ご馳走様でした

とある島に旅行へ行ったときの話なんですけどね。

某雑誌のミニコラムで語ってくれた28歳男性は不思議な出来事を話してくれた。

両親の影響なんですけど旅行が好きなんですよ。社会人になってからはちょくちょく一人で行くんです。人がいないような秘境探しみたいな。

でもちょっとやっかいなものにハマってしまって。知ってます? 廃墟巡りってやつです。

経営不振になって潰れてしまった旅館とか老朽化で使えなくなった建物を見るのが好きになったんですよね。もちろん建物に入ることはしませんよ。

住居侵入罪で逮捕されてしまいますから。……でもここだけの話、それは表向きですよ。中入ってこそなんです。醍醐味はね。

いつもみたいにネットで探して、社長が金持って逃げたみたいな事が書いてた旅館に行ったんです。

夜は怖いんで昼間ですけど、入り口から既に雰囲気があってうわあ凄いなあって感じで自前のカメラで撮影してたんです。奥からどたどたって足音が聞こえたんですよ。

お化けとは思わなかったです。たまにあるんですよ、同士が出会うの。でも目が合うだけで会話とかなくてお互いに会釈する程度ですけど。

でもしかしたらなんて不安と期待みたいな感じで進んでいったらまた奥からどたどたどたって。

不思議だったのは音が段々奥から聞こえてくるんですよね。それも光なんて届かないようなところになって、でもなんかやめられなくて。

旅館は十階建てくらいだったかな。ボロボロの階段を上がって音のなるほうに進んでいったら階段が崩れちゃいまして。

次に目を覚ましたときは見知らぬ天井ですよ。はは、アニメみたいですよね。

はい。で、こうなりました。右手が潰れて左手がぐちゃぐちゃで切断。右足と左足はねえ不思議なんですよ。なんかに食べられちゃってたみたいで。

怖いですよね。これからの人生終わりですよね。でもなんか不思議と悲壮感というかそういう気持ちが沸かないんですよ。

だって最後に聞こえたんですよね。ごちそうさまって。

か細い少女の声みたいでした。なんか嬉しくて。不思議ですよね狂ってますよね。

でもいいんです。一応車椅子なら動けるようになるみたいで。たいした話じゃなくてすみません。

いえいえ、ありがとうございました。後、これほんとどうでもいい話なんですけど今度またそのときの旅館に行ってみようかなと思うんですよ。

自分でもよくわからないんですけどね。


あの声が、もう一度聞きたくてたまらないんです。

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短編集 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei

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