声を聞いて。目を背けないで。心を開いて。アカリはここにいるよ。

 ペンギンが空から降ってきた。ペンギンは空を飛べないのだから、降ってきたという事象には首をひねりつつも、落ちてきたということであれば、腑に落ちるというのは何とも……。しかし、これまた事実なのです。
 使われていない、なおかつ真冬のプール……極寒かつ衛生的にも……ですね……。そのわしわしの毛の塊をわしづかみにすれば、正体はなんとペンギンの赤ちゃん。
 丁寧にふき取って本来の姿を取り戻した赤ちゃんのなんとモフモフな毛並みか……良いですねぇ。癒されます。
 それはさておき、なぜ空から降ってきたのか。思考を巡らせていると、それを遮るかの如くインターホーンが鳴り……新たなペンギン……ロイだと……。ロイの口から語られる事の顛末。そう、それです! この国にはペンギンがいないと冒頭で名言されているのに、ここにペンギンが存在している不思議! 目指すはペンギンランド……。
 アカリの話によれば、ペンギンをモチーフとした遊園地ということですが果たして……。ってちょっと待った! ロイさん……本当にペンギンですか? そんなに早く歩くペンギンは見たことがないですが……。左右に身体を揺すりながら走る、まるでよちよち歩きのようなフォーム という矛盾を解消するかの如く、度肝を抜かれるようなその様、一度見てみたいと思いました。
 到着したペンギンランドは、アカリの知るペンギンランドとはがらりと変わっていて……。まるで、飲み屋街にある居酒屋に入るために、古めかしい扉をがらりと開けて入ったら、まったくイメージと違う内装だったみたいな、そんな衝撃を受けました。
(この例え自体、何か別の表現でがらりと変えたいですね……;)
 そんなペンギンランドで、ついに親子の再会の時! なんと、リラの母はペンギン王国の女王だったとは……。
 ペンギンに恐縮するといっても、相手はアカリの肩ほども身長があるペンギン。恐縮せずとも委縮してしまいそうにはなりますね。お礼にと頂いた冠羽。ここは恐縮も委縮もせずに、粛々と、恭しく頂戴しておきましょう。何度もペンギン王国に来れるなんて、まさに夢のようなのですから。
 ルンルン気分で王国へ行くと、すでにロイのお迎えが。早速癒しにかかるとは……なかなか良いペンギンですな。多種多様なペンギンが存在している夢のような空間にアカリは心を奪われっぱなしで。天敵が存在しないという意味でもまさに理想郷。
 そんな心に不意にぽとりと落とされる一滴の水滴。それは、ロイの気づきによるものか、もしくは堪えきれなくなったアカリ自身の涙か。そのつぶらな瞳はすべてお見通しだったと……。吐露されるアカリの話は、聞くに堪えないほどの悲惨な現実で。しかも、追い打ちをかけるかの如く、諸悪の根源が担任に……。悲しく惨めな現実に直面した時、真っ先に相談するとなれば、親か担任かといったところでしょうが、その担任が加担する側なんて、到底許せるものではありません。担任に対して「生徒を大切にしなさい」と怒鳴りつけてやりたい気分です。
 母に縋れば、(自分の話し方もやや問題があったとはいえ)相手にされず。そうじゃないんですよ……。放っておけないレベルまで事態は深刻になっているから相談しているんですよ!
 対して昨日今日会ったばかりのロイは優しさで包み込むように心配してくれて。こんな時に必要なのは、言葉でもなく。時間でもなく。そっと隣に寄り添う存在なのかもしれませんね。
 ロイの言葉に甘えて、毎日のようにペンギン王国を訪れるアカリ。完全に心の拠り所になって、ほんの少しでも安心できる時間ができたことにほっと胸をなでおろしました……と思ったのも束の間。
 がらん、と。何かが落ちる音がしました。たった一言。「心」ない母の一言によって「心」の拠り所が失われてしまった……。
 もう焼かれてしまっているのだろうか。もしそうだとしたら、この心すら焼かれて灰になってしまうかもしれない。そんな焦燥感の中、向かうはペンギンランド。
 絶望に打ちひしがれるアカリに声をかけた青年……ロイ……ロイ!?
 リスクを承知の上で、ペンギン王国へと行きたいと願うアカリ。今のアカリにとっては、ペンギン王国が全てで、家族や友達に会えないことなど、寿命が短くなることなど、ペンギン王国へ行けることに比べれば、代償として秤に乗せるまでもないことなのでしょうね。逆に言えば、そこまでアカリの心は壊れかかっていたという証左でもあり。唯一の明かり(アカリ)がペンギン王国なのですから。
 無事にジェンツーペンギンへと転生を果たしたアカリ。ロイに連れられてランニング。これからの未来に幸あれと願うばかりです。
 三年後、ペンギンランドのスタッフのアカリの元へ訪れたのは……アカリの母。
 当時を回顧し、反省し、懺悔する。それに気づくまで実に三年という月日を費やした。それが長いか短いか、捉え方は人によって様々でしょうけれど。
 開かれたペンギンランドへの入り口。アカリの母がそこで何かの気づきを得るのか。真実という名の「アカリ」を見出すのか。娘の(傷)痕も(足)跡も。その目でしっかりと確かめるには、良い機会だったのかもしれません。