第3話
一週間後、深夜。
僕はダンジョンにやって来ていた。
そこは我が家から、徒歩で二十分くらいの場所にあるダンジョンだ。
外観は、どう見てもどこにでありそうなちょっとボロい見た目の空き家である。
でも、入り口には黄色いテープが何重にも貼られていた。
ついでに看板も立っていた。『未確認ダンジョン出現につき屋内立ち入り禁止!!』の文字が大きく書かれている。
僕がこのダンジョンに目をつけたのは、テレビでニュースになっていたからだ。
画面の向こうでリポーターの女性が、必死な形相でリポートしているのを見て「ふーん割と近場じゃん。よし行くか」となったからである。
しかもまだ発生したばかりらしい。
未発見のダンジョンは、プロの冒険者が中を確認するまで誰も立ち入ることが出来ないみたいなので、今は誰も中に人がいない状況である。
正直かなりの狙い目だった。
もちろん誰もダンジョンに入らないよう監視員が四人ほどいたが、今の僕は年端のいかない子供である。
身軽な上、小柄。
なので夜の闇に紛れて、怪盗のように鮮やかに侵入を果たしたのであった。シュバァッ!
空き家の中に入ってみると、内装は有り得ないくらい異質だった。
木造平家建ての一般的な日本家屋なのに、壁と床一面が全て石レンガでびっしり覆われているのだ。
間取りなんて端から無視だった。
明らかに空間が捻じ曲がっている。
風呂場や台所や寝室と言った部屋は軒並み消失していた。
内部には、ポツンとひとつ下に降りるための階段があるだけだ。
これが、ダンジョンへの本当の入り口らしい。
その入り口からは濃密な魔力が漏れ出ていた。
……へえ、何だかわくわくするなあ。
僕は好奇心に身を任せて、階段を降りる。
するとそこは、例えるなら地下墓地のような場所となっていた。
所々骸骨が転がっていて、不気味な雰囲気だ。
そしてかなり広いし、薄暗い。
一応、壁やら床には松明が設置されていたけど、それだけではこの広い空間の全てを照らせるわけではない。
そして、光が届かない暗闇の中には何かが蠢いていた。
数はかなりいる。
何かが這い回る音。
何かが歩き回ったり、走り回ったりしている音。
呻き声や唸り声やすすり泣くような声。
がちゃがちゃと鉄同士が擦れる音。
とにかく様々な音が聞こえて来る。
おそらく魔物だろう。
地下墓地みたいところだし、アンデッドかもしれない。
思わず感嘆の息を漏らす。
へえ、こうなってるんだ面白いなあ。
この世界のダンジョンは思いの外ダンジョンらしい造りになっていた。
僕は満足する。
これは攻略のしがいがあるというものだ。
――なら始めようか。
ダンジョン探索を――
僕は早速、魔法を発動させた。
【召喚魔法――魔蟲】
魔力を消費して、魔蟲を十匹ほど召喚する。
種類は羽蟲を指定する。虚空から現れたのは、やや大柄の蜜蜂だ。
「行け。周囲を偵察してこい」
命令を下すと、蜜蜂たちは一目散に散っていた。
これが僕の魔法である、【召喚魔法】だ。
僕が生まれた樫宮家は、代々召喚魔法の使い手を輩出する超名門だった。
召喚魔法には、様々なものがある。
たとえば我が家に限って言えば、父は天使を召喚するし、母は妖精を召喚する。
それと長男の夏樹兄さんは精霊、次男の秋斗兄さんは悪魔を召喚することが出来る。
そして僕の双子の妹の真冬は、なんと竜を呼び出せる。見上げるほどのめちゃくちゃデカいドラゴンだ。
家族の中で、真冬が一番天才だった。
ついでに僕が一番雑魚である。
なので、僕含めた家族の溺愛が留まるところを知らない。
そして、つい先ほど僕が召喚したのは魔蟲と呼ばれる魔力を持った蟲である。
ちなみに魔力を持っているからといって、魔物というわけではない。あくまで進化の過程で魔力を獲得した蟲が生まれた、というだけだ。大気中の魔力が豊富な場所へ行けば、好きなだけ魔蟲が見ることが出来る。
それと豆知識的なものだが、魔物は体内に魔石と呼ばれる石があるらしく、それが無かったら魔物では無いとか。
まあ、とにかくそんな感じだ。
僕の魔法は、家族の中では一番雑魚だけど、そこそこ便利だった。
殺傷力は低いが、機動力はそれなりにある。
なので、視界が悪いところでは偵察に使えるのだ。
魔蟲が死んだら敵がいるか罠があるということだし、しかも魔力を同調させることで、魔蟲の感覚を部分的に共有することだって可能だ。
つまり、ドローン代わりである。
他の召喚魔法と違って、燃費もいい。
バンバン召喚出来るのが強みだ。
ぶっちゃけ今の魔力量だと、数千匹は召喚しても全然余裕なくらいだった。
そう、これこそが人海戦術、いや蟲海戦術である……!
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