第4話
ある日、ペンギンランドのエントランスの前で、一人佇む女性がいた。
「お客様? どうされましたか?」
スタッフのアカリは、彼女にそっと声をかけた。
女性は、ペンギンランドの方を遠い目で見つめたまま答える。
「いえ。なんでもないんです」
「パークのご利用ですか?」
「違います」
彼女の答えは、なんとも素っ気ない。だがしばらく黙った後、「娘が行方不明なんです」と言った。
「三年前、娘が行方不明になって。娘の自転車がここで発見されたのが、最後の情報なんです」
アカリは静かに頷き、彼女の言葉を促した。
「私、あの子がどうしてここに来たのか、さっぱり分からないんです。それでようやく気が付きました。私はあの子のこと、全然ちゃんと見ていなかったんだって。多分私は、あの子のことを深く傷つけてしまったんだと思う。それなのに、あの子が何にそんなに傷ついたのかは、ちっとも分からなくて。それくらい私は、あの子を見ていなかった。もう取り返しがつかなくなってから、私はそれに気付いたんです。思い返すほどに、あの子に申し訳なくて」
俯く女性に、「本当、もう取り返しがつかないですね」と言った。
「は?」と彼女がアカリの方を振り向く。ここに来て、初めて目が合った。
「でも、きっと聞けてよかったと思いますよ。もし、その子がここにいるなら」
「はあ」と女性は眉根を寄せた。そして、首を傾げて言う。「あなた、娘に似てるわね」
アカリはどきりとしながら、「そうですか?」と微笑んだ。
「いや、違うわね。ありえない」女性はぶつぶつと言う。「あの子はまだ、中学生のはずだもの。それにしては大人っぽ過ぎるわ」
ふふ、とアカリは笑った。
「お母さん。せっかくですから、当園に寄って行かれてはいかがですか? ここが娘さんの最後の痕跡なら、彼女の思っていたことが少しは分かるかもしれませんよ」
ふう、と女性は溜め息をつき、頬を緩めた。「そうね。そうさせてもらうわ」
アカリはにこりと笑顔で頷き、女性をゲートに導いた。
そして、高らかな声で言う。
「Welcome to PENGUIN LAND! ペンギンたちの楽園を巡る旅へ。行ってらっしゃい!」
Welcome to PENGUIN LAND! 七名菜々 @7n7btb
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