第4話


「ふーん、なるほど。こんな内部構造なのか」


 僕は魔蟲を駆使して、わずか数分で、この階層のマッピングを終了する。


 魔物や罠の配置もバッチリで、ついでに次の階層に続く階段も見つけた。


 なのでさっさと進むことに決める。


 長居は無用だ。いつプロ冒険者がやって来るかわからない。


 それに、朝になるまでに家に戻らないとまずい。


 家族が心配するし、この年で夜遊びが判明するとか、一生もののレッテルを貼られそうだ。


 さっと攻略して、さっと帰る。

 見つけた宝物も勿体無いけど全部無視だ。


 うーん、なんてストイックなんだろう。我ながら惚れ惚れするね。


 そういえば、言い忘れていたけれど、僕がダンジョンに来た理由は、ダークヒーローになるためだった。


 で、ダンジョンでどうやってダークヒーローになるかって?


 その答えは至極単純。ダンジョンには魔物がいる。


 ――そして、僕の復讐相手はこの魔物なのだ。


 どういうことかというと、僕はダークヒーローになるための設定を考えていた。


 もちろん僕は今世でも世間一般で言う幸せな生活を送っている人間の一人だ。


 不幸なことは未だ一度も経験していない。


 自ら不幸になりたいと思うほど僕の心は落ちぶれてはいない。

 誰だって自分が幸せである方がいいに決まっている。


 でも、それでは駄目なのだ。


 僕はダークヒーローになりたかった。


 何としても。


 だから、いつしかこう考えるようになった。


 別に不幸なエピソードがなくたってダークヒーローになっていいんだ、ってね。


 なので僕は捏造することに決めたのだった。



 筋書きはこうだ。



 ――僕は転生者である。


 前世では魔物に家族を襲われて、全てを失ってしまった。

 失意の果てにこの世を去り、そして生まれ変わったこの世界にも魔物が存在する。


 ああ、憎い。魔物が憎い!!


 決意する。

 これは復讐だ。

 僕は全てを滅ぼす。そう根こそぎ、例外なく、その全てだ。


 僕から何もかも奪った魔物共に、僕と同じ目に遭わせてやる。

 たとえ、この命を使い果たしたとしても絶対に……!!



 ――とまあ、こんな感じで自分に暗示をかけて、あたかも復讐者であるかのように憎悪で心を滾らせる。


 今の僕は完全に復讐者の目をしているのだった。


 路上ですれ違ったら、即通報されるような形相をしていると思う。


 よし、自己暗示は完璧だ。


 たとえ嘘発見機を使われても、全くバレないレベルで思い込むことに成功しているだろう。


 今の僕はどこから見ても復讐に燃えるダークヒーローだ。うん、間違いない。


 ああ、そういえば何故、魔物をターゲットにしたかという説明をまだしていなかった。


 端的に言うと、復讐相手に設定する相手を選ぶ際、魔物という存在が一番都合が良かったからである。


 どれだけ狩っても迷惑にはならず、むしろ喜ばれて、ダークヒーローの敵に相応しい存在といえば、この世界では魔物をおいて他にはいないだろう。


 そして魔物が沢山いる場所こそがダンジョンだった。


 ダンジョンは資源の宝物庫でもあるが、いつ爆発するか分からない危険な火薬庫でもある。


 数多のダンジョンには未知の資源が眠っている。

 けれど、それを入手するには凶悪な大量の魔物を相手取らなければならないのだ。


 そして、苦労の末何とか貴重な資源を入手出来たとしても、ダンジョン内では機械の類は一切使えないので全て人力作業である。持ち帰ることの出来る量は、微々たるものだった。


 つまりハイリスク、ローリターン。


 出した犠牲の割に、しょっぱい成果となることがしょっちゅうだった。


 それならダンジョンの研究でもして、効率良く資源を得られるようになれば良いのではと思うかもしれない。


 けれど、ダンジョンの仕組みは何百年経っても未だ解明されておらず、ブラックボックスと言っても過言ではなかった。


 ならば、間引きをして少しでも危険を減らそうとするも、いくら狩っても魔物の数はすぐ増えるし、しかもダンジョンが大きくなると、スタンピードと呼ばれる現象が起きて、魔物が外に雪崩のように這い出して来る始末だった。


