第47話 バーニングフォーム


『「今の内に負傷者を回収しろ! そして帰れ! 邪魔だ!」』


 ゲンムを殴り飛ばしてから叫んでみれば、相手方は大慌ててで地面に伏した仲間を回収していく。

 よし、これでアイツとの戦闘に集中出来――


「余所見とは、つれないな。どうした、こんなものではあるまい? イフリートの契約主よ」


 視線を戻せば、すぐそこまで相手が迫っていた。

 嘘だろ!? とか言いたくなったが、相手はカッパラァ先輩が警告して来る程の武人。

 戦う事しか考えていない程の戦闘狂。

 ならば、一瞬たりとも目を放せば致命傷になりかねない。


「イフリート!」


『問題ない、追撃しろスガワラ』


 足元から溶岩が噴射したのかという勢いで炎が飛び出し、相手は身を翻いしながら再び距離を置く。

 が、逃がすか!

 全力で脚に力を入れ、一気に踏み込んで拳を構えた。

 変えろ、変えるんだ。

 この戦場を、虐殺から“俺の望む戦い”に変えろ。

 夢物語、そう呼ばれる綺麗事だとしても。

 そう出来る力がこの身にあるのなら、変えろ。

 “平和な戦争”へ、全てを巻き込め。

 例えこの身が燃え尽きようとも、イフリートの炎によって骨の髄まで焼かれ様とも。

 これ以上、こんな戦場を続けさせちゃいけない。

 あの人は、この戦場を望んでいない!


『「フレイム、インパクト!」』


「ほぉ? 芸は多い様だ」


 突き出した拳から吐き出された火球を、相手は平然と両断してみせる。

 やはり、強い。

 とんでもなく強い、洒落にならないくらいに。

 これまでに無い、本気の“勝負”を挑まないと俺が狩られる。

 しかもこっちはステージ4まで持って行ったのだ。

 時間制限がある上に、演技としてはとてもではないが使えないだろう威力を放っているのに。

 相手は平然と対処してくるのだ。

 あぁくそ、こりゃ……“ガチ”で行くしか無さそうだ。


「時間がねぇから、本気出すぞ……」


『……更に時間を縮める事になるぞ? 良いんだな?』


 相棒からは心配そうな声を頂いてしまう訳だが。

 だが、やるしかねぇ。

 長期戦に持ち込んでも、勝てる気がしない。

 なら、やれ。

 今やるしかないだろうが。


『「リミッターオフ!」』


 全身から爆炎が上がると同時に、世界が緩やかに進み始めた。

 簡単に言えば、特撮あるあるの高速化。

 だが劇中の様に軽快に動ける事も無く、身体は鉛の様に重い。

 しかし、感覚だけは相手の数倍の速度で捉えているのだ。


「ずおぉぉぉらぁぁぁぁ!」


『気合いを入れろ! この戦場を貴様の言う“平和な戦場”に変えるのであろう!? なら、戦え! 戦えスガワラ! 耐えろ! 貴様の望みは、誰よりも気高く達成しがたい所にしかない! 力には力、圧倒的なソレが無くて誰が貴様の言葉に耳を貸す!? お前が誰よりも強いと、まずは証明してみせろ!』


 イフリートの声を聞きながら、ゆっくりと進む世界の中相手の事をぶん殴った。

 俺の拳も随分とゆっくりに見えるが、相手は動いてすらいない。

 だったら、“現実”の方ではかなりの速度で叩き込んだ筈だ。

 渾身の力で拳を叩き込み、ゆっくりと吹っ飛ぶ相手を確認してから高速化を解除してみれば。


「ぐっ!?」


 相手はオフロードバイクが山で事故った時みたいに吹っ飛んで行った。

 やっば、やり過ぎたかも。

 とか思ってしまったが、ゲンムは普通に立ち上がり。


「やるではないか……スガワラ。今一度、先程の技を見せろ。今度は対処してやる」


 非常に楽しそうな様子で、再び刀を構えたではないか。

 あの人、滅茶苦茶硬ぇ。

 この際高速化した状態で必殺技を叩き込んでしまった方が良いのかもしれない。

 いや、でもそれは流石に死ぬか?

