第4話

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 東日本大火災が起こった時、志道はそれは起こるべくして起こったと思った。

 譜代は断絶の壁を築き、自分たちだけがクリーンエネルギーを独占した。

 そして、外様だけがずっと放射能に汚染され、地獄の底に置き去りにされた。

 そんな事をされたら、地獄から抜け出したいと思うのは、人間として当然のことじゃないか。

 だが、火災の原因となった研究を行なっていた発電所は、まるでテロリストのように扱われ、日々流れてくるニュースでは、もう完全に国賊扱いだった。

 そんな情報を垂れ流すテレビを見ながら、志道は思っていた。

『彼らはそんな事件を、起こしたくて起こしたとでも思っているのか?』

『犯罪だとわかっていても、そんな研究をしようと決めるほど、彼らを追い詰めたのは誰だ?』

『そして、それは、一体誰のためのものだったのか?』

 志道の中に生まれた感情は、怒りでもあり、悲しみでもあり、人間に対しての絶望でもあった。

 それをずっと引きずることで、何とか今まで生きてきた。

 生きる意味がない。

 絶望しかない。

 そんな世界をぶっ壊してやろうと言う、そんな思いだけで何とか生き延びてきた。

 今さらそれを変えることは出来ない。

 それでも、サンの言葉に少しだけ心が揺さぶられてしまった。

 そのせいで、本当に意味のないことを考るようになってしまった。

『愛って何だろう?』

 志道はまず、自分に「正義」があると言うことを証明しようと思った。

 愛とは、きっと正しいモノの先にあると思ったからだ。

 絶対正義なんてものが無いとはいえ、譜代がミサイルを撃ち込まれても仕方がないくらいの「悪」であれば何も問題ない。

 仕事の休憩時間にでも、スマホをササっと触れば、いくらでも情報は出てくる。

 まずは幕府から発表された、「復興構想7原則」というものがあった。

 これからの復興基本方針を示したそれは、災害から僅か2ヶ月余りで描かれた。

 その中の一つに「地域・コミュニティ主体の復興」と、被災地の人々の思いを汲み上げるような一文が含まれているが、実際のところは幕府主体の公共事業が中心となって進められていた。

「まあ、そんなもんだよな…」

 とは言え、この10年で確実に被災地の復興は進められている。

 現地では、どんなことが起こっていたのだろう?

 そう思って調べると、被災した各藩のホームページに復興計画とその実績がしっかりと公表されていた。

 市民の意識調査。

 復興交付金の事業計画。

 被災者の住まいの再建。

 学校、保育所の再建など。

 それらを見比べてみると、各藩ごとに性格が違っていることがわかる。

 復興理念を「人間本位の復興」とし、市民の生活を復旧させることを目的としたもの。

 そして、復興理念を「創造的復興」とし、次の災害発生に備えて、強靱な地域づくりを行うことを目的としたもの。

 どちらも、納得できる事もあれば、そうでない事もある。

 評論家たちも十人十色で、何を信じたらいいのか分からない。

 調べれば調べるほど、頭が混乱していく。

 そこには、正義も悪もなかった。

 ただ、データがあるだけだった。

 しかし、そのデータには、しっかりと名前と顔を公表している役人と、被災地に住む一般市民の確かな足跡があった。

 そこにいるのは、志道と同じ人間だった。



 志道が気がつくと、外はもう日が暮れようとしていた。

 ちょっとだけの調べ物のつもりだったが、気がつけば午後まるまるサボってしまっていた。

「あ〜、これは言い訳がめんどくさいかもな…」

 どこか他人事のように呟いて、志道はスマホの画面を消して車の外に出た。 

 とりあえず、外の空気を吸いたかった。

 たとえそれが放射能が蔓延している空気でも、肺いっぱいに空気を吸い込みたかった。

 深呼吸を2〜3回。

 そうして頭がクリアになったところで、ゆっくりと視界を広げれば、どうしようもないほどに断絶の壁が目に入る。

 外様と譜代を分ける、絶対的な壁。

 その壁を見ていると、志道は自分が知らない間に強く両拳を握りしめていたことに気がついた。

 自分でも驚いて、パッと両手を開くと、手のひらに自分の爪が突き刺さって血が滲んでいた。

 その自分の血を見た瞬間、志道は理解した。

「そうか。俺は、ただの怒りで人を殺すのか」

 と、ようやく本当の言葉が、口から漏れた。

 正義も悪もない。

「俺は、殺したいから殺すんだ」

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