第4話 碧峰美智の場合

 成人式から一夜明け、わたしは普段通りに学校へと行くことにした。

 ちょうど午後二時半ということで三限の折り返しという感じがしているんだ。


 子どもの頃には懐かしそうにしていて楽しそうな笑顔で話していることが大きいと思う。


「ミッチー! おはよう」

「あ、久しぶり」


 大学に行くと文学部の英文科に通っている稲木いなき英梨えりちゃんに声を掛けられた。


 高校時代の友だちで英語の教員を目指しているんだけど、共通教養科目を習得してしまってから会う機会がグッと減ってしまったんだ。


 せっかくなので大学のカフェテリアでお茶をすることにした。

 英梨ちゃんはずっとダークブラウンの髪を染めてる。


「元気にしてた? 最近会わないからさ~」

「実習と部活とバイトで会わないもんね」

「確かに。うちも学習塾で英語講師しているけど、大変だもん」

「ね~」


 わたしはというと東原ひがしはらスケートセンターの食堂でバイトを大学入学時からしている。


 主にスケートセンターで働いているスタッフさんたち、利用している人だったら誰でも入れるようになっている。


 キッチンの調理補助と洗い物とかが多い。


 時折成長期の子たちの栄養指導などを行う姿を見ていると、管理栄養士になりたいと思うんだ。


 小六から中一にかけてにあった身長の伸びで軸とかがズレが生まれて、ジャンプの感覚が掴めないまま試合に出ていた。


 149cmだった背もその一年で157cmに急に伸びたことも影響してるかもしれない。


 そのときはずっとスケートが楽しくないなと気持ちになって、両親にノービスで辞めたいと話したことで中学一年生までにしようとした。

 わたしは中学一年生のシーズンを最後に競技を引退して、大学に入学してからフィギュアスケート部の練習で再開したんだ。


 佑李ゆうりくんの影響もあると思うけれど、わたしはそれ以上にあのときに辞めたときの未練が残っているのかもしれない。

 いまはスケートとジャンプはまだ跳べないことが大きいかもしれないと思っている。


「ミッチーは練習に行くの?」

「あ、うん。今日は空きコマになっちゃって……練習しに行ってくるよ」

「行ってらっしゃい! うちは模擬授業やって来るわ」


 そう言って彼女は図書館へと向かって歩いていくのが見えた。


 火曜日は管理栄養士課程の授業が入っていたけれど、先生の身内に不幸があったことが影響して休講になってしまった。

 東海林しょうじ学館大学のスケート部は月・水が練習日になっていて、木曜日が貸切練習の日になっている。


 わたしは極力参加しているけど、どうしても管理栄養士課程の学生は他の学科の人とは違う。


 授業のほとんどが必修だし、一個でも落とせばヤバいことになる。

 なので評価を気にせずにとりあえず単位を取れるようにしている人もいる。


 これから隣の東伏見ひがしふしみへのリンクに着くと、最初に動きやすい服装になる。

 Tシャツにスケート用のレギンスを履いて滑りやすい格好でリンクへと向かうことにしたんだ。


 スケート靴もいままで使っていたブレードと靴を大学に入学してから買ったんだ。


「あ、みっちゃん先輩」


 スケート部の子たちはほとんどが子どもの頃からの知り合いのため、みっちゃんというニックネームが話しているんだよね。


 それを大学内で聞くと不思議な感じがしてしまうんだよね。


「おはよう。実鶴みつるちゃん、今日は練習?」

「うん。インカレ以来滑るから」

「そっか」


 それからわたしはリンクを出ると丁寧に滑り出してからは最初に基礎的な滑り方を始めることにした。


 実鶴ちゃんは全日本選手権に出場する選手で、名古屋なごやから来た子だけどすごいきれいなスケートをする子だ。


 わたしは最初に得意だったジャンプを跳んでみた。

 跳べた日はとてもテンションが上がったするんだよね。


「実鶴ちゃんって次の大会いつ?」

「あ、次は国体だね。いろんな人がいるし」

「うん」


 スケートをするのはとても楽しくなった気がするんだろうなと思う。



 さんざん夕方まで滑りまくってストレスが発散してしまったんだ。


「それじゃあ、またね」

「バイバイ」


 わたしは子どもの頃には滑ることが多くて、楽しそうなことが話しているかもしれない。

 そのときにLINEの通知音が聞こえてからすぐにスマホを取り出した。


 メッセージが来たのは佑李くんで待ち合わせ場所は駅前だった。

 黒のコートを着ている背の高い男子が待っているのが見えた。


 佑李くんがこちらに手を振っているけれど、彼がオリンピック代表とはバレていないのが不思議だ。


 彼氏が佑李くんってのは知っているのは限られた人しか知らないことだし。


「あ、みっちゃん」

「佑李くん。お待たせ」

「良いんだよ。俺はこれから帰るし」

「そっか」

「その前にさ、この前の料理を教えてほしくてさ」

「良いよ」

「じゃ、行く」


 それから一緒に隣駅である大学の最寄り駅で降りる。


 月に二度くらい佑李くんに料理を教えている。

 主に大学で習っているスポーツ栄養学で教わったレパートリーにアレンジを加えたものだ。


 場所はわたしが一人暮らしをしているアパートが多いことがある。

 わたしは高校を卒業してすぐに両親が父方の実家のある静岡へ引っ越したから、強制的に一人暮らしをしないといけなくなった。


 でも、この生活も三年目なのですでに慣れてきて家事や炊事をそつなくこなしていると思う。


「みっちゃん。今日の料理は何にするの?」

「弁当の具が良いよね」

「それが良いんだけど、光輝こうきのために受験日に食べれるやつ」

「ああ、そういう事ね。体を温めることができるのがいいよね」


 そう言いながらレシピを調べて、栄養とかの勉強に繋げることができる。

 料理を作って食べてから家に帰るのを見送る。


「ありがとう。みっちゃん、今度の土曜日映画に行こう」

「いいよ」


 今度の土曜日に映画に行く。

 その約束のために一週間がんばれそうだ。

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平成14年度生まれの成人式 須川  庚 @akatuki12

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