ほの明るい空に一際強い輝きを放つあの点は、私にとっての一等星。

移動時間だけで七十二日とは……職場に行くまでは、研修であり旅行のようでもあり。いや、気は引き締めねばですが。
 木星開拓計画の縮小……開拓というと、人海戦術で一気にガーっとやるようなイメージですが(惑星ともなるとなおさら)その計画が縮小というのは、上が木星に価値を感じなくなったのか、あるいは重要度を下げざるを得ない要因があったのか。非常に気になるところですね。……と思っていたら、やはり代替案があり、優先度が下げられるとは……。しかし、それに対して統合宇宙開発機構は開発本部を含む五つの基地を維持……ということは必然的に一人当たりの負担はズシリと重くのしかかりますね……。
 ガメ二デに海を形成する計画も保留になったまま……いや、もはや凍結といっても差し支えないような気もします(南極だけに)。自然を利用するにしても一筋縄ではいかないのは何とも歯がゆいところではありますが、人間が何人束になろうが自然>>>>>超えられない壁>>>>>人間ですものね……。自然と人間で綱引き(縄引き)でもしようものなら、縄を掴む間もなく氷の海に引きずり込まれるのが関の山(海)でしょう。
 僕を含めたった三人の司令部。アットホームというかラフな雰囲気の職場は良いに越したことはありませんが、さてこの先どうなるのでしょうか……。
 端末も初期設定を終えて、温まったころですし、次は椅子を温め……なんて冗談は置いておいて。端末を手に、行き先は格納庫へ。フッ軽な彼が次に温めるのは、自身の体だったようですね。26歳、若いなぁ……。
 水陸両用氷海巡視艇の観測員兼副操縦士といえば、文字面と聞こえは良いけれど、実作業としては何とも地味なものです。それでも、大事な仕事であり、フットワークが軽いと評価された彼の仕事ぶりはきっと目を見張るものがあるのでしょう。見張り役だけに。
 そんな格納庫で出会ったペンギン。……艦長でしたか、これは失礼いたしました。
 お互いの呼び名を決める際、先ほど耳打ちされたのはこの事だったのかと気づかされました。境川さんのアドバイスに倣って(あるいは習って)艦長を呼ぶ武田。
 やはり、武田は仕事に対してとても真摯な様子がうかがえてとても好感が持てます。たとえ、最果ての職場の上司がペンギンだったとしても、きっと上手いことやっていくんだろうな、なんて期待感を存分に感じさせてくれました。
 人工太陽が煌めく中を、進んでいく巡視艇。艇載AIがいくら見張っているとはいえ、完壁とは言えず。逆に人間の目視だけでも然り。いくら両目があるとは言え、AIと人間の両目で見た方が見落としは限りなくゼロに近づこうというものです。
 精密さが売りのAIでも、やはり最終チェックは人間が行うように、違和感により敏感に反応できるのは逆に人間の売りなのかもしれませんね。しかし、やや緩んでいた緊張の糸がピンと張り詰める事態が発生。強制的なあっち向いてほいのように、こちらを向いて、健康状態に異常なしなことを確認してホッと胸をなでおろす武田。……と思ったのも束の間。首を傾げる二頭が気になる動きを……。後々、いや。「束」の間の直後。「束」になってかかってくるとか……ないですよね……と内心ヒヤリとしました。
 いわば人工的に作られたガメニデペンギン。ある意味、実験の為生み出された個体ではあるものの、将来的に木製の名物となれれば、遺伝子操作で生み出された不運も少しは紛らわせることもできるのでしょうか? いや当人ならぬ、当ペンギンにしかわからないことですね……。
 ガメニデペンギンの歴史を紐解けば、特殊な七頭の個体がいたと。文字通り人智を越えた知性を持つペンギンを、それを生みだしたある意味生みの親が放っておくはずもなく。統合宇宙開発機構の措置によって、文字通り「保護」されたというのは先ほどの巡回中の二頭のペンギンの異常を察知して、結果異常がなかったことを知ったとき以上に安心できる出来事でした。人権と等しく人鳥権も認められる世界、なんというピースフル。
 まるでグー〇ルマップを作る時のような、氷海巡視艇の任務。ペンギンもある意味ドローンで情報収集(地図情報)を収集して、巡視艇へと集約する。
 そんな時、不意に起こったプチハプニング。例の二頭のペンギンが来ない……?そして、集合信号に答えた一組が起こした謎の行動。まさか、バタフライエフェクトならぬペンギンエフェクトでも起こそうというのでしょうか……?
 そこから雪崩のように起きる緊急事態。ピンと張った緊張の糸はもはやちぎれんばかりの勢いで悲鳴を上げているような、そんな感覚に陥りました。その緊張の糸が切れたその瞬間、海面に投げ出される武田とアルフ。緊張の糸が今もピンと張っていれば、あるいは〝非常事態対処〟も可能だったのかもしれませんが、その糸は今だらりと垂れ下がり、その垂れ下がった糸の先に必死にしがみついているも同然の武田にはなすすべなんてあろうはずもないですよね……。
 しかし、こんな時でも冷静に対処するアルフ。提案は博打ながらも、ここは決して爆心地じゃない。(爆)発する(地)面というわけでもない。ならば、伸るか反るかは不問でしょう。
 夢だった。なんて、夢のないことを言うにはあまりに無粋で。ならばいっそ正夢だったという方が、むしろ夢がある。
 そんな夢見心地な今でも木星は回って、ペンギンたちはそこに生きていて。
 だからこそ、この掌に感じる温もりも。絶対に正夢なんだと断言できるのです。