曙色の夢

 私が見た夢ではなかったのかもしれない。それはそれは幸せな夢だったのだ。日差しの中でまどろむ者の見る景色だ。

 違う誰かの目線で世界をのぞく。混線した夢の中、過去の自分の背中を見た。遠い未来の記憶が見えた。

 どんな夢を見ているんだい、問うと、にっかりと笑った。あれはどうも、おいしいご飯を食べる夢だったらしいと後から知る。いつも現実で共有している景色だが、秘密にしたくなるほど楽しいようなのだ。


 幸せな夢を見た。辺りは明るく全てが良い方向に転じていた。体も心も軽く、一切の苦しみがない。自分の中には持ち得ない浄土はいつも隣にあって、うすうす感じてはいたけれど、その日初めて目にしたのだった。誰かの視界を借りて見た景色は優しかった。お礼に今度はこちらの視界を貸してあげる。天上の極彩色ではないけれど、七色の移ろう四季を、長い長い映画にして見せてあげる。あまりにも長くて夢の中で眠ってしまうほどだろう。寝たり起きたりしながら四季を遊べ。

 目覚めれば雨が降っている。時々止み、光が射し、また雨になる。まどろむような一日。朝と夜が何度もやって来るような。誰かの夢のような。幸せな夢よ、もう少しだけ続け。

 まどろみながら生きていく。夜明けのミルクに曙色を混ぜる。

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カーペット下の宇宙 ほがり 仰夜 @torinomeBinzume

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