不死なるひとを語り継ぐ
裏山の中腹に隠れ住んでいるひとがいて、そのひとが隠れ住んでいることを麓の者はみな知っているのだが、ひっそりやっていきたいらしいことを知っているから、やっぱりそのひとは隠れ住んでいる。隠れびとは魔法使いで、だから隠れてやっていきたいのだろう。今の時代だからね。
煙突がぷかぷか煙を吐き雨雲を呼んだ。日照りが続いていたので喉が乾いていたところだった。魔法使いもそうだったのだろう。雨乞いを聞き届けたわけでもなく、けれど恵みの雨は降る。おかげで野いちごが息を吹き返した。魔法使いにも分けてあげたいけれど、届けることはない。あのひとは隠れているのだから。
ある日裏山の小屋の屋根は見えなくなった。西日の橙色を反射し輝く丸窓がやけに眩しかった日を境に、魔法使いは本当の隠れびとになってしまった。もしかしたら散歩している最中に気付いてしまったのかもしれない。見通しの良い場所に隠れていたということに。
街は寂しく乾いてしまうだろうなと思っていたけれど、魔法使いがいた頃と変わらず小さな豊かさが続いた。今もどこかに隠れながら、雨を降らせ花を咲かせているのだろうか。記憶に宿った西日の色が褪せることはない。魔法使いはいるんだよ。誰も口にはしないけれど、知っているんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます