悪夢の夜明け

もも

悪夢の夜明け

 毎朝、心臓が潰されたかのような感じがして目が覚める。原因はわかっている。悪夢だ。どこまで行っても建物から出られない夢、空港で延々待っていてもスーツケースが出てこない夢、足の届かないプールにぶくぶくと沈んでいく夢。焦燥、動揺、絶望。眠る度に「どうか、明日こそは穏やかに目覚めますように」と祈るけれど、その祈りが届くことはない。

 なぜ悪夢を見るのか。考えられる原因をあげていくことにした。

 一つ目、大事に残していたドラマの最終回のデータを誤って消去したこと。連続ドラマの最終回だけなくなるなんて、そこに至るまでの全てのエピソードの存在価値がほぼゼロに等しくなってしまった。

 二つ目、無職になったこと。仕事に費やすハズだった膨大な時間が目の前に無駄に広がるばかりで、どうすれば良いのかがわからない。

 三つ目、母親に作り笑いをされたこと。あの人の頭の中にいるのは頭を撫でられてはニコニコと嬉しそうな顔を浮かべる幼い頃の我が子であって、いい年齢で無職になり、昼まで起きてこないような人間ではない。なのに「そんな子どもでも私は優しく受け入れる」と言わんばかりの表情を浮かべているのだ。一体、誰に何を取り繕うための顔なのだろう。

 四つ目、と書きかけて気付いた。そうだ、悪夢を見る原因がわかっているのなら、ひとつずつ潰していけばいいのか。まず、ドラマはラストシーンが見られないのであれば、全ての話を消去して初めからなかったことにしてしまえ。何をすればいいのかわからず時間を持て余しているのなら、目的を作るんだ。出来るだけすぐに行動できるものがいい。そうだな、もう見たくない母親のあの顔を消してしまおうか。デスクに置かれていたハサミを手に、母親のもとへ向かいながら思う。

 よし、これで大丈夫だ。もう、悪夢は見ない。

 

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