さぁ◼️◼️◼️。お前の罪を償う時だ。

解体マグロ

みつけた

"古本屋とは巡り逢いの場所である" (引用:運命必然論 有真直人)


「懐かしい...あんまり変わってないな」


ある程度の仕事が片付き、約10年ぶりという長い期間を経て地元へ帰ってきた。

目の前にはすこし汚れた看板に「ふくせん書店」の文字。

この田舎街にひと際目立つ大きさの書店。所々老朽化が目立っているが、当時のままだ。


小学生だった頃、俺はこの古本屋によく来ていた。

あまりお金がなかった当時古本屋は無料の漫画喫茶みたいなものだった。(もちろんいけないことだとわかっているが)

放課後に来て、日が暮れるまで漫画を読み漁っていた。

中学生になってからは別の町に引っ越したが相変わらず古本屋に通っていた。

年齢が年齢なのでカッコつけて心理学の本とか、分かりもしない哲学の本を読んでたのが懐かしい。

ニーチェとか、ソクラテスとか名前がかっこいいやつを選んでた。


だが今日はそういうのは求めてない。 俺はある漫画を求めてやってきたのだ。

店に入り、漫画コーナーを探す。

当時よりも客は増えているのか?店内は静かながらも賑やかな印象だ。

しかしお目当てのものより先に見つけたのは立ち読みをしてる人達だ。

狭い通路に立っているせいで通りにくい。年代は今の俺と同年代くらいで結構人数が多いようだ。

「どうやって間を抜けようか」そう考えているといかにも働いてなさそうな小太りの男と目が合った。

思わず慌てて目をそらす。


(店の気持ちも考えてやれよ。まぁ、人のこと言えないんだけど)


大人にもなって。と少し彼らを見下した。

彼らの間を強引に抜け、たどり着いた漫画コーナー。

そこにはかつての何倍という量の古本が広がっていた。


「お、あったあった」

作品の名前は【むっつのほし】タイトルからは想像できないほど鬱系の漫画だ。10年前の作品で半分くらいを中古で買っている。残りも中古で集めたいが...


「嘘だろ。ちょうど欲しい巻だけない」

主人公むつ星くんの小学生編。俺が1番気になってる所だ。

まぁ古本屋あるあるだ。だがどうしても諦めきれない。


「そうだ!100円コーナーがあるじゃないか」

少々状態は悪くなるが、俺は気にしない。

過去の自分と重なるように100円コーナーに向かった。


さっきの場所とはうって変わり、独特な匂いが漂う100円コーナー。

臭いという訳ではなく、時間を経験した本の匂い。


「....あった。あったぞ」

むっつのほしの14巻と15巻。しかも状態が新品同様じゃないかこれ。

驚いた。これだから宝探しはやめられない。


(さて要件は済んだし、帰ってじっくり読むとする...ん?)


店の隅に見慣れないものがあった。

窓から入る日の光がその場所を目立たせている。


【会員様限定プライベート日記コーナー】


そこには大きさが様々の日記がカゴの中でバラ売りされていた。

手帳のような小さいサイズ。学生が使うようなノート。ましてや辞書のように大きいサイズもあった。


【Desu no-to】


【たいとあやなの交換日記♡】


【夏休みの課題日記】


いかにもという感じだが、その中で俺の興味をひいたのは自由帳。

タイトル以外が黒く塗りつぶされている。

なんの動物が書いてあるかわからないほどに塗っている。 しかも少し傷んでいる。数年前のものか?


タイトルは【学窮日誌】


「 なんだこれ...」

異様な雰囲気を醸し出すそれは、己が見てはいけないと警告している。


古本屋は巡り逢いの場所とも言う。それは思いもよらない出会いがあるということ。


「これだから宝さがしはやめられない!」

好奇心が勝った俺は日誌を手に取った。しかし同時に店内アナウンスがかかる。


(新型ウイルス感染対策として、当店では立ち読みを御遠慮いただいております)

アニメの声優みたいな女性店員の声だ。10年前はこんなものなかった。


「というかこれじゃあいつらと一緒じゃないか」

あんな奴らと同じレベルなのが気に食わない。


(うーん...でもなんか呪われそうだしな)


しかし適当な理由をつけ自分を納得させ、俺はページを開いた。

ページの大半は文字の殴り書きだが、かろうじて読めるところがあった。


・◼️◼️◼️は漫画が好きだ。流行りの漫画のストーリー全て知っていた。そしてみんなに聞こえるような声でネタバレをする。あいつのせいで結末とか丸分かりだ。僕は勇気をだして、あいつに「やめて」と言った。そしたら「お前らが貧乏なのが悪いんだろ?」だってさ。死ねばいいのに ◼️◼️◼️


俺はすごいものを手に取ってしまったかもしれない。

この黒塗りされた所は名前か? 学級日誌ってこんな恨みを書くものか?

まぁクラスにこういう奴が一人はいた気がするが、ここまでとは。


・◼️◼️◼️くんはよく図書室の本を盗んでいた。漫画はあまりないから魔法少年シリーズや不思議な木の家シリーズなんかを盗っていた。ある日問い詰めると本で殴られた。「貧乏のくせに、たかがモブが」今でも覚えてる。


俺はその本の名前に聞き覚えがあった。

魔法少年シリーズに不思議な木の家シリーズ。たしかに人気だったしクラスの誰かは借りてた。

どうやらどこの学校でも人気らしい。

《《》》

そして相変わらず黒塗りくんは最低なやつだ。本で殴るは流石にダメだ。先生は何をしているんだ!


・私は◼️◼️◼️を許さない。将来の夢を声優と言ったら、私を帰りの会で「みんな聞いたか?お前顔も声もきもいんだからやめとけって」って笑われた。なんでブスって言うの?なんで夢を馬鹿にするの?今も周りが私を笑ってるような気がするの。だからマスクが外せない。まきちゃんがかわいそう。あんなやつに好かれてるなんて。たな


たな?途中なのか?

しかし同情するよ。たしかに人間、顔いじりというのは本能的なものかもしれない。ただ周りに言いふらすのは倫理観がなさすぎる。

それに日誌の舞台は小学校か?小学生だからという理由は好きじゃない。


・◼️◼️◼️は「俺は俺の人生の主人公だ。だから誰も俺の邪魔したらだめなんだ」と言ってよく女の子に触ったり、更衣中に教室に入ったりしてた。僕の恋人も被害にあった。結局キスまでさせられていた。


変態じゃないか。

そういえば「自分は自分の人生の主人公だ」って誰かの名言だったよな。

プラトンか? しかしこいつはどうしようもないな。なんかの病気なんじゃないか?


・ 古山村小学校にいた記憶を消したい。


やはり小学校か。

ん?この学校...俺も通ってた。ここから5分歩けばいける場所だ。

もしや遠い話のようで意外と関係があるのかもしれない。


(これはいつ書かれた話なんだ?それさえ分かれば)

いつしか俺はこの日誌に夢中になっていた。


「すいません」

「はい!」

いきなり声をかけられた。誰かと思えば店員だった。 名札にはさとう(研修中)と書かれている


「当店立ち読みは御遠慮しております」

「あぁ。すいません」

そうだった。放送で言ってたな。

たしかにこれは店員が正しいが、他にも注意するやついっぱいいるだろ。


(今めっちゃいいとこなんだよ)

心の中で大きくため息をした。

(しかも研修なのかよ。俺と同年代っぽかったのに )

店員がいなくなったのを見計らって次の読めるところを探した。


・◼️◼️◼️と2年連続同じクラスになった。彼は友情の証として、カッターで手の甲に六芒星を描いた。親に「どうしたの」って言われても黙ってるしかなかった。傷は治ってもミミズ腫れは今も残ってる 佐藤 俊介


なんだこれ?これはもう事件の類だろう。

黙ってるしかなかったってどうして。

さとうしゅんすけ。

え。さっきの店員はたしか...。


・◼️◼️◼️を転校させる作戦をみんなで立てた。放課後あいつがいつもの場所に行ったのを見計らって、別の地区の西川口公園に集まった。やっとあいつがいなくなる。 でもごめんね。こうするしかないの。


こうするしかない?誰に言ってるんだ?

西川口公園はたしか校区外の場所だ。ここに行くと指導対象になる。そのリスクを犯してまでとは。

’’放課後いつもの場所’’ということは学校から近い場所なのか。どこか小学生が集まる場所はあったか?


・◼️◼️◼️転校作戦のために私が生贄になった。一生かけても忘れられない日になった。死んだ方がましだ。おなかがいたい。 高畑真希


高畑真希!? そうだ! この子はたしか小学生ながらモデルにも選ばれた子だ。この子は成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能で学年でもトップの知名度と人気を持ってた子だ 。

クラスでも有名でめっちゃモテてた。 そういえば今何してるんだろう。


ここからは汚すぎて全くわからない文章が続いた。

それが十数ページに渡り続いている。筆跡が違うことからおそらくかなりの人数が書いている。

ペラペラとページをめくると絵が描かれていた。


ボロっちい服をきた少年


本屋


顔がない女の子


赤い六芒星


手を重ねる子供たち


泣いている裸の少女


少年と笑っている集団


(なんだこれ..怖すぎる。 本当に小学生のものか?)

人間、意味不明のものが一番怖いと感じると中学の時、何かで読んだのを思い出した。

次のページには寄せ書きが書かれてあった 。これもまた今までの日誌の人物達とは違う筆跡だった。


・ありがとう高畑さん。私たちのために、でもあいつはいなくなったよ。ありがとう。


・高畑さんが◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️もあいつのせいだ


・クラスのてきだ。いつか必ず


・逃げるな卑怯者。謝罪の一言もできないクズが。


追記:◼️◼️◼️の住所と電話番号分かる人いますか? 


追記に関しては比較的新しい字だった。そして次が最後のページになっていた。


・◼️◼️◼️転校作戦の醍醐味は10年後、その日にみんなで集まるぞ。


・さぁ◼️◼️◼️。お前の罪を償う時だ。


最後の文章はやけに字が綺麗だった。比較的ではなく、大人のきれいな字。


(10年前というと俺が小学6年生の時だ。そして高畑真希。間違いない。俺が在学中に起こったことだ)

ただ小学校の記憶というのは断片的しか残っていない。それにしてもこの黒塗りの人物気になって仕方がない。


(これ日光当てたら透けて見えるんじゃないか?)


最後の文章があるページだけを窓から差す日光にあてた。

分かりにくかった。が字の跡は間違えなく


水島高生


俺の名前だった。


俺はすぐに本を閉じたがあまりの衝撃にしばらく立ち尽くした。


(待て待て待て待て待て。俺が?なんで?そんな記憶はないぞ! 何かの悪ふざけだ。そうに決まってる。確かに同じ小学校だ。でもそのあと転校して...)

俺は携帯を取り出し母親に電話した。


「もしもし母さん!俺」

「あら、今度は何が欲しいの?」

「違う!今それどころじゃないんだよ! 俺の、小学生の頃の俺を覚えてる?」

「...そうえいば最近色々あったのよね。こうせい、中学生の時、記憶に関する心理学読んでたじゃない?あれどんな」

謎の沈黙に加え露骨に母さんは話を変えた。


「話を変えないでくれ!どうだったんだ!?」

「あれから10年か...もういいのよ。最近高畑さんの母親に言われたわ。ようやく前向きに考えれるようになりましたって。みんなも久しぶりに会いたがってるそうよ」


は?


待て待て待て。なんで高畑真希のお母さんが出てくるんだ?最近だと?みんなも会いたがってる?

「俺が、俺が何したっていうんだよ!」

「こうせいもやっと向き合い始めたのね」


(向き合う?)


かつて何か犯してしまったかのような言いようだ。怖くなって電話を切り、もう一度黒塗りの日記を開く。


・水島高生転校作戦の醍醐味は10年後、その日にみんなで集まるぞ。


(会いたがっているってこれのことか?なんだよ醍醐味って。いや待て俺は本当に知らないんだ!覚えてないんだ!)


