きみはなにものでもない
だれか私を知っているひとはいませんか。私はどこにもいないのだから届くはずもないのだけれども。自分の姿を見ることも叶わない。私は空間にぽっかりと空いた穴。ひと一人分の虚無。私は私を語る言葉を持たない。私は自身を人だと思っているけれど、そのように扱われたことはないからもしかしたら違うのかもしれない。自信がない。駄洒落ではないよ。
私は時々誰かのコート掛けになっている。丁寧に服を着せられる。しかし私はそこにはいない。私はコート掛けなのか。好きな服もきらいな服も着た。誰かのための服であり、私の服ではなかった。もういいやって不貞腐れて寝転ぶと踏んづけられた。私はカーペットなのか。私は私のことを人だと思っているよ。踏んだり蹴ったりな日々だけれど。冗談ではないよ。誰も知らない私だけれど、埃を払って体を起こす。座っていればコップのように注がれて飲み干され。その飲み物はどんな味。注がれるだけ、私は知らない。
こんな空っぽなものがそこかしこにあって、もしかしたら私も知らない空っぽがそこにいるのかも。こんにちは。空っぽを掬ってみた。なにもない。私もだけれど。今日は空が広い。せっかくだから風になる。向かいの窓から洗濯物が飛んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます