第2話

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 『光』とは自然界の中で、太陽から降り注ぐものであり、それ以外は存在していなかった。

 1879年にトーマス・エジソンが白熱電球を発明するまで、世界中の夜とは真性の闇だった。

 わずかに月や星が太陽の光を反射しているが、建物の中まではどうしても届かない。

 人類の歴史にとって長い間、夜とは死に近い無だった。

 あらゆる神話にもあるように、光とは神そのものに等しかった。

 それが、今から約150年ほど前に『光』は『生産物』となった。

 それまでの人類は、1番強い力として『火』を使っていた。

 しかし、火はとてつもない熱量を持ちながらも目には見えないものだ。

 そんなもの、簡単に人類が扱える力ではなかった。

 火とは、地獄の象徴に他ならない。

 長い間人類は、何とか絶滅しないように、世界中の人間が協力し合って生き延びてきた。

 そこで、『光』の発明は、人類史上最大と言っていいほどのものだった。

 人類が科学の光を手にいれると、そこからの発展は凄まじかった。

 科学は人類を新しいステージへと連れていってくれる物だと、全人類が信じていた。

 そして、世界各地に原子力発電所を建設していった。それが、どんな意味を持つかも知らずに。

 放射能の被害は瞬く間に広がり、人々がその危険性に気がついた時には、もう何もかもが遅かった。

 電気によって夜の闇を照らせることを知ってしまえば、死にも近いあの暗闇の中へ帰ることなど出来はしなかった。

 その危険性を理解しながらも、人々は見ないふりを続けていた。

 そんな中、世界で1番最初に核の恐ろしさを突きつけられたのは、日本だった。

 1945年8月6日、広島原発、爆発事故。

 続いてその3日後、8月9日に長崎原発、爆発事故。

 二つの原発事故によって、日本人はどうやっても消すことの出来ない傷を負ってしまった。

 それからの江戸幕府の方針は、当然ながらクリーンエネルギーの発展に向けられた。

 特に1番強い力を持つ、火力発電は最も力を入れられた取り組みだった。

 しかし、火を扱うことはとても難しく、火力発電に関われるのは相当な知力と家柄を持つ者のみだった。

 つまり、譜代大名に繋がりを持つ貴族だけで独占されていったのだ。

 まず譜代たちは、外様との生活区の境目に巨大な壁を建造し始めた。

 名目は、クリーンエネルギーの開発のために、環境保護区を作ると言うものだった。

 それが隔離政策だと言うことは、誰の目にも明らかだった。

 譜代は自分たちだけがクリーンエネルギーを独占し、放射能に汚染されていない農作物を生産し、安全な生活を手に入れた。

 もちろん、外様だってそれを黙って見ていたわけではない。

 長い年月をかけて、火力発電所を外様でも運営できるよう幕府に働きかけて来た。

 その甲斐があって、94年に摂津國に初の火力発電所の建設が始まった。

 それは新しい日本の夜明けになると、誰もが思っていた。

 しかし、翌95年1月17日、その火力発電所が爆発事故を起こす。

 周りの民家も巻き込み、大量の核物質を孕んだ大火災。

 直接の犠牲者は6434人。

 間接的な犠牲者は、正直、計測出来るものではなかった。

 この事故以降、日本はどんな光でも照らすことができない、完全な闇へと進んでいくことになった。

 この災害を期に、譜代と外様の隔離政策は日本中で広がった。 

 それは、原子力発電と火力発電の生活区域を完全に分けるものだった。

 譜代はクリーンエネルギーを使い、自然と共に生活しながら農作物の生産を行なった。

 外様は、危険でも効率を重視した原子力を使い、工業製品を生産した。

 こうやって、お互いの生産物を交換しながら生活することを、この国では『共存関係』と呼ぶようになった。

 そんな歪な関係が、まともな形で続いていくはずが無かった。

 そしてそれが最悪の形で現れたのが、2011年3月11日だった。

 福島藩にある外様の原子力発電所が、独自で火力発電の研究を進めていた。

 そこで、爆発事故が起こってしまった。

 この事故により、大規模な火災と核汚染が起こり、2万人以上の犠牲者が出てしまった。

 これにより、より一層、譜代と外様の隔離政策が進んでいくことになる。

 志道は思う。

 この事故は誰の責任だ?と…

 確かに事故を起こしたのは、外様の発電所だ。

 しかし、彼らがやりたかったことは、少しでも外様の人々の暮らしを良くしようと言うことだったんじゃないのか。

 外様に暮らしている人間なら、ここがどれだけの地獄か分かっているはずだ。

 放射能の毒が、どれくらい人々を苦しめているか。 

 外様に暮らす人間で、まず毒を喰らうのは母親たちだ。

 子供を育てるために、まず母親は放射能に汚染された食物を食い、そしてそれを自分の体内で毒を分解して、子供に乳を与える。

 そうやって、母親が命を削ることで、少しでも子供の抵抗性を上げているのだ。

 そして、子供のために体の中に溜め込んだ毒は、やがてその体を醜く膨らませて、やがて精神まで侵していく。

 だから、ほどんどの女性は20歳まで生きることが出来ない。

 そして、男性は女性たちのおかげで体に耐性を持ち、なんとか50歳くらいまで生きることができる。

 だから、男は女のために生きるのだ。

 外様とは、そう言う場所だ。

 こんな場所を、『共存関係』の結果だと平気で言える奴らとは、人間として同じ血が流れているいとはとても思えなかった。

 だから、志道は決めた。

 共存関係だと言うのなら、譜代と外様の間にある、あのデカい壁をブチ壊してやろうと。

 そうして、核廃棄物の回収中に出たイレギュラーをかき集め、核ロケットの製造を始めた。

 標的は2021年、3月11日。東北部大火災追悼記念式典。

 その被災地である伊達藩には当日、征夷大将軍様も、天皇陛下もいらっしゃる。

 だったらその日に、江戸城に核ロケットをぶち込んでも、別に大した問題じゃないだろう?

 たかだか、江戸が被曝して火の海になるだけだ。

 大丈夫、10年も経てば復興するんだろ?

 志道は常に上から目線で、『共存関係』などと言ってくる外様に、1発喰らわせてやらなければ気が済まなかった。

 そのために、一体どれほど前から準備をしていただろう。

 それなのに…

 まさか直前になって、こんな訳のわからない女に邪魔されるとは思っても見なかった。

 太陽からやって来たか何か知らないけど、核ロケットの燃料をバカ喰いしながらさ…

「プルトニウム美味しいですわ〜」

 じゃねえんだよ…

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