「お客様?」

聞き覚えのある声。振り返るとそこには、あのさとう店員が立っていた。

「店内での電話は御遠慮ください」

今度の口調は少々怒りがこもっていた。しかしそんなことを気にする余裕はない。

「なぁ店員さん。質問なんだがこの日誌...」

彼の前で組んでいる手が目に映った。彼の両手には軍手がしてあった。

「どうしました?」


・水島高生と2年連続同じクラスになった。彼は友情の証として、カッターで手の甲に六芒星を描いた。親に「どうしたの」って言われても黙ってるしかなかった。傷は治ってもミミズ腫れは今も残ってる 佐藤 俊介


「いや、あなた手、ケガしてる?」

俺は恐る恐る彼に聞いた。これでそうだと答えたら。

さとう店員はしばらく俺の顔を見て少し低い声で答えた。


「...えぇ」


居ても立っても居られなくなった。

「わかったわかった。買うよ。買うから!」

彼から逃げるようにそのままレジへ向かい、急ぎ足で普通の漫画コーナーへ戻った。

(まずい。この内容が事実ならここに置いておくわけにはいかない。どこかに隠さないと)


しかしそこで異変に気付く。

異様な静かさ。


「なんで?なんで誰もいないんだ!?」


立ち読みしてた連中が一人としていなくなっていた。あの無職野郎もいない。

いや違う。漫画コーナーだけじゃない。店内に俺以外の客がいない。

俺はレジに向かって走り出した。俺の急ぐ足音だけが店内に響いている。


「いらっしゃいませ!。こちらお預かりしまーす!」

即座にお金を置いて、会計を待った。

しばらく俯いてしまう程かなり息が上がっていた。


「すいませんお客様!こちら会員様限定商品なのですか会員証はお持ちでしょうか!?」

「会員...証...?」


そうだ。【会員様限定プライベート日記コーナー】 とあった。完全に忘れていた。


「お持ちでないなら、無料でお作りしましょうか!?」

「あぁ。頼むよ。急いでるんだ。早くしてくれ。」


眼鏡をかけた女の店員は妙に甲高い、まるで女児向けアニメの声優のような声で話した。

初対面のはずだが、どこかで聞いたことがあるような、ないような。


ただ自分がおかれた状況にこういう声は少し苛立ちを感じる。


「ありがとうございます!!ではこちらの用紙に’’お名前’’と’’ご住所’’と’’電話番号’’をお願いします!!!」

そして用紙とボールペンを渡された。


追記:水島高生の住所と電話番号分かる人いますか?


あの謎の追記が頭をよぎる。


(住所と電話番号だと?俺の個人情報じゃないか。これも作戦の1部か?いや待て。本当に俺なのか?本当に覚えてないんだよ。同名なだけなんだ。そうだよ。あんな日誌みたいなひどいことするはずないだろ)


俺は用紙を見ながら自分は無実だと言い聞かせた。母さんの電話も何かの間違いなんだと。


「お客様珍しいですね」

高い声のレジの店員が話しかけてきた。

「これけっこう中身やばいんですよ。売れないし、もう警察に届けたほうがいいんじゃないかって店長と相談してたんです」


(警察だと!?)

なおさら処分しないとまずい。光で透かした程度で俺の名前が出てきたんだ。高畑真希の状態次第じゃ最悪逮捕されるんじゃないか?


(しょうがない。俺の人生に傷がつくのはごめんだ。買ってすぐこの街を出ればいい)

冷静を装い、ペンを持った。


「いやただ普通に欲しいだけだよ。こんな表紙じゃ気になっちゃうだろ?」

余裕のふりをしつつも、目を合わすことすらできなかった。


「もしかしてお客様。内容が自分に関係あったりしました?」


一瞬。

この一瞬で心拍数が倍になった。俺はペンを持ったまま止まってしまった。


「もしかしてお客様。内容が自分に関係あったりしました?」

腹立つ声の店員はなぜか同じことを聞いてきた。

(は?なんで二回も...あ)


ようやく気付いた。この声は「立ち読みはご遠慮ください」のあのアナウンスの声だ。

耳に残る甲高い声。まるで声優のような。


・私は◼️◼️◼️を許さない。将来の夢を声優と言ったら、私を帰りの会で「みんな聞いたか?お前顔も声もきもいんだからやめとけって」って笑われた。なんでブスって言うの?なんで夢を馬鹿にするの?今も周りが私を笑ってるような気がするの。だからマスクが外せない。まきちゃんがかわいそう。あんなやつに好かれてるなんて。たな


(たな?マスク?今もつけてる...)

