最上階

「此処が最後だ。」


 色んな場所を回っているうちにもう一週間経っていた。

 そして、此処は魔王城最上階である。

 城一番大きい扉の奥には巨大な自画像の前にシックでありながら神秘的かつ豪華さを放っている椅子が鎮座していた。


「あの人らしい部屋だな。」


 此処は魔王ルシファーが勇者達を迎え撃った謁見の間である。

 死闘の後はもう復元されている為、綺麗な部屋になっているが、死と戦闘の気配は色濃く残っている事が感じられた。

 その奥にある隠し扉の先にルシファーの自室があった。

 その部屋には既に白骨化されている遺体が数多く転がっていた。

 封印前のルシファーはイスネと似た趣味を持っていた。

 それが人種の奴隷をペットの様に飼う事だった。

 イスネからしたらペットにするなら猫や犬見たいな動物や見ているだけで癒してくれる植物が対象だったが、ルシファーの対象は人だった。

 この白骨死体はルシファーが封印されて放置されたペットの末路である事は考えなくても理解出来た。

 こんな重税の中心に居たらすぐに一瞬にして衰弱死である。

 骨が残っているのはそう言う設定なのだろう。

 骨まで徴収対象だと墓の下には何も残らないと言う悲しい出来事が起きる為、骨はどれだけ重税を課しても課税対象にはならないのである。


「あっ、これ昔、首輪製作の天才児と言われていたクビ・クビワの最高傑作だ。・・・貰っておこう。」


 家でペットと遊んでいるうちにその天才児が失踪した上にその作品の大半が何処にいったと聞いた為、凄く欲しかったが、半ば諦めていた。

 何処かへ消えたと言われた天才児と首輪の行方がやっと分かった。


「あぁ、ルシファーさんに飼われていたのね。そりゃ、2度と日の目に出れなくなっていた訳だ。」


 自室の奥に首輪や服などペット用品を製作していただろう事はすぐに理解出来た上、作りかけの首輪はどう見てもクビワの作品である。

 ルシファーの目に止まって無理矢理連れて来られてペットに調教されたのだろうと手を合わせてご愁傷様とイスネは思った。

 あの人の愛は人が受けるには過激だと天使時代から有名だった。


「こんなものかな?さてとハウスとの待ち合わせ場所に行くか。それにしてもみんな律儀というか、俺ってそんなに分かりやすいかな?」


 ルシファーの自室でもそうだったが、クルスと同じく一緒に堕天した初期組の部屋には自分宛の手紙の類が置いてあった。

 その全てに共通して最低でも千年くらいはイスネがこの魔王城を訪れないと確信していた様な内容が組み込まれていた。

 それに手紙には気になることも書かれていた。


「もうすぐ封印が解けるね。お迎えにでも行った方が良いかな?」


 律儀には律儀で返した方が良いのかなと悩むイスネだった。

 待ち合わせ場所には既にハウスが待っていた。


「どうでしたか?イスネ様。」


「あぁ、気に入った。はい、これ契約書。もうサインしたから。」


 ハウスは確信している様な物言いだった。

 イスネはやっぱり自分って分かりやすい?と思いながら1日目に書いて置いた契約書をハウスに渡した。


「はい、確かに。お釣りは後日コチラにお届けします。」


「いや、貰っといてよ。それだけの価値はこの地にある。」


「では、何か必要な物があればご連絡下さい。」


 何でもご用意してみせます。というハウスは最後に気になっている事を聞く事にした。


「・・・イスネ様はルシファー様達を復活させようとは思わないんですか?」


「あぁ、しない。そういう約束だったし、それに俺では近づけない場所だからね。それにそんな事しなくても良いしね。」


 それがないを示しているかなんてハウスは聞かなくても理解していた。

 商人にとって情報は武器であり、命である。

 ルシファー達の封印に綻びが生じている情報は前から手に入れていた。

 そして、イスネの発言でそれが本当であることへ決定する物だった。

 それによって世界の情勢は混乱の渦へと移ろうとしていた。魔国でもルシファー達初期組復活派と封印派に分かれていた。

 折角、他種族とも友好関係を結べそうなのに、それをぶっ壊す様な真似はしたくないのである。

 それ以上に昔の暮らしを知っている古参の魔族はルシファーが治る豊かな生活を取り戻したいたのである。


「おれはこのまま引っ越しの準備に自宅は戻るけど、まぁ、気をつけて長生きしろよ。坊主。」


「え?」


 ハウスがハッと驚いている内にイスネは空へと飛び去ってしまっていた。


「覚えていたんですね。」


 それは遠い記憶。

 昔、幼いハウスが両親に連れられてカーススを一目見た帰りに迷子になった事があった。

 そんな時に助けてくれた黒い翼を持つ人がいた。

 それは今は別大陸に行った堕天使だという事はその後の両親から言われた。

 そして、魔王城近くの森には魔物の母である堕天使が住んでいることも昔の文献を漁った結果知ったのだ。

 その日からハウスはいつの日かもう一度イスネに会ってお礼を言いたくて毎年の様にこの地に足を運んでいたのだ。


「ありがとうございました。」

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格安中古物件には、ご用心! 栗頭羆の海豹さん @killerwhale

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