ずんべらぼうの目玉

伏目しい

ずんべらぼうの目玉

 ふかし煙草の大工のもとに、ずんべらぼうがやって来た。

「まったく忌々しいことだ。小鬼に目玉をもらったが、おれはこんななりだから、置き場所どころかくっつけることもできやしない」

 煙草を投げてふむとうなると、大工はのみを振り上げた。


 こつんと叩いてあいた穴から、まあるい目玉がきょろりとのぞく。

「ああなんと、こんなさいわいがあるものか。生あるうちに、世をおがむことができるとは」


 ひと月後、再び現れたずんべらぼうは、大工の前でおいおい泣いた。

「なんだこれは、これが世か。これほど悲しいものならば、見たくなかった、知りたくなかった。こんなに醜いものにかこまれて、このさき、おれはどう生きていけばいいのだ。見たくなかった、知りたくなかった」


 地面に転がる吸殻の上に、ずんべらぼうの涙が落ちる。

 ふうと紫煙をくゆらせて、大工はゆらりと立ち上がった。のみの刃先がきらりと光る。

「そうさなあ――」


 涙にぬれた目玉が大きく見開かれた。

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ずんべらぼうの目玉 伏目しい @fushime

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