第49話 寝起きドッキリ
「……お前は、いつになったら私の言う事を聞く様になるんだろうな」
その後、城には意識を失ったスガワラを担いだゲンムが帰って来た。
イザベラは少々呆れ顔で、今回の事を報告してくれた訳だが……まさか、本物の戦場にまで飛び込んで行ってしまうとは。
よく考えてみれば、当初勢いと感情だけで勇者アマミヤにも勝負を挑んだのだった。
私ももう少し考えて指示を出せば良かったと反省する他無い。
ゲンムの作り出す戦地を目の当たりにして、コイツが黙って見ている訳が無いのだから。
それくらいは、予想すべきだった。
セイレーンの元へと連れて行き、今は治療と同時に休ませているが……極度の疲労と空っぽになるまで魔力を行使したらしく、しばらくは目を覚まさないだろうと言われてしまう事態。
彼女の作り出した泉に沈むスガワラの姿をぼうっと見つめながら、思わず溜息が零れてしまう。
「お前がこの世界と向き合うというのなら、私はソレを否定しない。けど……出来れば、お前には綺麗な所だけを見つめていて欲しかった。全ての事を全力で楽しむお前が居なくなってしまいそうで、汚い部分を見せたくなったのだがな」
今回の様な他国との小競り合いで言うのなら、ゲンムの様な圧倒的な力でねじ伏せてしまった方が“効率”が良いのは確か。
数名だけでも生還させ、此方の国には勝てないと思わせる方がしばらくは平和が続く。
しかしながら、今回の敗北をきっかけに相手国が本腰を入れればどうなるか。
それは火を見るよりも明らか。
だからこそ出来る限り相手に恨みを抱かせぬ様、“可能な限り殺すな”と厳命しているのだが。
これもまた、私の綺麗事と甘さなのだろう。
戦争とは、種族関係なく誰かが死ぬのが当たり前の世界なのだから。
でもコイツは、私の命令を現実のモノへと近付けようとした。
普通なら、ゲンムの様な超人的な戦士ではないと……正直恐ろしくそんな命令は出せたものではない。
相手は私の仲間を殺そうと攻め込んでくるのだから。
なので“可能な限り”と保険を付けている訳だが……スガワラは、私の綺麗事さえも肯定してくれるのだな。
今後ゲンムが反旗を翻したり、私の元から去る事態が発生した場合。
こういった戦場には私一人で向かうべきなのかもしれないと思っていたのに。
多分コイツは、そんな私にも付いて来てしまうのだろう。
「魔王様、もう夜も遅いです。そろそろお部屋にお戻りになられては?」
セイレーンが水の中から顔を出し、心配そうな声を掛けてくれるが。
「いや、今夜はココに居ようと思う。目を覚ました時に水の中では、相当慌てるだろうからな」
思わずその姿を想像して、フフッと軽い笑みを溢していれば。
「そう言う事でしたら、私が夜通し付いておりますが」
「いいや、お前は休め。随分と治療に魔力を使っているのだろう? いつもより、丁寧に回復させているじゃないか」
「まぁ、そうですね。スガワラさんは人族ですから、魔族よりも気を使うのは確かです。ミカさんの時の様に外傷という訳でもありませんし」
そんな事を言いながら、セイレーンは陸地へと上がって来ると。
「魔王様自身が待っていたいのでしたら、そうおっしゃって下されば邪魔者は退散いたしますとも」
「別に……深い意味は無いぞ? それに、コイツが起きたらまずは説教から始めなくてはいけないからな」
「フフフ、そう言う事でしたら。では、お言葉に甘えて失礼させて頂きますね」
やけにニコニコしながら、治療部屋から出て行くセイレーン。
何やら勘違いさせてしまった気はするが……まぁ、良いか。
心配しているのは確かな訳だしな。
「早く起きろ、スガワラ。お前にはたくさん叱ってやる事があるんだからな……」
※※※
目が覚めた。
そこには幻想的な光景が広がっており、一瞬事態を理解するのに時間が掛かった程。
だって水の中だぜ、超びっくりした。
何で息できてるの? とか、もしかしてまた死んだ? とか色々考えた訳だが。
以前美香ちゃんの治療した時を思い出して、なるほどと納得出来た。
魔力切れでぶっ倒れただけだと思っていたのだが、もしかしてステージ4の反動はそこまで酷かったのだろうか?
オウカさんの治療受けるまでとは。
などと思いつつ、水面目指して泳いでいけば。
「……え?」
陸地へと上がってみると、知らない子が眠っていた。
一瞬オウカさんが待っていてくれたのかと思い、普通に挨拶しそうになったが。
でも今目の前に居るのは、長い黒髪の竜みたいな角が生えている女の人。
間違い無く見た事の無い魔族だし、まだ会った事の無い幹部は皆男だとカッパラァ先輩に教えてもらった。
という事で、誰?
どう見ても男性ではない立派な胸部装甲をお持ちだし、服装からして一般兵とか使用人って訳でも無さそうだ。
そしてどこかで見た事のある様な顔立ち……あぁ、そうか。
この子、魔王様と雰囲気が似てるんだ。
もしかして、妹とかだろうか?
すげぇ……イケメンの血族は男女が変わっても、ここまで顔が整うのか。
なんて事を思いつつ、失礼ながら相手のお顔を拝見していれば。
「ん、うん……?」
彼女は、眠そうな様子で目を擦りながら瞼を開けた。
「あ、どうも。俺菅原って言います。もしかして魔王様の妹さんですかね? こんな所で寝てると風邪ひきますよ?」
「……うん? いったい何を――」
一声掛けてみれば、相手は少々寝ぼけているのか。
フラフラと頭を振りながら首を傾げていた。
あら可愛い、そしてご立派な角です事。
ちょっと触らせて頂きたいが、初対面でソレは流石に失礼だろう。
などとやっていれば、徐々に相手は青ざめて行き。
慌てた様子で水面を覗き込んでから。
「えぇと、大丈夫ですか?」
「あ、あはは……お構いなく……」
良く分からないけど、魔王城内で新たな美人さんとエンカウントしてしまうのであった。
イフリートと契約したおじさんの、異世界変身ヒーローごっこ。※但し魔王軍所属 くろぬか @kuronuka
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