第2話

 生まれ変わってから、一年が経った。


 その頃になると、僕は魔法を習得していた。


 別に大したことはしていない。

 この世界では、魔法を使うに当たり、呪文を暗記したり、魔法陣を描くみたいな下準備は一切しないのである。


 ある日ふと、「あ、使える気がする。なんとなく魔法使えるようになったかな? あ、うん、なったわ」みたいな唐突さと拍子抜けな感覚と共に魔法を覚えたのだった。


 僕は生まれ変わって半年後くらいに魔法を覚えた。

 世間一般では、かなり早い方だったみたいである。


 一般的には、大体三歳から五歳くらいの間に魔法を覚えるらしい。


 そう考えると、めちゃくちゃ早すぎるな。これ。

 なんだろう、生まれ変わった影響だろうか。


 まあでも、早く魔法が使えるに越したことはない。

 早速、修行内容に組み込んでおく。


 魔法を覚えたことで何となく理解したのだが、魔法とは、この世界における超能力みたいなものだった。


 魔法を使うと魔力が減る。

 魔力を使って魔法を発動しているのなら、まあそれは魔法なんだろうなあという感じだ。


 ちなみに魔力は見えない血液みたいなものだ。

 意識すると、それが自分の体の中にあって、常に循環していることが何となく分かる。


 これは周囲の大人達の会話を聞いていて知ったのだが、魔力が減ると、体調不良に陥ることもあるらしい。

 貧血みたいな感じだろうか。

 減った量によっては、意識を失うことだってあるし、最悪死んでしまうこともあるという。


 逆に増えると、体調が良くなり気分が高揚する。なんとなく体がぽかぽかと温かくなったような感じらしい。


 なので、魔法を使う際はよく考えないといけない。

 使いすぎてぶっ倒れないよう気をつけなければ。


 女中の美子さんにバレないようにちょっとだけ試しに覚えたばかりの魔法を発動させてみた感じ、使い勝手はかなり良さそうだ。


 まあ思ったより、僕の魔法は地味だったけど。


 でも、派手よりも地味な方がダークヒーロー感がある。


 練習を重ねて早く魔法を物にしたいものだ。


 目指せ、ダークヒーロー!!


 そう自身に意気込みながら、妹と積み木で遊ぶ。

 僕は今、自室で積み木の城を作っていた。手先は器用な方なので、出来栄えは結構悪くないと思う。


「はるはる!」

「だだだ?」

「つみつみ!」

「んだんだ!」


 妹が話しかけてきたので、楽しく会話する。

 と言っても妹はまだちゃんと話せないので、その内容はよく分かっていない。

 なので、僕もよく分からないまま受け答えをする。


 言い忘れていたが、僕には妹がいる。


 僕は双子の兄として生まれた。

 つまり我が家――樫宮家は長男、次男、三男、長女の四兄妹になる。


 末っ子の妹は、よく家族から可愛がられて育っている。


 実際可愛いので、僕もめちゃくちゃ甘やかしている。


「春尋お坊ちゃまと真冬お嬢様は、本当に仲がよろしいのですね」


 僕たちの微笑ましい様子を見て、女中の美子さんがほっこりしている。


 そういえば、まだお互いに喧嘩したこともない。


 まあたとえ妹が思春期になって僕に罵声を浴びせてきたとしても、変わらず存分に甘やかしていく予定だったので喧嘩なんてしないのは当然のことか。


 僕は手に持っていた積み木を美子さんにあげる。

 すると、美子さんはとても嬉しそうな表情で積み木を受け取ってくれた。


 女中の美子さんの中で僕たちの評価は、かなり良かった。


 印象としては手がかからない、大人しい双子だろう。


 妹はとても気性が大人しく、暴れるようなことは一切しない。

 対して僕は、これでも中身は大の大人なのでたとえ暴れたくなっても自制が出来る。時々、「ダークヒーローになりたい!!! ウオウ! ウオッ!? うおおおおおぉぉっっっ!!!!」と突発的な衝動に襲われるが、今のところ全て抑え込むことに成功していた。


 なので、僕も結果的には妹同様に大人しい幼児と言える。


 これでも前世の大学時代には、『就活の現人神』の異名を持っていたのだから、猫被りは大得意なのだ。


「つみつみ、あげあげ」

「ありあり!!」


 そして忘れずに妹にも積み木をあげて、ご機嫌をとっておく。


 このままの調子で、他者に良印象を植え付けていきたい。


 全てこれもダークヒーローになるための下準備であるのだから。


 まあ要はあれをやりたいのだ。


『――嘘!? まさか、あんな虫も殺せないような優しい彼がダークヒーローだなんて!?』


 というあれだ。


 闇落ち展開は結構憧れている。

 やはりダークヒーローには不幸エピソードが重要だからね。


 なので、このまま何事も無ければ僕がダークヒーローになった時、『お金持ちの優しいお坊ちゃんが、不幸に見舞われたことによって闇落ちしてダークヒーローに変身!!』という十分な説得力を持った動機になるだろう。楽しみだ。


 ああ、早くダークヒーローになりたい。


 僕は、積み木でお城を作りながら未来に思い馳せたのだった。



 ♢♢♢



 そして、六歳になった。


 僕は幼稚園を卒業して、晴れて小学生となる。


 猫被りも順調に続けていたので、幼稚園では沢山の友達が出来た。


 園内カースト的に誰にも優しく接する人当たりの良い男子として、中の上くらいの位置にはいたと思う。


 別に僕は陽キャではないし、人付き合いが多いと修行が疎かになってしまうので、正直これくらいの立ち位置で丁度良かった。

 実は我が家が結構な名門らしいけど、僕はただの三男坊だしね。


 小学校でも、この立場をキープしていきたい。


 さて、


「それじゃあ、お家に帰ろうか、冬」

「うん、分かった。帰ろっか、春」


 入学式も終わったので、僕はすくすくと成長してまるで天使みたいな可愛い妹と共に仲良く我が家に帰ることにした。


 授業が始まるのは明日からだ。

 なので、さっさと帰って修行の続きをしたい。


 魔法の練度は、今ではかなりの腕前になったと自負している。


 正直そろそろ、実戦を積んでおいてもいい頃合いかもしれないと思い始めてきていた。


 あ、そうだ。いいことを思い付いた。


 ダンジョン探索をしよう。


 ダンジョン探索にはいずれ行く予定だったし、魔法の扱いに慣れた今となっては行っても特に問題は無いだろう。


 よし、そうしよう。

 思い立ったが吉日だ。何事も早い方がいいに決まっている。


 行くのが、楽しみだ。


 こうして僕は三日後にダンジョン探索を決行することにしたのだった。

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