アメリカのインド料理店

六散人

アメリカで入ったインド料理店は何と…

20年余り前に、アメリカに出張に行った時の話。

ホットドッグ、フライドチキン、ハンバーガー、ステーキ、…。

滞在1週間目ともなると、さすがにアメリカンフードにも飽きてきた。


「最近中国料理のチェーン店が出店したよ。とっても美味しいよ。超人気店だから、予約した方がいいかもね」

現地の社員にそう言われたので、期待して行ってみたのだが、うーむ。

味が結構濃くて、かなり甘め。アメリカ人好みの味付けなのかも知れないが、甘口麻婆豆腐というのもちょっと。


地元で有名な和食店もあったが、味はともかく結構高い。当時の値段できつねうどん1杯20ドルはさすがにね。

メキシコ料理の店は価格もリーゾナブルで、結構おいしかった(出張中に食べた中で一番美味しかったかも)。しかし、毎日食べるのもなあ。


ということで、他にないか探してみたら、繁華街の少し外れに見つけました。

インド料理店。

まあ、インド料理ならさすがに外れはないだろうと、期待しながら入ってみると、店内はガラガラで客は1組しかいない。

少し嫌な予感がしたが、気を取り直して店内に入る。


食事は定額のバイキング方式で食べ放題。

よし、と気合を入れ、取り敢えず少量ずつ、色々と取ってみた。

テーブルについて、食べ始めた途端、あれ?

おかしい。どれを食べても、全然辛くない。


もしかして、辛くない料理だけ偶然選んだのかも知れないと思い、別の料理を取って来たが、どれもこれも全然辛くない。

何故だ?もしかしてインド料理店ではなかったのか?

そう思って店を出た後、看板を見直すと、ちゃんとインド料理店と書いてある。


首を捻ってホテルに戻ろうとしたら、黒人のホームレスが言い争っている現場に出くわした。

若くて細い方が、年配のごついおっさんに威嚇されて、「こっちに来るな」と、涙目で訴えながら、ずるずる後ずさっている。


やばい。

関わらんとこ。

そう思って立ち去ろうとすると、若い方が一目散に逃げだした。

そして、おっさんの方がこっちに近づいて来る。

げっ、やばい。


「へへへ。追い払ってやったぜ」

おっさんは私の前まで来ると、勝利の笑みを浮かべながら言った。

そして、私に手を差し出す。

「タバコ1本くれや」


アメリカまで来てカツアゲに会うか?

そう思ったが、素直にタバコ1箱渡して、その場からそそくさと立ち去った。

これからは、この界隈に近づくのは止そう。


翌日現地の社員にインド料理店の話をしたら、大笑いされた。

どうやら地元の人たちは辛いのが苦手で、その店は開店したものの全然流行らなかったらしい。

そこで店主の考えた苦肉の策が、辛くないインド料理。


辛い物が食べたい人は、自分で好きなだけ足してどうぞという、スパイスもバイキング方式の店だという。

それならそうと、最初から言ってよ。

まあ、二度と行くことはないけど。

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アメリカのインド料理店 六散人 @ROKUSANJIN

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