獅子、遊泳

 銀河のたてがみを持った獅子は金色の野原に降り立って、辺りをぐるりと見回した。空は黒々として清々しく、昼間の風があたたかい。たてがみから立ち上った星屑は煙となって銀河を描いた。星々の歴史が空の銀幕に映写されては消えていった。獅子はいくつもの星が生まれては消えるのを見送ってきた。もう覚えてはいないけれど、胸に灯った星がじいんと熱い。

 足踏みをして草の感触を楽しんでから、獅子は駆け出した。ひと跳ねで山を飛び越え、もうひと跳ねして人の街を飛び越え、夏と冬を行き来して、春の花の中に顔を埋めた。月と太陽の瞳が瞬いて、昼と夜を交互にみつめた。遊びに飽きると獅子は眠り、夢の中でまた遊んだ。

 獅子は猫になる夢を見た。猫の世界のぜんぶである庭を丹念に観察し、地図を描き、庭にあるすべてを愛でた。

 目覚めた獅子が空に飛び立つと、眼下の星は眠りについて、獅子の形の影の中に沈むのであった。獅子は星の景色をよく覚えておくようにして、けれどまた胸の中にしまえば夜空の一粒の星となり、胸の中でじんわり熱い光となるのだが、それでも獅子は嬉しげに、愛おしげに記憶を抱いた。星から星へと飛んでいく獅子は軌跡を描き、光の尾を残し、一粒の星になり、黒々とした宇宙に霞む。

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