 つまり分かっていないことの方が多い上、現状リスクの方が格段に高い。


 ニュースや新聞を見ると、日本を含め、世界中の国々がダンジョンの存在を持て余している感じだった。


 なのでぶっちゃけて言うと正直、今の世にとってダンジョンは無くても別に困らない存在なのである。


 よって魔物を狩れば狩るほど皆から喜ばれるし、僕はこの先ずっとダークヒーローを続けられる。


 両者WIN-WINの関係だった。



 以上、状況説明は終わり。



 これから僕は本格的に攻略を開始することにする。


 さて、今からダンジョンアタックと行くのだから、万全過ぎるほどの準備をするべきだろう。


 念には念を。

 僕はもう一つ魔法を発動させた。


【錬金魔法――換装】


 その瞬間、全身が薄いプレートで覆われる。


 これは僕が使えるもう一つの魔法である【錬金魔法】だ。

 触れた物を変質、または変形させることが出来る能力である。


 実は、二種類以上の別系統の魔法を使える人間はかなり珍しいらしい。


 ギネス記録では最高四つだとか。

 

 まあ、今はあまり関係ない話題だ。割愛しよう。


 この錬金魔法、大抵の物は触れると容易に形を変えることが出来た。

 何なら【錬金魔法】の名の通り同質量の石を金に変えることだって可能だ。


 正直かなり強力な魔法である。

 やりようによっては、何だって出来てしまうのだから。


 文字通り万能。

 けれど、ただ一つ欠点があった。


 そう、燃費である。

 召喚魔法と比べて冗談みたいに魔力消費が激しいのだ。


 今のところ僕の魔力量では、一日で使えて五回くらいだろうか。

 それ以上使うと、ぶっ倒れてしまう。


 なので、使う際は細心の注意を払わなければならない。

 可能な限り、切り札として温存しておくことにする。


 そして今は、リュックに入れて持参したアダマンタイト鉱石(※予め錬金魔法で作っておいた)を全身に纏わせたのだった。


 アダマンタイトとは、魔力鉱石と呼ばれる希少金属だ。

 本来ならダンジョンでしか入手出来ないらしいけれど、魔法で何故か作ることが出来てしまった。


 そして、その希少金属の特性はとにかく頑丈である。

 どれくらい頑丈かと言うと、高層ビルから落下しても傷一つ付かないくらい。

 衝撃は、魔力を通すことである程度受け流してしまうのでとにかく笑ってしまうくらい硬い。

 それを自ら鎧のように身に纏うことで絶大な防御力を手に入れたのだった。


 戦闘において、やはり防具の存在は重要だ。

 それにヒーローなら何かしらのスーツを着るべきだろう。

 僕の場合、鎧なのでアーマースーツだろうか。


 トレードカラーとして、アダマンタイトの鎧の色はメタリックブルーにした。


 正直、黒色の方がダークヒーローっぽいと思うけど、止めた。

 黒は夜だと見にくい。


 以前、鎧の性能を試すため、真夜中に家を抜け出したことが何度かあったのだが、その度に車に跳ねられたので、流石に変えた。


 せめて青色にすることに決める。

 青でも十分、ダークヒーローっぽいし。そう、悲しみの青だ……。


 あとはそうだ、武器も必要だった。

 リュックの中から残ったアダマンタイト鉱石を取り出して、薄く長く伸ばして剣にする。


 作ったのは身の丈ほどのやや幅広の大剣だった。

 リーチは大事だ。子供なら尚更。

 鎧の性能が良いからと言ってやはり過信してはならないだろう。


 当初の計画としては、素手で行くつもりだった。

 前世での修行で、体術に関してはそれなりに自信があったからである。

 けれど魔物は生命力が高いらしい、と聞いたので威力の高い武器を使うことに変更したのだった。


 魔法で装備を整えたことで、実質錬金魔法一回分くらいの魔力を消費した。


 まともに使えて、あと四回か。

 まあでも魔力を回復する手段もあるし、何とかなるだろう。


 さて、これで完全に準備は整った。


 よし、行こう。

 目指せ! 一夜でダンジョン踏破!!


 そして僕は、全力で駆け出したのだった。

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