 なんて、悩み始めたところで。


『問題ない、アイツは強い』


「へぇ……なら、やってみるか」


 ある意味、覚悟を決めたと言って良いのだろう。

 普通なら、絶対に死ぬと思われる攻撃。

 それを今から、仲間である筈の幹部に向けて放とうとしている。

 ほんと、おかしな話だ。


「ゲンム、お前は強い。ソレを信じて、お前なら死なないと思って最終必殺技をお見舞いしてやる。いいな? 絶対死ぬなよ?」


「笑止、攻撃する前から相手の心配か? ならば、放ってみせよ。お前の奥義を」


 それだけ言って、相手は刀を抜き放ち此方に構える。

 気合は十分、周囲に居た魔族達は既に撤退済み。

 ならば。


「正直、殺さない自信がないんだわ」


「ふんっ、私を殺せるつもりでいるなら……やってみせろ。墓場からでも笑い声をあげてやろうぞ」


 彼の言葉を聞いて、決心した。

 コイツとは本気でぶつからないと、多分分かり合えない。

 だったら、俺の全力を見せるべきだ。

 人の手足を虫のように切断し、戦いに慣れ過ぎている武人。

 戦う為だけに存在する“ゲンム”という魔王軍幹部。

 ソイツの性根を、今日俺は叩き直す。

 戦うにしたって、やり方と礼儀ってもんがあるのだと。

 俺の綺麗事を、全力で相手に押し付ける。

 これが偽善だ、覚悟の無さだと笑うなら笑えば良い。

 戦場に倒れ伏した戦士の顔を見ながらも、そんな言葉を紡げるなら。

 俺には、そんな事出来ない。

 だからこそ全力で絶対的な暴力に、綺麗事の暴力で抗うんだ。


「耐えろよ、ゲンム」


「来い、スガワラ」


 その瞬間、両者は駆け出し。

 そして。


『「アクセルフォーム!」』


 俺の鎧が、真っ黒に染まった。

 先程同様身体は鉛のように重くなり、周囲は時間が止まったかのようにゆっくりになる。

 そして、俺は相手に踵を向け。


『ポインターを射出する』


「あぁ、頼む。こういう時、主人公はどういう顔して実行してるんだろうな……」


『さぁな。だが、全て兜の下に隠してしまえ』


 此方に走り込んで来るゲンムに、キックのポーズで足を向けてみれば。

 これから俺のライダーキッ〇が叩き込まれる予定地点にポインターが設置されていく。

 一つじゃない、高速化しているからこそ好きなだけ設置できる。

 様々な角度から彼にポインターを向け、このフォームで出来る最終技を解放する。


「アンタは、最強の剣士だよ。間違いなく」


『だが、一つの道で全てを掴もうとするのは行き過ぎた欲望だったな。俺達の欲望は、更に上を行く。全てが欲しい、全て都合の良い方向に進んで欲しい。ソレを求めた結果が、これだ』


 俺達の言葉を受けるゲンムは、既に全身がポインターだらけ。

 あまりにも、酷い結末。

 一方的で、此方の我儘を押し付けた結果。

 しかし、負ける訳にはいかない。


『「終わりだ、ゲンム」』


 そう言って高速化を解除してみれば、四方八方から彼に向かって必殺技が炸裂した。

 ポインターを設置した個所に向かって、こっちの体は短距離転移を繰り返しながら何度もキックを叩き込む。

 必殺技の超連打。

 一撃で仕留められないのなら、十発。

 十発で仕留められないのなら、百発。

 それが、一度に襲ってくるのだ。

 普通なら、耐えられる筈がない。


『「さぁ、フィナーレだ」』


 攻撃を終え、振り返った先では。

 盛大な爆発が起こり、黒煙を立ち上らせるのであった。

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