宇宙を匿う

 朝を告げる鳥の鳴き声を聞いてしまって、私は毛布をぐるりと巻き直した。自分の体温が移った布団はひとつの生物で、つまり宇宙だった。布団の中に宇宙を飼っている。あたためておかねばならないので、なるべく布団の中にいたい。だから今日は仕事を休みます。会社に電話をかけてそう言いたいけれどないしょなんだ。みんな隠しているのかな。宇宙を。

 朝日がカーテンの防壁を破り部屋の中まで入り込む。朝日は無粋だ。夜を食らう。宇宙のとっぷりとした闇に光を注ぎ込む。光の洪水に窓は破られ、雪崩れ込んだ鳥が布団をついばむ。街が騒がしくなってくる。カーテンを開ける音が波となり押し寄せる。守らなくては、布団の中のぬくもりを。

 身体を丸めて夜を匿う。手放すにはまだ早すぎる。そう言って宇宙を抱く人々が夜を守る。孤独な戦いをしているけれど、我ら布団の中の防衛者たちは繋がっている。布団の中の宇宙で。一分、一秒、朝の威圧を凌ぎながら東雲に居座る。太陽に布を被せて寝かしつけてやりたい。二度寝しようよ。そう誘う呪文がこの世のどこかにあるはずだ。太陽のための子守唄を探しに旅立つ。私は勇者だ。布団の中の宇宙を守るために剣を掲げる。まずは会社に行く。

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