不死なるひとを語り継ぐ

 裏山の中腹に隠れ住んでいるひとがいて、そのひとが隠れ住んでいることを麓の者はみな知っているのだが、ひっそりやっていきたいらしいことを知っているから、やっぱりそのひとは隠れ住んでいる。隠れびとは魔法使いで、だから隠れてやっていきたいのだろう。今の時代だからね。

 煙突がぷかぷか煙を吐き雨雲を呼んだ。日照りが続いていたので喉が乾いていたところだった。魔法使いもそうだったのだろう。雨乞いを聞き届けたわけでもなく、けれど恵みの雨は降る。おかげで野いちごが息を吹き返した。魔法使いにも分けてあげたいけれど、届けることはない。あのひとは隠れているのだから。

 ある日裏山の小屋の屋根は見えなくなった。西日の橙色を反射し輝く丸窓がやけに眩しかった日を境に、魔法使いは本当の隠れびとになってしまった。もしかしたら散歩している最中に気付いてしまったのかもしれない。見通しの良い場所に隠れていたということに。

 街は寂しく乾いてしまうだろうなと思っていたけれど、魔法使いがいた頃と変わらず小さな豊かさが続いた。今もどこかに隠れながら、雨を降らせ花を咲かせているのだろうか。記憶に宿った西日の色が褪せることはない。魔法使いはいるんだよ。誰も口にはしないけれど、知っているんだ。

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