第48話 終戦


「……ふふ、クハハハッ! なかなかどうして、やるではないかスガワラ!」


 嘘だろ? と本気で言いたくなった。

 あのフォームの、しかも連続で必殺技を叩き込んだのに。

 ゲンムが、立ち上がったではないか。

 さっきまでなら、死んでなくて良かったと感想を残していたかもしれない。

 しかしながら相手の闘志は、全く折れていない。


『ほぉ、肉体どころか補助魔法の類も優れている様だ。術師ではなく、剣士として自らの魔法を完成させているとみた』


「言ってる場合かイフリート! アイツ、まだまだ戦える――」


 相棒と話している途中で、ガクッと膝から力が抜けた。

 俺の方に限界が来てしまったのか、その場で鎧も解除されてしまったではないか。


「ク、クソッ!」


「終わりか? スガワラ」


 先程の余裕をぶっこいた表情とは違う。

 どこまでも残念そうな顔で、此方を見つめて来るゲンム。

 ふざけるな、こんな所で終わって堪るか。


「変……身っ!」


 無理やり脚に力を入れて、どうにかもう一度変身した。

 だが既に、俺が魔力切れに近い。

 通常状態の変身でギリギリ、ステージ4をもう一度なんてもはや不可能だ。


「そうだ、そうでなければな!」


 相手は嬉しそうな声を上げながら、刀を鞘から引き抜いた。

 が、しかし。


「む?」


 何やら違和感があったのか、彼は自らの武器をしげしげと眺めているではないか。

 素人の俺からすると、先程と変わらない様に見えるのだが……。

 などと考えつつ、此方は相手に拳を向けていれば。


「そこまでです、ゲンム。貴方の仕事は敵の撃退、スガワラさんと戦う事ではなかったはずです」


 俺達の間に、イザベラさんが割り込んで来た。

 正直立っているのも辛いので、非常に助かるのだが。

 果たしてゲンムが彼女の言葉を聞くのかと言われると……あんまりイメージが湧かない。

 通信していた所を見ている限り、魔王様の言葉にも歯向かっていた程なのだから。


「イザベラか……貴様もまた、ソイツの“平和な戦争”とやら賛同している口か?」


「さぁ、どうですかね。確かにその理想を現実の戦場に持ち込むのは甘い、更には味方を危険に晒しかねない。色々と言いたい事は有りますが、貴方の戦い方の方が現実的なのは確かです」


「であるなら――」


「ですが、スガワラさんの方が魔王様の理想に近いのもまた事実。そして今回の様な小競り合いで、敵に“強さ”を示すという意味では、スガワラさんの行動でも充分だと判断します。それに、私も彼の戦い方の方が好ましく思います」


「甘い事を……」


 両者からピリピリとした空気が広がって来る。

 不味い、このままだと絶対戦闘になる。

 思わずイザベラさんの前に出て、改めて拳を構えてみれば。


「それに“勝負”という意味合いでは貴方の負けです、ゲンム。無手の相手に良い様にやられた挙句……その剣では、もはや戦えないでしょう?」


「相変わらず、目ざとい奴だな……貴様は」


 それだけ言って、ゲンムは大人しく刀を鞘に納めたではないか。

 え、あれ? 引いてくれる感じなのだろうか?

 なんかもう良く分からず、彼を警戒しながらイザベラさんの方にチラチラと視線を向けてみれば。


「貴方のふざけた威力のキックを何度も受け、更にはイフリートの炎に晒され続けたんですよ? どんな名刀でも、鉄を溶かす程の高温に晒され続ければ“なまくら”になってしまいますよ」


「そ、そういうものなんですか? というか、あれ? 俺のキック……刀で防がれてた?」


「気が付いてなかったんですか?」


 高速化を解除した瞬間に連撃を叩き出す攻撃なので、俺からしたら視界がジェットコースターみたいになっているのだ。

 とにかくライ〇ーキックを続ける体勢を保っていれば、勝手に短距離転移が発生するので。


「全く……こんなのが相手では素直に負けを認めたくないな」


「そうやってウジウジする性格だから、いつまでも魔王様に付きまとってるんですもんね。貴方は」


 え? 勝ったの俺?

 全然そういう実感湧かないし、もはや立ってるだけでやっとの状態なんですけど。

 なまくらになったって事は、斬れなくなったって事だよね?

 でもそのままぶん殴られても、俺普通に死んじゃいそうだけど。

 などと思いつつ、相手にジロジロと視線を向けていると。


「貴様の蹴りは全て凌いだ、だから素直に負けを認めるつもりはない。が、しかし……そのお陰で、刀が駄目になったのも確か。熱にやられただけでは無く、その鎧にもう一撃叩き込んだ瞬間、ボキッと逝ってしまうだろうな。剣士としては、負けを認めよう」


 なんか凄く分かり辛い上に遠回しな事言って来たこの人。

 つまり武器には相当ダメージが入っていたって事で良いらしいが。

 とにもかくにも、これは。


「お、終わったぁぁぁ……」


 気が抜けてしまえば、もはや立っている事すら出来ず。

 思わずその場に腰を下ろしてしまった。

 そんでもって、再び鎧を解除してみれば襲ってくるのは魔力切れの気持ち悪さ。

 しかも今回はステージ4の反動まで来ているのだ、吐き気が天元突破しそうな勢いでヤバイ。


「イザベラさん……イザベラさーん……吸血を、血を抜いて楽に……気絶させて下さいぃ」


「はいはい……全く、手が掛かりますね貴方は。まぁとりあえず、お疲れ様でしたスガワラさん。魔王様からお説教があるでしょうけど、頑張ってくださいね?」


「あ、あぁ……今はソレ言わないで下さい……」


 という事で脱力した俺の首筋にガブッと鋭い痛みが走り、そのまま意識が遠くなっていくのを感じた。

 今回もまた、やらかしたなぁ俺。

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