ゆっくりと顔をあげた。

その店員の名前は田中。彼女は白いマスクをしていた。


「うわぁ!!」

俺はおもわず後ずさった。焦っていて顔を全く見ていなかったので気づかなかった。彼女の眼は一切笑っておらずこちらを凝視していた。

冷や汗が止まらなかった。


「どうされました?」

(いや落ち着け、マスクをしてる店員なんてどこにでもいる。それに古本で働いてるやつなんて大体オタクか陰キャとかその類だろ。あいつらほとんど気持ち悪い声してるし。たまたまだ。そうに決まってる)


俺はこの状況から逃れることに精一杯だった。

(とっとと書いて、帰ろう。それが正解だ)


「いや...虫がいたもので」

再びペンを持ち、震える手をなんとか制止しながら書いた。

「はい!こちらありがとうございます!!こちら会員証でーす!!そしてこちら私達の日誌のお渡しです。ありがとうございましたー!!」


俺は田中店員に目もくれず店の入り口に向かった。俺は怖くなるから何も考えなかった。

(あった。あったぞ!)

入口の前まで行って立ち止まった。いや立ち止まらずを得なかった


扉の向こうにあの立ち読みをしてた連中が入り口を囲っていた。

皆全員が俺の顔を見ている。

「なんなんだよ...お前ら。気持ち悪いなほんと!!どけよ!!お前らにかまってるほど暇じゃねえんだよ!!」

俺は募った感情を彼らにぶつけた。


「古本屋ってのはさ。巡り会いの場所なんだ」

突然後ろから肩を組まれた。


「覚えてる?これ?」

そして男は手の甲を見せてきた。

赤く、そして黒く、見るに堪えない六芒星があった。

「さとう...しゅんすけか?」

俺の声は震えていた。


「お! 思い出したか!?あっちにいる全員はあの時のクラスメイトだよ。ほら、さいとうとか」

佐藤俊介が指さした男は漫画コーナーで俺が心の底で見下したあの男だった。

「...知らない。覚えてない」

「そうか?お前楽しそうに殴るだの蹴るだのやってたじゃん。こいつもやっと精神病院を退院してな」


なんだよそれ。まさか読めないところに書いてあったのか?

ということはあの内容は全ての俺の恨みか?


「俺は、俺は本当に知らないんだよ。俺じゃない。そんな記憶ないんだよ。人違いだきっと!」

俺は声を荒らげて佐藤に言った。対して佐藤は笑いながら言った。

「何言ってんだよ水島高生!ほんと変わってないな!」

そして耳打ちをしてこう言った。


「俺たちが忘れるわけないだろうがよ」


佐藤の顔からは笑みが消えていた。

「さぁ10年越しの同窓会だ!」

佐藤は店の外にいた連中に手招きをした。続々と連中が入ってくる。

俺は店の中央まで戻されてしまった。どこを向いても誰かと目が合った。


「あの、高畑さんは?」

「ふざけるな!!お前みたいなやつが高畑さんの名前を出していいと思ってるのか!!あんなことしておいて、一生の傷をつけておいて!!」

さいとうが凄まじい怒りを眉間に寄せていた。

「まぁ落ち着けよ、さいとう。真希ちゃんならもうすぐ来るってさ。しかも両親も来てくださってる。よかったな水島」

俺は辺りを見渡した。周りは皆、不思議にも笑っていた。

しかし佐藤は、佐藤だけは目をつむっていた。

まるで何かに浸っているかのように。


皆の笑顔には確実に、確実に憎しみを隠していた。


もうわからない。俺がなにをしたのかも、なぜこんなことになっているのかも。

考えるのをやめてしまいたい。

絶望の渦の中ある言葉を思い出す。


"古本屋とは巡り逢いの場所である" (引用:運命必然論 有真直人)


運命必然論。中学の時、内容が難しすぎて流し読みした本だ。


俺の顔を見かねた佐藤が口をひらく。

「なんて顔してんだよ。みんな過去の思い出さ」

いつの間にか彼に笑顔が戻っていた。

「だからこそ、お前に言わなきゃならないことがある」


あぁ。なんとなく言われることは分かる気がする。


・「さぁ水島高生。お前の罪を償う時だ」

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