こしたからではない。

 

この国は普段から死体か未来の死体だけで構成されているし、この家にだって三つの未来の死体しかいない。



その友人、赤井丹。男が切れないのが気に入らない!

新たな友人にして社会人。平山珠緒、ガラスがなぜか防弾仕様で、コンクリートマイクで音を拾われにくい壁が売りのこのマンションの家主である。


そしてこの私、緑田萌葱はこれから腐ったカレーと戦うのだ!


時間は少しだけ遡る。


初めてのお泊まり‼︎

泊まりの時のお料理はカレーがベスト。適当なカレールーに適当に買った野菜を入れて、最後にひき肉を大量に入れます。

ひき肉カレーにしたら、だいたい、美味しいからね。


なんてことを言い出したらそれの買い出しとカレーの調理全般は私の仕事となった。あのクソレッド覚えてろよ。


よそ行きのカレーは甘口に仕立てて辛さは別売りの「人生の○さ自在」みたいな調味料とか丹が平山ハウスで作ったホットオイルで調整するのがベストといえる


「で、ホットオイルってなんなん?」


「私が七味唐辛子を刻んでオリーブオイルで煮出して作ったやつ。いろんな料理を気軽に味変できて楽しいんだ♪」


「作った?このおしゃれな赤い小瓶をあの短時間で?」

「タマさんみたいに面倒くさがって唐辛子を素手で刻むことさえしなければ意外と簡単、作り方聞いてく?」


そんなふうにして完成したカレーだった。



今。


そんなカレーからはなんか重苦しい香りが漂い、嗅覚は腐っていると警報を鳴らしている。


ちょっと味見してみよう。こういう場合腐った感じがするだけで実は大丈夫ということが多いのだから(経験談)


「ごくん…酸っぱ!!」


酸味ではない、舌が痛い!

腐敗した物体はもう味覚なのに触覚というか嗅覚というか、舌のスケールには治らない異常極まりない感覚に襲われた。このカレーはもうダメだ。


本能に従うならば、ここでカレーを捨てるのがベストだ。

すると新たな問題が発生する。この寸胴鍋いっぱいのカレーを捨てたが最後、若い人間のメスのガワに運動部に所属する男子の食欲を持つ2人のエサを今からどうやって調達するのか?


そうだ。人とは生き物のくせに「本能」のためだけに生きない生き物。


生き物の生き様ネジ曲げて、イカれた生きザマ貫けること、それがヒトがヒトたる所以なり。


緑田萌、この腐ったカレーに勝ってみせよう。土やウ〇〇の常在菌が数万匹集まったくらいで人の道を阻めるだと?人より早く地球に誕生しただけで思い上がるなよ単細胞ども、私の人道でこじ開けてくれる。



私の実家時代の経験上、煮込み料理が腐った場合、腐敗しているのは空気に面した上澄み部分だけにとどまっている場合が多い。


平山の机の引き出しを漁って物差しを手に入れてきたた。これを(洗わずに)腐ったカレーに突っ込み、空気に触れていた表面から15センチほどの腐っている層をこそぎ取り、ビニール袋に入れて処分した。


「ペロ…うん、ちゃんとカレーの味」


問題はなくなった。勝利確定である。


だが、油断せずにカレーを火にかけてかき混ぜながら煮立たせる。

カレーや煮物に巣食う食中毒の菌とは、中層部分に伏兵として潜んでいる。そして外気にさらすとたちまち死ぬという引きこもり仕様の持ち主だ。だからクラスのぼっちを無理やりグループに入れるようにかき混ぜ、カレーに潜む伏兵どもを一掃するのだ。


…あとは昨日買っておいたカレーを辛くする赤い粉と夕べ使わなかったホットオイルをドボドボと混ぜておけばばれないだろう。



翌日

緑田萌葱はトイレにいた。

腸内細菌の人口爆発、すなわち食中毒によるものである。当然大学は休みだ。


丹はわたしの教材まで持って大学に行った。平山さんも以下略だ。


なぜ同じものを食べて私だけが食中毒になるのか?腐った部分など覚えている限り一口も口になどしていないのに‼︎


ー「ごくん…酸っぱ!!」


いや、これはリモート食中毒かもしれない

仕事に飲み会、人格否定。人生の関わる嫌なものは全てリモートで人生に降りかか理、人の道を暗黒に染め上げるこのご時世、風邪やインフルエンザはもうとっくにリモート感染が可能な病気。


食中毒の菌も、知らぬ間に進化の過程をひた走っていたと言える。まさにアカデミック。


…腐った食品は飲み込まないように気をつけよう。

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