第8話 賑やかな喫茶
「楽しそうですよね! みんなで行きませんか? 赤坂さん。ねぇ、店長も行くでしょう?」
新田さんが私たち二人に声をかける。私より先にチラシを受け取っていたようだ。
「えぇ、僕は行けると思います。赤坂さんはどうです?」
中崎さんも楽しそうに笑っている。
常連のお客さんから話しかけられることが嬉しいようだ。
それに確か彼は音楽も好きだったな、だからというのもあるのだろう。
大学のイベントなんて何年ぶりだろう、それだけで緊張と興奮が波のように押し寄せる。
「私も行きます。演奏楽しみです」
私がそう言うと彼女はパァっと顔を輝かせ、
「ありがとうございます!」
と口にした。
「私、米倉アカリっていいます。よろしくお願いします!」
アカリさんはペコリとお辞儀した。
「ねぇ? それおばさんたちも行っていい?」
向こうで聞いていたマダムたちも我々のほうを見て目を輝かせている。
「もちろんです! これチラシです!」
アカリさんも表情を輝かせる。
「やだぁ、大学に行くなんて久しぶり! 楽しみにしてるわよ。お嬢ちゃん」
「頑張ります!」
「そーねー! 大学卒業してから行ったことないもんねぇ。子供はいないし、もっと言えば結婚もしてないし、学校なんて、行く用事もないもんね、おほほ」
こちらも外れたか。
やはり推理力に乏しい私には、名探偵の登場する推理小説を書けるようになるにはまだ随分先のことになりそうだ。
しかしながら妄想力はなかなかなものだと思う・・・。
「そうだ、今度このお店でも演奏会しましょうよ!」
新田さんがパンと手を叩いた。
「ピアノもあるし、席を移動させればみんなで演奏できますよ! 新しいことやってみましょ! 赤坂さんも店長も音楽好きでしたよね?」
「・・・良いかもしれんな」
「よし、決まり! 皆さんもお時間あればぜひ! アカリさんも是非来てくださいね」
「あら、久しぶりに歌でも歌っちゃおうかしら~」
マダムたちは乙女のように笑った。
「はい! ぜひお願いします!」
アカリさんも花が咲いたように笑った。
先ほどまで静かな空間だった喫茶が賑やかになっている。
しかし不快ではない。むしろ楽しい。
喫茶の盛り上がりの中で私は驚いている。
目の前でまるで小説のようなことが起こっている。
私の日常では考えられないほど早く、縁が渦を巻き大きくなっている。
人との距離が、急速に縮まっていく。
ワクワクした。
そうだ、久しぶりにピアノを弾かねば。
カフェラテを飲み干した。
すっかり冷めてしまっているが、冷めてもおいしさは一切損なわれていない。
フッと息を吐く。
もうじきアイスカフェラテの季節になるな。
年を重ねても、新しい出会いというものはあるものだ。
皆に感謝をしなければならないな。
年甲斐もなくワクワクとした高揚感がわいてくるのを感じる。
また、新しいことが始まる。
まるでこれから始まる舞台の開演五分前のような感覚。
温かな気持ち。
新しい春。
ここは喫茶「夢心地」。
誰もが夢のような温かい現実を過ごせる喫茶だ。
喫茶「夢心地」〜ここは誰もが心温かくなれる喫茶〜 赤坂英二 @akasakaeiji_dada
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